大泣き
今は5時間目の道徳の授業中。
「詐欺には気をつけよう!」というテーマのビデオを見ている。
教室はビデオを見るために暗くなっており、
天井に設置してあったスクリーンが黒板の前に降ろされ、教室の真ん中のプロジェクターから映像が投影されている。
ご飯を食べた後の5時間目、そして部屋が暗いからか、首を落としてウトウトしている生徒が多い。
みんな眠そうな表情で、目を擦りながらビデオを見ている。
そんな中、僕の隣で誰よりも集中し、感情を露わにして見ている人がいた。
「くっ・・・かっ・・・ひぐっ!」
必死に泣き声を押し殺し、手で涙を拭いながらビデオを見ている霧島さん。
え、泣くシーンあった?
僕の疑問とは裏腹に霧島さんの目から涙がボロボロと零れている。
甲子園で負けた高校球児ぐらい泣いている。
ビデオでは、主人公がお風呂に浸かりながら架空請求に悩んでいるシーンが流れている。
それを見て何故か号泣する霧島さん。
「霧島さん、なんで泣いてるの?」
疑問に思った僕は質問した。
「だって・・・こんなにお風呂が小さいんですよっ!これじゃあ足も伸ばせませんっ!なんて劣悪な環境!」
「いや、普通これぐらいのサイズだと思うけど・・・」
なるほど、これが世間知らずのお嬢様か。
まさかこんな理由で泣いているとは。
次はビルの一室で詐欺グループが集まり、何か会議をしているシーン。
それを見て激昂する霧島さん。
「こいつらは何処にいるんですか!私が倒しに行きます!」
「あー、これはビデオだし無理だよ」
霧島さんをドウドウと落ち着かせる。
そして最後、架空請求が解決し、主人公が笑顔で学校に登校するシーン。
「なんて感動するストーリーなんですかっ!これは今まで見た作品の中でも上位に匹敵しますっ!」
いや、ただの教育ビデオだけど。
霧島さんは大泣きしている。
そしてパチパチと大きな拍手をして立ち上がった。
「霧島さん!授業中だよ!?」
興奮している霧島さんに僕の声は届いていない。
すると、霧島さんの大きな拍手の音で寝ていた生徒が大勢起き始めた。
みんな、なんだなんだ、と寝起きの顔で周りをキョロキョロしている。
そして1人で立って拍手をしている霧島さんを見つける。
すると、みんなが訳も分からないまま立ち上がり、霧島さんと同じように拍手を始めた。
霧島さんに影響され、全員でビデオに向けてスタンディングオベーション。
多分、霧島さん以外、この行動の意味は分かっていないだろう。
そして授業終了のチャイムが鳴る。
同時に廊下には他のクラスの生徒が続々と出てきている。
みんな僕たちの教室を2度見するのであった。
何やってるんだこいつらは、という風に。
全校生徒の高嶺の花である品行方正お嬢様が実は面白い人なのは隣の席の僕だけが知っている。 ぺいぺい @peipei_1234
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。全校生徒の高嶺の花である品行方正お嬢様が実は面白い人なのは隣の席の僕だけが知っている。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます