授業参観②


 授業が終わって放課後になる。

教室内、そして廊下は生徒と親の話し声でいっぱいだ。


 もっと手を上げなさいだの、久しぶりに高校生の気分に戻れた授業だの、

生徒と親同士でとても盛り上がっている。


 そんな、人が多く騒がしい教室の中、僕に近寄ってくる人がいた。

霧島さんのお母さんだ。



「あなたが隣の席の友崎くん?」


「あ、はい」



 霧島さんのお母さんは先ほどとは違って笑顔で僕に話しかけた。

そしてよく見るとお母さんの背中に隠れるように霧島さんが顔を覗かせている。



「いつもこの子の面倒を見てくれてありがとうございます」


「え、いやそんな・・・」



 霧島さんのお母さんが深々としたお辞儀と共に言う。

霧島さんの面倒なんて・・・まあ見てるようなもんか。



「この子、家でもあなたの話ばかりするんです。友崎くんが〜って」


「ちがっ!」



 突然のカミングアウトに霧島さんが慌てて止めに入る。

霧島さんはお母さんの前に立ち、お母さんの姿を隠すように手をアワアワと動かしている。

こんなに焦っている霧島さんは初めて見た。 



「え、そうなの?霧島さん」



 僕がそう問うと、霧島さんはシュッ!とお母さんの後ろに隠れた。

背中から少し見える霧島さんの顔は、赤く紅潮していた。 



「この子ったら照れちゃって・・・」



そんなお母さんの言葉に対して何かモゴモゴと反論している。



「嬉しいです。ありがとうございます」



霧島さんのお母さんにお礼を伝える。



「こちらこそ、麗奈に友達がいてよかったです」



 そっか、俺って霧島さんの友達だったんだ。

今までただの隣の席の人間だと思ってた。

・・・嬉しいな。



「麗奈、学校ではどんな感じなんですか?」


 

 突然、霧島さんのお母さんが真剣な顔で近づいてくる。

まあ親だったら自分の子供が学校でどう過ごしてるか気になるよな。



「とても真面目でみんなに好かれてますよ!霧島さんを嫌いな人は誰もいないと思います!」


「そうですか!よかったです!」



ホッと胸を撫で下ろすような表情をするお母さん。



「もっと娘の話を聞かせてください!」



ニコニコとさらに接近してくる霧島さんのお母さん。



「麗奈、先に帰る!」



 すると霧島さんがそう言い、荷物を持って教室を走って出ていく。

霧島さん、お母さんの前で素が出たのか、自分のことを麗奈って呼んでたな。

かわいいな。



「あ、もう!・・・これからも娘をよろしくお願いします」


「こちらこそお願いします」



2人でそう挨拶するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る