第5話 意識高い系を救いたい①

 ここはカミーユ王国の王都にある就職支援ギルド。

 「情報満載!」「就職まで全面的にサポート!」「即内定求人もあり!」を謳っている。

 今日も適職診断で「吟遊詩人タイプ」と診断された愚か者たちが、安泰な未来を夢見てやってくる。


 終業まで1時間を切った頃、駆け込むようにやってきたのは、ツーブロックの青年だった。


「城付き吟遊詩人の求人があるのを見て来たんですが」


 私は彼をちらりと見上げた。

 正装とカジュアルの中間のような服装。右手に使い捨てのコーヒーカップ、左手に自己啓発系の詩集を抱えている。


 新興の中小ギルドにわんさかいそうなイメージだ。


「ええ、ご紹介できますよ。もちろん、合格は確約できませんが」


「ええ、もちろんです。アポなしで来てしまってすみません。僕はジョブジュ・ヒップスターといいます。どうぞよろしく」


 こちらから促す前に名乗るのはポイントが高い。話し方も落ち着いていて自然だ。ある程度社会経験があるのだろうか。


「ジョブジュさんですね。どうぞおかけください。私は就職支援ギルドのヴェロニカと申します。年齢をお伺いしてもよろしいですか?」


「今年で20歳になりました。こちら名刺です。受け取ってください」


 ジョブジュが胸ポケットから名刺を取り出して、人差し指と中指で挟んで私に突き出した。

 私はやや戸惑いながら、箔押しのされた紙切れを受け取った。


【私立ダークネス大学 ギルド経営学部

 ジョブジュ・ヒップスター(20)


 夢を応援するギルド「ネクストリ」CEO

 ビジネスサークル「ウィズ&ウィズ」プレミアムメンバー・セミオーガナイズメンバー 兼任

 職業 インフルエンサー


 短期目標 毎月本を10冊読むこと!

 長期目標 何者かになること!

 座右の銘  全ての出会いに感謝】


 細っこい文字を一度流し読みし、私は首をかしげてもう一度名刺を読んだ。

 読めはするのだが、目が滑って内容がうまく頭に入ってこない。


 いろいろと質問したいことはあったが、ギルド仕舞いの時間が近づいているので、とりあえず私は名刺をテーブルに置き、まじないを展開して魔法陣から麻紙を取り出した。


【ジョブジュ・ヒップスター(20)

 私立ダークネス大学 ギルド経営学部 在学

 SJT模試:670点

 適職診断:経営者タイプ】


 名刺に書いてあることとだいたい同じだ。

 

 「私立ダークネス大学」はダークネス社が運営している教育機関で、入学難易度は中の上くらい。

 SJT模試の点数はまずまずといったところ。そもそも模試を受けない求職者も多くいる中、ちゃんと受験してきてくれただけでえらいと思う。


「何点かお伺いしたいのですが」


 私が言うと、ジョブジュは白い歯を見せて「なんなりと」と答えた。


「名刺には『CEO』とありましたが、学生起業されたのですか?」


「はい、まだ小さなギルドではありますが、今後大きくしていく予定です」


「どんな事業を?」


「独自のスキームによってインフルエンサーを夢見るカスタマーの未来にコミットする、ファクトベースかつサステナブルなビジネススタイルでサクセスストーリーを提供しています」


「ちょ、ちょっと待ってください。なんですって?」


「だから、独自のスキームによってインフルエンサーを――」


 私は唖然としながら彼のよく回る舌を眺めた。

 このジョブジュという求職者、もしかして……。



(つづく)

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「吟遊詩人タイプ」を救いたい ぬるま湯労働組合 @trytri

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