結婚相手が、「騎士団長のような逞しい殿方が良いですわね」と、言っていたので。

リフレイト

政略結婚した妻が離婚しようとしています

 苦節3年。師団長から、念願の副騎士団長になった俺は、愛する妻の元に急いだ。


 学園で偶然立ち聞きした彼女の理想の男になるべく、日夜体を鍛えあげ、ひょろひょろだった体は逞しくなった。まだまだ彼女の理想であるガチムチ騎士団長ほどの肉体には程遠い。だが、脇腹さえも腹筋が割れた今、ようやく妻となった彼女と、堂々と夫婦の営みが出来ると、期待と喜びに満ち溢れた逸る心の赴くままに愛の巣に向かう。

 ドアを開け、いつものように「ただいま」というと、部屋が暗くシーンとしている。普段よりも早い帰宅時間だから、妻が出迎えの準備をしていないのだろうと部屋に向かった。

 そっとドアを開けると、そこには、大きなトランクケースを必死に隠そうとしている彼女の後姿があった。


「どうして今日に限って帰りが早いの? どうしよう、これでは家を出られないわ。実家に帰ってから、離婚の手続きをしようと思っていたのに……」


 離婚という、有り得ない言葉が彼女から聞こえた気がする。ぐらりと体が揺れ、フローリングが大きくギシリと音を立てた。


 到底許容できない言葉の意味を知った時、先ほどまでとは真逆の負の感情が溢れ出る。ぐちゃぐちゃになったこの気持ちを、どう伝えて良いのかわからない。彼女を逃がしたくなくて、音に気付いて振り返り驚愕の表情を浮かべている彼女をかき抱いた。


 離婚しようとしている理由を聞き、俺は目と耳を疑った。


 彼女の理想の男になるべく、今日まで指一本触れなかった。一度でもその柔肌に触れれば、ひょろボディで彼女と夜を過ごしただろう。

 今日までがまんしていたのだが、それが彼女には屈辱的で、相手にされなかった悲しみでどうにかなりそうだったらしい。悩み続けて、家を出て行くつもりだったようだ。


 これまで足りなかった、言葉と愛を十二分に交わす。一夜明けた今、幸せそうに眠る彼女の頬にそっとキスを落したのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

結婚相手が、「騎士団長のような逞しい殿方が良いですわね」と、言っていたので。 リフレイト @rihureito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ