消しゴムの裏の願い事



 近頃、学校ではある噂が大流行している。

それは「消しゴムの裏に願い事を書き、使い切ると願いが叶う」という噂だ。

誰が言い出したのかわからないが、ある日を堺に、爆発的にみんながこれをやり始めた。


 

「私、好きな人と話せますようにって書いたら叶ったの!」


「いいな!私はまだ途中!何書いたかは教えない!」



 休み時間になると必ずと言っていいほど、このような会話が聞こえてくる。

もう何回聞いたかわからないぐらい。


 まあそんな僕も消しゴムの裏に願いを書いているんだけどな。

もちろん何を書いたかは秘密だ。


 そして、どうやら霧島さんも消しゴムの裏に何か書いているようだ。

授業中に一瞬だけ、黒いペンで文字が書いてあるのが見えたのだ。


 霧島さんの願いってどんなのだろう。

気になって仕方がなくなった僕は、

授業中など霧島さんが消しゴムを使うタイミングになるとバッ!と霧島さんの方を向くようになっていた。


 しかし消しゴムが手元に隠れ、中々見ることができない。

どうにか消しゴムの裏を見ようと、座ったまま体をクネクネさせる。



「・・・なんですか?」



僕の不審な行動に霧島さんが気づく。



「ああ、気にしないで?」



 気にせず体をクネクネさせる。

それを霧島さんが怪訝な顔で見ている。


 その後も霧島さんが消しゴムを手に取ると、僕はすぐに霧島さんの手元を凝視する。

すると消しゴムの裏に何か書いてあるのが見えた。


 これはっ!

書いてある文字を読もうとした瞬間、霧島さんの手元の消しゴムが隠される。



「あの、友崎さん。さっきから様子がおかしいですが・・・」


「そ、そうかな?」



 これ以上続けると怪しまれそうなので、いや、もう怪しまれているが。

ここで止めておこう。 


 そして数日後。

放課後、準備を終えて帰ろうとした時だった。

ふと霧島さんの机を見ると、筆箱が置いてあったのだ。


 霧島さん、筆箱忘れていったのか?

机の上に置いてある筆箱は口が開いており、中から鉛筆やシャーペンが転がっていた。

そしてその中には消しゴムもある。


 自分の中の悪魔が登場する。

今ここで霧島さんの消しゴムの裏を確認したい。


 教室の生徒は既に少なくなっており、残りの生徒ももうすぐ帰るだろう。

誰もこちらには気づいていない。


 悪魔にそそのかされた僕はサッ!と机の上に転がっていた霧島さんの消しゴムを手に取った。


 ドキドキと高鳴る鼓動。

霧島さんの願い事とはなんだろう。


 罪悪感と何が書いてあるか知れるという興奮でいっぱいだった。

そして手元でゆっくり裏返す。

消しゴムを裏返すとそこに書いてあったのは・・・



「見たな?」



 そう書いてあった。

予想外の文言にドキッ!と体が硬直する。


 するとバン!と後ろから大きな物音が聞こえた。

驚いて振り返ると、後ろの掃除用具入れから霧島さんが戸を蹴って出てきた。



「霧島さん!?」


「やはりそれが目的でしたか・・・」



僕の手元にある消しゴムを見て霧島さんは言った。



「いやこれは、違うんだ!」


「消しゴムの裏に願い事を書くの、流行ってますもんね」



必死に誤魔化そうとするが、霧島さんは全く聞いていない。



「友崎くん、私の願い事が知りたかったんですか?」


「は、はい・・・」



 諦めて謝罪モードに入る。

今の僕は蛇に睨まれた蛙のようになっている。



「まあ友崎くんも魔が刺しただけでしょう。今回は許してあげます」


「え、いいの?」

 


 なんと許してもらえたようだ。

霧島さんは怒っているどころかむしろ、笑顔だ。



「その代わり、条件があります」


「じょ、条件?」



何か嫌な予感がする。



「友崎くんの消しゴムも見せてください」



霧島さんはそう言うと、僕に迫ってきて無理やり僕のカバンを開け始めた。



「そ、それはダメ!」



必死に霧島さんの手を止める。



「ダメってなんですか!友崎くんが先に私のを見たんでしょう!?」


「そうだけど!これは本当にダメなんだって!」


「私にも見る権利はあります!」



 2人の押し問答が続く。

霧島さんの手が筆箱にかかり、消しゴムが取られようとする。

瞬間、僕は消しゴムを奪い取った。



「それを渡しなさい」


「や、やだ!」



 霧島さんが怖い顔でこちらにゆっくり歩いてくる。

ジリジリと教室の端に追い詰められていく。



「だ、誰か!」



 助けを求めるが、もう教室には僕と霧島さん以外に人はいなかった。

そして目の前にはゾンビのように手を前にして迫ってくる霧島さん。

もう逃げ場はない。



「ぐぁー!」



 何故かゾンビのような声をあげた霧島さんが襲いかかってくる。

そして霧島さんに消しゴムが取られる瞬間、

僕は消しゴムを窓から投げた。



「あぁ!」



 霧島さんの声が聞こえる。

窓から投げられた消しゴムが放物線を描いて落ちていく。



「こ、これでどうだ!」



 僕はドヤ顔で霧島さんに宣言した。

一瞬の静寂。


 目の前には怖い顔をする霧島さん。

瞬間、霧島さんは教室の外に走り出した。



「今から取りに行きます!」


「えぇ!?」



 なんて執着心なんだ!

霧島さんを追いかける僕だった。

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