神からの贈り物

みやま たつむ

路上で絵を描く者の話

 あるところに一人の画家がいた。

 その画家は、筆を一本だけ持っていた。

 画家が持つ筆の筆先は、不思議な色をしている。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色が混ざり合う事なく、ぐちゃぐちゃになっていた。

 画家は七色の筆を大切に持ち歩き、気が向くままに歩いては、道路や、外壁、電信柱、看板……いろいろな所に絵を描いて回った。

 絵の具や水を使わずに描かれるその線は、画家が思った色を自由に表現していた。

 その姿は落書きをしているように見え、近くに住んでいる住人や、巡回をしている警察官に追われるが、誰一人彼を捕まえる事はできなかった。

 途中描きの絵は不思議な事に何もせずとも画家が離れると消えていた。




 ただ、時には画家が最後まで絵を描く事ができる時があった。

 その絵は一本の不思議な筆で描かれているとは思えないほどカラフルだった。

 最初は見つけられる度に落書きだからと消されていたが、途中から自分だけの物にするために消されるようになった。


「あの画家が描いた絵を見てから腰の調子がいいわい」


 ある老人がそういうと、画家が描いた絵を探そうと老人たちが出歩くようになった。


「テストの山が当たっていい点取れた!」


 ある男子高校生がそういうと、学生が通学路を守らずに帰り、問題になった。

 その他にも、大小さまざまな良い事が起こると、人々がその画家に興味を持つのにも時間がかからなかった。


「今日はどこで絵を描くんですか?」

「色紙に絵を描いてくれませんか?」

「金ならいくらでも払うから今すぐ絵を描いてくれ!」

「ぜひ取材をさせてください。なぜ路上に絵を描かれるんですか?」


 老若男女問わず、画家を追いかけまわすが、その画家は気にした様子もなく飄々と歩き続ける。

 そして、朝も夜も所構わず絵を描いて回った。

 ただ、それも長くは続かない。

 一人の男が画家の持っている不思議な筆に目を付け、「きっとその筆に何か不思議な力が宿っているに違いない」と、画家から筆をひったくり、その場から走って逃げてしまったのだ。

 その男を大勢の人が追いかけていく。

 だが、画家は追いかけようとはせずに、涙を流しその場で座り込んでいた。

 小さな女の子がそんな画家を心配そうに見て、声をかける。


「おじちゃん、大丈夫?」

「……ああ、もう大丈夫。僕の役目は今さっき終わったからね。きっと次は彼が、神の願いを叶えるために、歩き回るだろうからね」

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神からの贈り物 みやま たつむ @miyama_tatumu

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