真実は、絡まった糸のように

二枚貝

名探偵のぐちゃぐちゃした名推理

 ――というわけで。今回の事件の犯人は貴方です、萬陵院満春さん。

 まず、あなたはご自身の甥で、弟でもある菊白さん《あきしろ》を、崖から突き落として殺した。実の姉と父との間に生まれた不義の子の存在が許せなかったのか、あるいは家督の相続権を渡したくなかったのか……まあ、それはどうでもいい。



 次に貴方は、母親である小雛こひなさんを屋敷の離れに呼び出し、首を絞めて殺害した。彼女は、貴方が萬陵院の当主の子ではないことを知る唯一の存在だ、生きていられては邪魔になる、そう考えたのでしょうね。

 母親殺しを成した後、証拠隠滅のために貴方は小雛さんの私室へ入って日記を読み漁り、ここで衝撃の事実を知ります――自分の実の父親は、萬陵院の当主・冬明ふゆあきさんの腹違いの弟である桜理おうりさんだということを。



 貴方は萬陵院の血を引いている。貴方にはれっきとした家督相続の権利があるということです。

 それはつまり、今まで手にかけた菊白さんと小雛さん、あの二人を殺さずとも、貴方は萬陵院の家を正当に継ぐことはできた。



 その事実を知り、動揺した貴方は、致命的なミスを犯します。菊白さんが亡くなった時の不在を証明したアリバイが嘘だということを、分家当主夫人の萬陵院椿さんに漏らしてしまったのです。

 だから、貴方は必要に迫られて椿さんも殺さなければいけなくなった。大量の睡眠薬を飲ませて風呂に放り込むという方法でね。





「な、なんですの、これは――」

 萬陵院秋里、この名探偵を呼び寄せ事件の解決を依頼した張本人は、困惑と動揺を隠せぬ声で言った。

「確かに事件は解決しましたわ、でも、これでは――――すべてが、ぐちゃぐちゃではありませんか!」


「謎を解くとはそういうものです」

 探偵は莞爾として答えた。

「知りたい謎だけ解きたい、知りたくないことは謎のまま、闇に葬ったままでおきたい――そのようなことは、謎解きの神は許さないのですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真実は、絡まった糸のように 二枚貝 @ShijimiH

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説