コオロギは鳴かない

押見五六三

全1話

ここはハワイのある島。

とても温かいある島。

近くに煙々けむけむ火山も見える、見える。

ここに住むコオロギ達は実に賢く、逞しい。

どんな困難も乗り越えてしまう知恵と勇気を持ってピョンピョンしている。


「コオ長!!またお見合いの場に奴等が!!」

だにぃッ!?」


彼等は最近起こる重大事に悩まされていたんだ。

それはハエ達に、お見合いをぶっ壊される事だ。


彼等の雄は盛大にラブソングを歌う。

雌の気を引く為、恋する為。

彼等は真夜中に活動するので、普段は暗くてお互いの居場所が分からない。

でも歌えば居場所も分かっちゃう。

ラブソングは「ここに居るよ」の知らせでも有るんだ。

けど、そのラブソングは悪いハエ達も呼び寄せてしまう。

そしてハエ達はコオロギのお見合いをメチャクチャにしてしまう。

イチャイチャのコオロギ達にヤキモチをやいてるのかな。

お見合いを潰されたコオロギは結婚出来ず、どんどんどんどん少子化が進んでいく。


「コオ長!このまま僕達は結婚が出来ず、滅んじょうんでしょうか?」

「……大丈夫。何か手を考える」


コオロギの長は考えながらピョンピョンする。

歌を歌わないとお見合いは出来ない。

でも歌うとハエに見つかり、邪魔される。

どうすれば良いのか分からなかった。


コオロギの長は、いつの間にか溶岩の地に来ていた。

そこは火山のドロドロ溶岩が地面を台無しにした為、草木どころか何の生物も住めない土地だ。

あいつを除いてね。


「ウヒニネ!居るか?」

「よう!久しぶりだなコオ長」


ウヒニネはヨウガンコオロギだ。

溶岩の地に住んでる生き物は、世界中探しても彼しかいない。

とてもとても逞しい。

そんな彼にコオロギの長はアドバイスを聞きに来たよ。


「どうすれば良いだろう?我々はこの地を去るしか無いのだろうか?」

「おいおい、諦めるなよ。俺達コオロギ族は『鳴いても泣き言は言わない』だろ?」

「でも鳴いたら見つかる」

「なら鳴くのを止めればいい」

「鳴くのを止める?我々はコオロギだぞ!」

「俺なんか鳴くのを、とっくに止めてるよ」

「なるほど。それもそうだな。鳴くのを止めるか……」


コオロギの長は良い考えが閃き、ヨウガンコオロギに礼を言うと、ピョンピョンと仲間の雄達の元に戻ってこう言った。


「皆、よく聞け!真夜中のお見合いには我だけが歌う!そうしたら雌達は全員、我の元に集まるだろう。集まったらコッソリ別の広場に連れてって、そこで集団見合いをしてくれ!」

「コオ長!そんな事をすればコオ長だけがハエに虐められます」

「いいんだ。我が囮に成る。いいか、皆は決して鳴くなよ」

「コオ長!!」

「泣くんじゃない。そして絶対に鳴くなよ」


こうしてハワイのコオロギ達は鳴くのを止めた。

囮の者以外は歌を歌わなく成ったのだ。

沢山子孫を残す為にね。


そんな彼等に新たな問題が発生。


「コオ長!!人間が未来の食料問題解決の為に、コオロギを食べるよう推進してるようです!!」

だにぃッ!?」

「何でも我々には筋肉を作るのに必要なタンパク質が抱負で、鳥や豚よりもコストが安くすむんだとか」


コオロギの長は良い案が無いか思案中、思案中。

その間、他のコオロギ達はパニックに成ってピョンピョンした。


「こ、この島にも筋肉マニアが押し寄せて来るのか?」

「どうする?どうする?人間は灯りを持っているから暗闇で鳴かなくても発見されるよ」

「もう駄目だ!!人間に目を付けられたらお終いだ!絶滅するしか無いんだ!!」


皆が右往左往とピョンピョンする中、コオ長は冷静にある作戦を思いつく。


「皆、聞くんだ!イルカは頭が良いから食べられない!猫は可愛いから食べられない!」

「どういう事ですコオ長?」

「イルカや猫を食べようとすると、人間の間で『食べるな!』と反対運動が起こるんだ。我らコオロギ族も賢く、逞しく、そして可愛い。それを人間にアピールするんだ。すると人間達の間で『コオロギを食べるな』という反対運動が起こる」

「なるほど!」


コオ長は我ながら良い案だと思って長い触覚を撫でて得意顔をしたよ。

そこに又、新しい知らせが来たんだ。


「コオ長!人間の間でコオロギ食を止めろという反対運動が起こってます」

「おお!人間の中には我々が賢くて可愛いのを知っている者が居たのか?」

「それが……『あんなグロテスクで不味そうな物、食えるか!』という事で反対してるそうです」

だにぃッ!?」



ハワイに住むコオロギ達は、実に賢く、逞しい。

だから鳴かないし、泣かないんだ。

どんな困難も乗り越えてしまう知恵と勇気を持って今日もピョンピョンしているよ。


〈おしまい〉


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