第11話 とんでもない茶番
俺の前方には恐らくとんでもない強敵と思われる蝶がいる。さて、ここで奇襲を仕掛けて一匹減らすか、一目散に逃げるか……前者は決まればEXPとGが手に入る上に遭遇率を低められる。(なお、リポップがない場合だが)後者は途中で気づかれさえしなければ命の危険は一切ない。さあ、どうするか。
俺の予想が正しければあの蝶は毒を持っているはずだ。というかあの見た目で毒を持っていなければとんでもない詐欺だ。しかし、蝶故に体は脆そうだな。ここはゲームではなく現実だ。部位破壊だってあるし即死させることだって可能だ。
それによく考えればスライムの毒がとんでもない弱さだったんだ。蝶の毒だってそれなりに弱い可能性もないか?懸念があるとすれば俺に解毒の術がないことだが……ショップに解毒薬とかないか?今は蝶から目を離せないから確認はできないが。
「またとない絶好のチャンス……ええい、ままよ!」
俺は蝶に気づかれないようしゃがみながら距離を詰めていく。焦るな。ゆっくりだ。ゆっくり行けばいい。作戦いのちだいじにかつ確実に殺すだ。音を立てぬように、花に隠れていく。距離が近づくごとに剣を握る手が汗を孕む。心臓の音がドクドクとうるさい。相手に聞こえてるんじゃないかと錯覚するほどに耳の中で響いている。
蝶まであと数メートル。恐怖からか、緊張からか体が震えている。息が荒くなっている気がする。落ち着け俺。俺はできる。あいつは絶対に気づかない。大丈夫だ。そうやって自分自身に言い聞かせる
・ドキドキしてきた
・頼む。うまくいってくれ!
・がんばれ
・いけええええ!
まだだ。もう少し。剣の間合いに入るまでだ。あと一歩、いや二歩。……ここだ!
「ふっ!」
俺は素早く立ち上がり、背中を見せている蝶に向かって横薙ぎに剣を振り払った。しかし、俺の剣は空を切った。直前で気づかれ避けられてしまったのだ。くそっ!しくじった!しかし、ここで蝶のモンスターは思わぬ行動に出た。
こちらに隙だらけな背中を見せて飛んでいくのだ。
「逃げた!?」
まさかの逃亡である。しかも何もせずに一目散にだ。もしや、あの蝶は毒を持っていないのか?いや、だから何だ。モンスターであることに変わりはない。隙を晒して逃げている今がチャンス!
「逃がすか!」
俺は花に足を取られながらも必死に追いかける。もちろん警戒も怠らない。他にモンスターらしき影が見えないか注意している。あの蝶が罠にかけようとしている可能性もあるからな。そもそもそんな知性があるのか?いや、決めつけるのよくないな。
蝶はひらひらと舞いながら俺から逃げる。体がでかいから重くて高度を上げられないのか?だとしたら馬鹿な話だな。進化する方向が間違ってるんじゃないか?
「おらっ!」
・テロリッ
・ミス!
・ちゃんと当てろー
・回避率高いモンスターだったか
・蝶って回避率高いのか……?
・ま、唯斗の命中率が低いんやろーな
・まだレベル2なんだから見逃してやろーや
当たらねえ!ひらひらしやがって!むかつく!せめて羽にでも当たれば追い詰められるのに!剣を持ちながらじゃあ追いつけない。どうすればいい。せめて離れている相手を攻撃する手段があれば……あ
やばい……すっかり忘れてた。俺には魔法があるじゃないか!何でこんな大事なことを忘れてたんだ俺!……全然使ってなかったからか。リシアに向けた暴発と、薪に火をつける時しか使わなかったもんな。そりゃ忘れるわ。
さて、自分への言い訳はこのくらいにして、覚悟しろよクソ蝶。その隙だらけのでかい胴体に風穴開けてやるよ。想像するのは剣。宙に浮き、俺の意のままに動く刃。すると、体の中から何かが失われていく感覚があった。うへぇ、これはなかなか慣れそうにないな。俺の右を見るとそこには白い剣が刃先を前方にいる蝶に向けて佇んでいる。
・魔法だ!
・忘れてた!
・火起こししか出番がなかった魔法さんじゃないか
・これであの蝶も一刺しや!
・いや、あれってただの蝶じゃないか?『kou』
・え?
・は?知ったかすんな。今日地球で初めて見られる種だぞ
・まあ、俺は異世界にいた時期があったからな『kou』
・kwsk
・え?
剣を持っていない左腕を振りかぶり、魔法でできた剣がまっすぐ飛んでいくのを想像して振り下ろす!
「これで終わりだ!」
死ねやクソ蝶が!ものすごい速さで飛んで行った剣は見事に蝶の胴体を貫き、風穴を開けた。貫かれた蝶は生命活動を停止し、地面に墜落した。ズザアアアと大分重そうなものが引きずられてるような音がした。でかかったもんなあの蝶。
さてさて、経験値はどれほど入ったかな?25ほど入っていればありがたいんだが……
_________________________________________
中村唯斗 ▼ショップを開く
EXP 0/200
所持金 0G
スキル
魔法
危機感知
恐怖緩和
視聴人数 ▼コメントを開く
385190人
_________________________________________
……え?
「経験値が増えてない……?」
瞬間、俺のまるで役に立たない脳がフル回転した。経験値も金ももらえていない。そこから導き出される答えは……
「モンスターじゃねぇのかよ!」
ふざけんな!ただのクソでかい蝶かよ!
・ちょっとうるさいよ
・ふむそれで?
・いや、さすがにこれ以上喋ったら消されてしまう『kou』
・なら仕方なし
・とりあえず、お前の話を信じるわ
「何喋ってんだお前ら?」
・何でもないよ
・唯斗君は知らなくていいことだよ
・探索ヨロ
知らないうちに仲間外れにされてるんだけど
__________
お読みいただきありがとうございます。作者です。
この小説は一応完結までの道筋は考えているのですが、何分見切り発車だったものでストックなど存在しません。ですので不定期更新となります。どうか根気強くお付き合いいただければと思います
迷宮探索者に選ばれたのは、俺でした。〜全世界で絶賛配信中!?〜 彼方しょーは @tuuuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。迷宮探索者に選ばれたのは、俺でした。〜全世界で絶賛配信中!?〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます