人生スッキリ片づけ代行サービス

折原さゆみ

第1話

「これ、さすがにやばいよね」


 凛子(りんこ)は、自らの部屋を見わたして溜息を吐く。部屋の床という床に置かれたゴミや衣服などで、足の踏み場もないほどぐちゃぐちゃに部屋は汚れていた。


 片月凛子(かたつきりんこ)は、幼いころから片づけが苦手だった。それは社会人になって独り暮らしを始めても変わることはなかった。しかし、このままでは部屋はゴミにあふれて生活が出来なくなってしまう。


 危機感を覚えた凛子は、スマホの広告で流れてきた「人生スッキリ片づけ代行サービス」というサービスを申し込んでみることにした。


「かしこまりました」


 広告で見たその会社は、ハウスクリーニングや家事代行などを専門に行っていた。電話でヒアリングを行うとすぐに片づけの日程が組まれた。


 一週間後、女性スタッフ二人によって凛子の部屋は見違えるほどきれいになった。今までベッドに身体を丸めて寝ていた生活が嘘のようだ。


「では、片付けの秘訣を教えていきます」


 凛子は部屋の片づけ代行以外にも、会社が行う片付けレッスンという講座も受講することにした。全三回で行われるレッスンはオンラインで行われた。



「オプションを試してみませんか?」


 三回の講座が終了したタイミングで、スタッフから新たなサービスを紹介された。サービスに応じたお金を払えば、人生がさらにスッキリするというものだった。部屋が片付き、レッスンの効果もあって、半年がたった今でも汚部屋になっていない。今までのぐちゃぐちゃとした部屋ではなく、きれいに片付いた部屋に帰るのは気分がよい。


 これだけでも人生がスッキリするほどだったのに、これ以上何があるのだろうか。気になった凛子は話だけでも聞くことにした。


 三か月後、凛子の心はスッキリと晴れ渡っていた。凛子の人生をぐちゃぐちゃにしてきた元凶がこの世からいなくなった。オプションの依頼料はこのためだったのか。納得の金額だった。


 凛子の母親はシングルマザーで娘一人を育て上げた。その反動か、社会人になるとその立場が一転、母親が凛子に金をせびるようになった。凛子はそれが嫌でたまらなかった。ひとり親だったこともあり、苦労を掛けたとは思っているが、それが娘にお金をせびってよい理由にはならない。


 母親は同棲相手の男性に殺された。死体は顔の原型が崩れるほど殴られ、骨もつぶれ、ぐちゃぐちゃだったらしい。犯人となった男は母親の近くで首をつって自殺。発見者は、片付け代行サービスのスタッフで、母親から指定された日に家をうかがった時、二人の遺体を見つけたようだ。



「あなたの人生のぐちゃぐちゃしたしがらみ、『人生スッキリ片づけ代行サービス』で解決しませんか」


 そのサービスのオプションを利用する人間は後を絶たない。この会社はきっと、人々のぐちゃぐちゃした感情がなくならない限り、続いていくだろう。すっきりした気分で人生を生きていきたいと思うのは誰もが考えることで、それを止められるものはいないのだから。

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人生スッキリ片づけ代行サービス 折原さゆみ @orihara192

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