ぐちゃぐちゃ豆腐の麻婆豆腐

竜田川高架線

見た目はともかく、良いんじゃない

 麻婆豆腐を作ろう。

 ごま油をフライパンにぶん投げて、挽肉をそこに叩きつけ、ネギとピーマンを適当に切って入れて、クックドゥの広東風で煮込んだら、腕力で脱水した木綿豆腐を投げ入れて、出来上がり!

 

 やったぜ!

 

「え……何この赤いやつ……」

 

 と、彼女は顔を引きつらせて言う。

 

「麻婆豆腐だが?」

 

「いや、私の知ってる麻婆豆腐はこんなにぐちゃぐちゃしてない。こんなに挽肉多くないし、緑色の……ピーマン? 入ってないし、豆腐も四角いし……」

 

「豆腐がいつでも四角いと思うなかれ。それは先入観というものに過ぎない。スーパーに行けば、楕円形の豆腐だって陳列されていることを知らぬ貴殿では無かろう。それに、角が立たないくらいが丁度良いのだ」

 

 如何に豆腐がぐちゃぐちゃであろうが、四角だろうが丸だろうが、4次元以上に存在する人間が知覚できない形状だろうが、胃袋に入れば結局は同じだ。

 形状が豆腐そのものの機能を決定することはない。

 豆腐が豆腐である以上、それはつまり豆腐なのだ。

 

「包丁で四角く切り揃える必要は無いのだ。パックからフライパンに直接投下したら、木ベラで適当な大きさに切れば十分である。そもそ如何に四角く切ろうが、煮込んで混ぜていたらば、どの道ぐちゃぐちゃになるのは避けられまい。

 料理なんて、手間が掛からなければ掛からないほど良い。

 豆腐がぐちゃぐちゃだからといって、死ぬことはあるまいて。まして豆腐の角にぶつかって死ぬ確率を低減しているのだ」

 

 ぐちゃぐちゃ豆腐こそ、至高である。

 

「その森見登美彦になりきれない力説は要らんから」

 

「これもまた、阿呆の血のしからしむるところなり。つべこべ言わず食すが良いぞ。さすれば、余りの美味さに琵琶湖を裸足で一周するほどである」

 

 彼女は完全に呆れながらも、無言でぐちゃぐちゃの麻婆豆腐を食べ始めた。出てきた感想は「見た目はともかく、良いんじゃない」だった。

 

「それは当然というもの。何せ猫から出汁を取った後に、クックドゥを使ったのだから。クックドゥは美味かろう」

 

「こんなぐちゃぐちゃに作っといて、出汁になった猫とクックドゥに失礼だと思わないの。あと森見登美彦になりきれないそれも飽きた」

 

「それを言ってくれるな。ちょっと気にしてるんだから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐちゃぐちゃ豆腐の麻婆豆腐 竜田川高架線 @koukasen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ