第16話:獅子奮迅
メストン連合王国暦385年9月4日:アリギエーリ王国軍城
結局私は自分の夢、欲望を優先しました。
エンツォとは婚約しませんでした。
ただ、他の誰とも婚約しませんでしたから、僅かな希望は残してあげたので、それを生かすも殺すもエンツォ次第です。
メストン王国はメストン連合王国に国名を変えましたが、国歴は継承しました。
主導するのはマリーニ王国のマリーニ王家になります。
私はアリギエーリ王国の女王に戴冠しました。
少し恥ずかしいですが、エレナ・マリーニ王家を名乗る事になります。
ですがそれは、私の子供が戴冠するまでの事です。
子供が戴冠すると、父系の王朝に代わります。
メストン王国を治めていたアンゼルモ王家は、ウィッリウス王国を名乗りました。
王家の名前も、正式なメストン・アンゼルモ・ウィッリウス王家から、アンゼルモ・ウィッリウス王家と名乗りを変えました。
フェラーリ侯爵家とフェレスタ侯爵家は公爵に陞爵し、公国を建国しました。
マリーニ王家は、2つの王国と2つの公国を属国にしています。
これで全て丸く収まればよかったのですが、文句を言う者がいたのです。
シルキン宮中伯とコクラン男爵の亡命を受け入れたレイヴンズワース王国が、マリーニ家の謀叛による王家交代は無効だと侵攻してきたのです。
しかも、何処から調達してきたのか分かりませんが、ダンテとヴィオラの遺児だと言う男の子を奉じています。
何とも馬鹿な事をしたものです。
キリバス教が国よりも権威を持っているのに、愚かで危険な行為です。
教会に正面から喧嘩を売る事になるのですから。
キリバス教の教義では、結婚前に生まれた私生児は神の祝福が与えられません。
不義の子はもちろん、側室や愛人の子も祝福が与えられません。
何が言いたいかというと、公式な職には付けないのです。
まして王位になど絶対につけません。
教会が認めない者は戴冠できない世界になっているのです。
教会の権威のお陰で無用な争いが少なくなりましたが、弊害も大きいです。
側室や愛人が認められないばかりか、離婚も認められません。
その所為で、王侯貴族の断絶が増えています。
全く抜け道がないわけではありませんが、とても危険な行為です。
父上のように上手くやれる方は滅多にいません。
「エレナ女王陛下、敵軍が動くようでございます」
色々と埒もない事を考えていると、エンツォが声をかけてきました。
騎士団1000兵を率いての援軍です。
この短期間に身分が逆転してしまいました。
真直ぐな熱い視線を向けてくれます。
まだまだ私よりも弱いのですが、猛訓練に喰らいついてきます。
それこそ倒れるまで強くなろうと頑張るのです。
「援軍の方々には堅く陣地を守ってもらいます。
私は親衛隊を率いて敵を粉砕します」
「私も連れて行ってください!」
「王子の軍には遊撃を任せたいのです」
「陛下、軍は騎士団長に任せた方が上手く指揮してくれます。
私を護衛騎士と共にお連れください!」
「分かりました、ですが、命の保証はしませんよ」
「覚悟の上でございます」
私はエンツォを直卒軍に加えました。
私の親衛騎士隊よりは見劣りしますが、仕方ありません。
父上や兄上達が、私のために損得抜きで集めてくれた巨躯を誇る軍馬など、近隣諸国の何処を探してもいません。
フルプレートアーマーも馬鎧も、南北両大陸1の鍛冶国家から取り寄せた逸品で、並の弓や槍では傷1つ付けられません。
「母国の興亡はこの1戦にかかっています。
誇りと名誉にかけて戦いなさい」
「「「「「おう!」」」」
私の率いる親衛騎士隊500騎が怒涛の勢いで進みます。
敵が騎兵歩兵併せて3万を号する大軍であろうと、微塵も畏れません。
3万とは言っていても、実戦力は1万もいないからです。
正規の騎士や徒士は3000もいればいい方です。
傭兵や冒険者が5000程度いますが、不利になれば直ぐに逃げます。
強制徴募兵の中で戦う気でいるのは、よほどの物好き2000程度です。
多くの農民や都市住民は、生き残る事だけを考えています。
指揮官級を殺してしまえば、総崩れになって逃げていきます。
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
敵の騎兵部隊を鎧袖一触で粉砕しました。
普通なら人質を取って身代金を稼ぐのですが、今回は違います。
お金よりもレイヴンズワース王国を滅ぼす事が目的です。
参戦している貴族士族の当主や跡取りを無駄死にさせたカルプルニウス王家は、国内貴族士族からの信望を失います。
教会の教義を無視したので、教会から破門されるかもしれません。
そうなれば、我が国だけでなく、他の国々からも狙われます。
上手く立ち回れば、我が国に接する領地を併呑する事も不可能ではありません。
敵騎兵部隊を粉砕した後は、弓隊を蹂躙します。
矢を射掛けてきますが、全く通用しません。
弓隊の後は徒士の槍隊が相手です。
パイクを使った密集隊形を相手にするなら危険なのですが、まだこの世界にはそのような戦法がないようです。
「これ以上抵抗するなら、平民であろうと容赦せずに殺します!」
私がそういうと、親衛騎士達の内100が一斉に騎射しました。
残りの400騎が、敵陣地を迂回して後ろに回り込もうとしました。
「ウワァアアアアア!」
「逃げろ、逃げるんだ!」
「ひゃあアアアア」
「殺さないでくれ!」
強制徴募された平民の心は完全に打ち砕かれたようです。
止める下級指揮官を殺してでも逃げていきます。
「エンツォ王子、敵の王城まで追撃しますよ。
ついて来られますか?」
「命ある限り、この世の果てまでご一緒させていただきます」
しかたありません、私よりも強い漢を望むのは贅沢過ぎたのかもしれません。
年下の弱い男性を囲うくらいでないと、女王など務まらないのかもしれません。
頑張って妥協できるくらいは強くなって欲しいものです。
私が徹底的に鍛えるしかないのでしょうね。
愛人を取っ替え引っ替えするのは趣味ではありませんから。
ざまぁの嵐 克全 @dokatu
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