魔法使いの弟子とフラスコの中の小人
葛瀬 秋奈
第1話
いきなり師匠が工房に引きこもってから今日で三日目。新しい魔法の研究を始めるとこういうことはよくある。ひどい時には一ヶ月出てこないので、私も特に心配はしない。
そんなわけでいつも通り表稼業の雑貨屋で店番をしていたのだが、ドドッと大きな音が工房から聞こえてきた。続いて珍しく余裕のない顔の師匠が外套を羽織りながらやってきてこう言った。
「出かける。帰りはおそらく夜になるだろうから先に食べていい。悪いが工房の床だけ片付けを頼む。あと……ああ、くれぐれも机の上の箱には触るなよ」
矢継ぎ早にそれだけ言うと師匠は視界から消えてしまった。転移魔法を使うほど急いでいたようで、私は口も挟めなかった。
仕方ないから店は閉めて工房へ向かった。扉を開けると本や書類で足の踏み場もないほどぐちゃぐちゃになっていた。さっきの音は積まれた本が雪崩を起こした音だったらしい。
そっと中へ入り、散乱した紙を丁寧に拾い集めていく。本はわかる範囲で本棚に戻し、書類は用途ごとに分類したところで机上の箱が気にかかった。紙でできた黒い箱に黒い布が被せてある。
あれが師匠の言っていた箱のようだが、やるなと言われれば言われるほど気になってしまうのが人というもの。一瞬の葛藤の後、私は布をめくり中を覗いてしまった。
箱の中には丸底フラスコが一つ、コルク製のフラスコ台で立ててあった。更にそのフラスコの中では白い人のような形の何かがもぞもぞと蠢いていた。直感的にやばいものを見たと気づいて咄嗟に布を元に戻し、見なかったことにした。
しかし、帰ってきて真っ先に工房へ入った師匠には何故かすぐバレて叱られた。私が布をめくったせいで光が入り中のものが死んでしまったという。師匠が見せてくれたフラスコの中には赤と黒のぐちゃぐちゃした塊が入っていた。白かったのにどうしてこんな色になってしまったのかはわからなかった。
(了)
魔法使いの弟子とフラスコの中の小人 葛瀬 秋奈 @4696cat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます