それ、俺の金です
ハスノ アカツキ
それ、俺の金です
「やきそば2つですね、ありがとうございます!」
やきそばとお釣りを受け取り、小銭入れに戻そうとしたときだった。
どん。
「「あ」」
ちゃりんちゃりんちゃりん。
お金を落としてしまった。
「ああ、すみません」
「いえいえ、こちらこそ」
ばら撒かれたお金に手を伸ばす。
落とした金額より多いように感じていると、向こうも手を伸ばしてきた。
向こうも落としてしまったようだ。
何となく緊張してしまう。
ぐちゃぐちゃに混じってしまったお金の内、自分のお金のみを拾う。
最後に100円が残る。
良かった、俺の100円だけ残った。
向こうも落とした金額を把握していたみたいだ。
と、最後の100円に手を伸ばしたときだった。
「「ん?」」
向こうも手を伸ばしていた。
「あれ、数え間違えちゃったんですかねえ。いや、俺はやっぱり足りないみたいですねえ」
右手を100円に伸ばしたまま小銭入れをじゃらじゃら傾けて、中身を確認したアピールをする。
「あれ、でも僕も足りないみたいで。おかしいですね」
向こうも負けじと小銭入れを確認したアピールをする。
その後も周囲を探してみたり、屋台でお釣りの確認をしたり、様々なことをやってみた。
が、どちらも決め手にならない。
これは、じゃんけんか。
と思ったとき。
どさっ。
100円の上に封筒が落ちてきた。
「さっきから見てりゃ、あんたら100円ごときで小せえなあ。この中に10万入ってるから2人で分けな」
振り向くと派手なシャツの男がにやにや俺たちを見ていた。
その見下すような視線を浴びていると、100円で争っているのが馬鹿馬鹿しく思えた。
そして、成金野郎の見せ物となっていたことに、プライドがぐちゃぐちゃに踏み躙られるのを感じた。
「はは、いやいや、別に俺はいいんですけどね」
「いやいや、僕こそ」
俺も向こうも、先程までのギラギラした敵意はどこへやら、100円には一瞥もくれずその場を立ち去った。
■
あー、ドキドキした。
封筒と100円を手に、派手シャツ男は劇場へと向かっていた。
劇団の昼休憩で近くの学園祭に来ていたとき、ちょうどそれが起こったのだ。
100円で争う2人を見付けたときは運命を感じた。
劇団の昼休憩は短いので、ヤクザ役の衣装のまま出てきたこともあり服も派手だ。
偶然持ち合わせた封筒は複数の借用書で少し膨らんでいる。
争う2人はどちらも決め手に欠けていたので、もしかしたらと芝居を打つと案の定2人ともそそくさと立ち去った。
男のプライドなんて、いくらにもならない。
これで3日、いや4日分の食費は浮くぞ。
派手シャツ男は臨時収入にスキップしながら劇場へ戻っていった。
了
それ、俺の金です ハスノ アカツキ @shefiroth7
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