第15話 炸裂!超魔導砲。

——ガキィィンッ!


ブレイドが降った剣は、絶えず演奏を続けていた青ラッパを粉砕した。ラッパ自体、金属製でかなりの耐久値を誇るハズだが、ひと振りで容易く金属片に変えてしまった。


そしてモブ兵士達の進行。これが厄介を極める。


タダのモブなら問題はない。目の前に立ち塞がるのは、限界まで戦闘能力を引き上げられた、自信に満ちた無敵のモブ兵士たちだ。


恐れることを知らず、我こそは手柄をと血の気が滾っている。


「ウジャウジャと鬱陶しい雑魚どもが。目障りだ、まとめて潰してやる」


舌打ちと一緒に指を動かすロヴァノフ。

すぐに魔法が発動し、戦場に動きが起こった。


地面が振動してボコボコと隆起したかと思うと、地中から巨大な装置が出現し、モブ兵士たちを包囲する。兵士たちを一網打尽にしたのは、巨大な万力。


両端から鉄製の巨大な壁が押し迫り、包囲された王国兵達を追い込んでいく。



「ア、アレが盗賊ロヴァノフの処刑魔法……。奴が『処刑人ロヴァノフ』と呼ばれる所以だ……」


「慌てるな!我々には天使様のご加護がついているだろう!押し返せ!」


「おおぉぉおおおおお!!!」



ロヴァノフは、万力を召喚したことで雑兵たちを一挙に片付けることができるとタカを括っていた。


しかし、それは大きな誤算だった。

ミーアの強化魔法の効果を、見誤っていたのだ。


「いくぞぉッ!押せええええええ!!!」

「うおおおおおおおおッ!!!」


万力の力に一斉に抗うと、まるで容赦のなかった鉄の壁に一筋の亀裂が入った。


それが彼らの闘志にさらに火を灯し、遂には地獄の万力を粉砕して見せたのだ。


「マジかYo……ロヴァの魔法が破られるだって?」


「マット、撤退の用意をしておけ。あの女……俺達が思っているよりヤバい」


「OK ロヴァ、背に腹はかえられないからNa!」



2人が振り返って退路を確認しようとしたところ、そこには既に剣を構えているブレイドが先回りしていた。


いつの間に背後を取られたのか、それすら分からなかった。


縦に振り下ろされた剣閃がロヴァノフを狙う。


だが、流石は王国中に名を轟かせている冒険者。


不意打ちとは言え、しっかりと急所を避けて受け流す程度は間に合った。


黒い袖を裂いて少し腕に傷を負ったものの、アドレナリンが放出されている今なら痛みのうちに入らない。


「僕の攻撃をまぐれで避けたみたいだが、次はない!必ずその邪悪に取り憑かれた身体、ぶった斬ってくれるわ!」


ブレイドが流れるような動作で無慈悲にも次の攻撃に移る。


絶対絶命。万事休す。残された選択肢は、無抵抗に斬られるのみ。


そう思った矢先の出来事だった。


ロヴァノフの目に映る彼の動きが、突然スロウに見えたのだ。


死期に見えると言われる走馬灯か。とにかく延命の希望が見えた。



(なんだ?突然動きにキレがなくなった。油断しているのか?この程度の攻撃、造作もない)



ブレイドの攻撃を悠々と躱し、逆にガラガラの脇腹に強烈な拳をお見舞いするロヴァノフ。



「ふッ……ふぐぅ!?」



拳の威力で吹き飛ばされたブレイドは、情けない声とともに岩壁に鎧を叩きつける。


まるで状況が整理できていない。なぜ、急に反撃を許してしまったのか。


自陣を振り返ったブレイドが、そこでようやくカラクリに気づいた。



「……申し訳ございません。ブレイド様……私の魔力が尽きてしまいました」



萎びたように地面に座り込んだミーア。

彼女が自己申告したように、王国軍にかけた能力上昇の魔法は効力はほとんど切れてしまっていた。


『天使様』として昼夜労働者たちの体力を回復させ、王国兵やブレイドに強力な魔法をかける。

少ない睡眠時間と乏しい栄養しか得られない食事では、完全に彼女のキャパシティを超えていた。


しかしブレイドは彼女への酷い待遇を棚に上げ、自身が無様に殴り飛ばされたことへの恨みをぶつけるのだった。



「こんンのクソアマがァッ!大事な時にヘマしやがって!バフかけることしか能がないカスの分際でェッ!この僕に恥かかせやがって!ああッ!?」



ブレイドは血の滲んだ拳で、無抵抗な彼女を何度も何度も殴りつけた。



「もっ、申し訳ございませんっ!」


「謝って済む問題じゃないんだよッ!お前のような奴隷に、何の為に高額な金叩いて買い付けてきたと思ってるんだ!もう1度魔法をかけるんだッ!最悪、君が死んだって構わない!」


「できません……魔力が枯渇していてなんの魔法も使えません」


「使えねえ奴隷だなァッ!後で処分してやる!」



怒り狂ったブレイドは無線機を取り出して怒鳴り声で命令した。



「おい!『超魔導砲』を起動させろ!悪党どもを始末する、徹底的にだ」


『ブ、ブレイド様、しかし!』


「どいつもこいつも、僕の言うことが聞けないのか!この鉱山を仕切っているのはこの僕だぞ!」


『し、失礼いたしました!すぐに作動の準備を!』


荒々しい口調で通信を切断したブレイド。

部下を招集して手招きし、その場にいる部下達に撤退を命じる。


「あのネズミどもを標的に『超魔導砲』を撃つ。僕たちは撤退しよう、巻き込まれては困るからね」


「えっ、『超魔導砲』ですか?アレは発動に膨大な魔晄石を必要としますよ!そんなすぐに消費してしまっては……え?」


ブレイドの命令に異議を申し立てた王国兵の1人だったが、彼の申し出は聞き入れられなかった。


それどころか激昂したブレイドに剣を振るわれ、首を落としてしまう結果となった。


主を失った兵士の胴体から赤い噴水が噴き上がる。倒れる死体には目もくれず、ブレイドはさっさとその場を離れていく。


「フン……なにを言っているんだ。魔晄石が足りないというのなら、今の2倍のノルマを奴隷に課せばいいだけのことじゃないか。命の危険をチラつかせれば、奴らは死に物狂いで働くんだ。ああ……僕はなんて優秀な指導者なんだ」


自己陶酔し、惚れ惚れしながら語るブレイド。

その下衆すぎる計画には、彼に付き従う部下達も内心引いていた。



そして突如、退き始めた王国兵達を前に、次の選択を迫られる盗賊たち。

追撃して潰すか、それとも逃げるか。


「おいマット、『超魔導砲』ってのはそんなにヤベエのかよ?」


「ああ、とんでもない代物だZe!本来は対外国との戦闘に出てくる最終兵器なんだが、まさか本当に俺達みてえな盗賊2人にそのカード切ってんならYo、逃げ一択だって話だZe!」


「……チッ、なら一旦オニキスは諦めるか?そんなもんブッ放された日にゃ、生きて帰れねえだろ」



2人が話し合っていると、鉱山全体にけたたましい警告音が響き渡った。


言うまでもない。『超魔導砲』発射の合図だ。


彼等が予測するより遥かに早く、発射の準備は整っていたのだ。


「マ、マズいッ!もう来るのかよ!?マット、どうにかできるか!?」

「HaHaHa!俺の力程度でどうにかできるようなら、大した兵器じゃないだろ」


山岳のごとく聳え立つ、巨大な兵器の要塞。


その中心にはド迫力の黒鉄の筒が、ギロリとロヴァノフ達を睨んでいる。


彼等が撤退を選択して間もなくのことだった。


強烈な白光が辺りを包み込んだと思えば、その要塞は地響きのような唸り声とともに、『超魔導砲』を吐き出したのだった。


熱く眩しい光は一帯を一瞬にして燃やし尽くし、土色をした鉱山の世界を瞬く間に赤色の炎で染め上げた。


管制塔から燃え盛る大地の景色を眺め、ご満悦のブレイド。


側には抜け殻のように反応しなくなってしまったミーアを侍らせ、高笑いしながら酒に興じる。


「悪が滅びるのを見るのはいつだって心地が良いものだね。ミーア、君もこうはなりたくないだろう?なぁ?」










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強が故に追放されたS級冒険者 〜スローライフを楽しもうとした矢先に王女に拾われて最強の護衛に〜 オニイトマキエイ @manta_novels

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ