小テスト中の悲劇



 今は小テストの時間中。

みんなが目の前の解答用紙に真剣な面持ちで向かい、黙々と問題を解いていく。


 僕も同じだ。

昨日の夜に一夜漬けで頭に叩き込んだものを思い出し、問題と戦っている。


 今回の小テストは大事なもので、結構成績に響くらしい。

だからみんな真剣にやっている。


 そんな中、カラカラ、と場違いな異音が隣から聞こえてくる。

まあ当然ながら霧島さんが何かやっているのだろうが、今は小テスト中なので見ることができない。


 カラカラ、カラカラ。

繰り返し何かを転がしているような音。


 なんだこの音は。

いつもの授業中ならわかるが、小テスト中にできることなんて限られている。

色々想像するが、答えが浮かばない。


 あーもう!気になって集中できない!

我慢できなくなった僕は、霧島さんの答案用紙を見ないように気をつけ、隣をチラッと見た。


 すると見えたのは、鉛筆を手に持って勢いよく転がしている霧島さんだった。

なるほど、音の正体は鉛筆か。


 多分、鉛筆の端に番号を書いてるんだろう。

それで出た番号を解答用紙に書いてるんだ。


 ・・・いやこの小テスト、記述問題なんだけど。

番号なんて使うところはない。


さすが霧島さんだ、やることが理解不能すぎる。



「そろそろ終わるぞー」


 

 黒板前に立っている先生が言う。

タイムリミットが迫ってくる。

まずい、霧島さんに気を取られ過ぎた。


 急いで自分の解答用紙を埋め始める。

ペンを持ち、問題と向かい直す。

1問解き、2問解き、3問目の答えを書き始めた時だった。


  あ、ここ間違ってる。

書いた答えの間違いに気づき、消しゴムを取ろうとしたが、机の何処にも見当たらなかった。


 やばい!筆箱から消しゴム出すの忘れた!

慌てて何かないかと考えるが、時間が迫ってきていてうまく頭が回らない。


 目の前の答えが間違っているとわかっているのにどうすることもできない。

絶望である。


 大事な小テストでこの1問を逃すのは大きい。

どうすれば・・・そうだ!


 僕は横を向き、ジッと霧島さんを見つめた。

もう小テスト中なんて関係なかった。


 気づいて霧島さん!僕に消しゴムを貸してくれ!

霧島さんが気配を感じるよう、目で必死にアピールする。


 しかし霧島さんは全く気づいてくれない。

問題を全て解き終わったのか、呑気にペン回しをしている。


 

「んんっ!」



 痺れを切らした僕は軽く咳払いをした。

するとそれが功を奏したのか、霧島さんがこちらを向いた。


 よし!

霧島さん、消しゴム貸して!と口パクで訴える。


 霧島さんが眉間に皺を寄せて僕を見ている。

どうやら僕の意図を汲み取ろうとしてくれているようた。


 頼む霧島さん!僕の思いを感じ取ってくれ!

すると思いが伝わったのか、霧島さんが、はっ!とした顔をした。


 そして何やら慌てた様子で準備し始める。

よしよし!上手く伝わったようだ!


 すると僕の机に霧島さんがポイッと、何かを投げてくれた。

カラカラ、と投げたものが転がってくる。


 よかった。

これでひと安心だ。

ん?カラカラ?


 僕の机に転がってきたのは鉛筆だった。

鉛筆!?違うよ!


 これはさっき霧島さんが転がしていた鉛筆だ。

よく見ると鉛筆の先には番号ではなく、ハンバーグ、カレー、唐揚げなどの料理のメニューが書いてあった。

いや、何食べるか決めてたんかい!


 霧島さんに向かってもう一度アピールする。

違うよ霧島さん!消しゴム!消・し・ゴ・ム!

またも、口パクで必死にアピールする。


そんな僕の必死な様子を見た霧島さんが、先程と同じようにはっ、とした顔をする。

そして霧島さんは急いで何かを準備し始めた。


 よかった!気づいてくれたみたいだ。

でも、デジャブすぎて嫌な予感がする。


 すると僕の机に霧島さんが何か投げた。

今度はカラカラという音はしない。


代わりにゴロゴロと何か固形のものが転がってきた。

きた!これは消しゴムだろう。


 そう安心して転がってきたものを手に取ると、それは手のひらサイズの恐竜の模型だった。

霧島さん!なんだよこれ!

僕がそう言おうとしたが、霧島さんが口パクで何か伝えている。


 ん?

霧島さんの口元をよく見て、何を言っているか確認する。



「それ消しゴムです!」



 これ消しゴム!?

恐竜の頭の部分で文字を消してみると、確かに消えた。


 なんでこんな個性的な消しゴム使ってるんだよ!

そうツッコミたかったが、小テスト中できないのであった。


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