第14話 オニキスを狙う盗賊。

「マット、本当にこんなところに『オニキス』があるのかよ?」


「俺様の造った探知機に間違いはねぇYo!確実にこの近くで反応してるZe!」


魔導二輪に跨った2人組の男がヘルメットを外して、手持ちの小型液晶を覗きながら話す。


1人は頭にターバンを巻き、暗めのサングラスをかけた陽気な男だ。上裸にベストのみを着用するという斬新なファッション。褐色の肌が特徴だ。


もう1人は、全身真っ黒で揃えた長いブランド髪の男だ。エナメルのような艶のある素材で、服が陽光に触れてテカテカしている。脚のラインを強調したダメージスキニーがよく似合う。


彼らの手持ちの液晶に赤く光る点が点滅しては、小気味いい電子音が鳴る。

付近にある何かに反応しているようだ。


「マット、入口はどこだ?」


「さァな!適当に進んでりゃみつかるだろうZe!ホラ、見てみろYo!」


マットと呼ばれる男が指差した先からは、侵入者に気づいた王国兵の隊列がわらわらと押し寄せてきていた。


迎撃に訪れた王国兵の数は、ざっと100人を超える。対してこちらは特に武装もしていない丸腰の男2人。


戦況だけを分析すると圧倒的に不利なのは間違いなかった。


だが彼らは再度ヘルメットを被ると、迷わずフルスロットルでアクセルを握った。


無謀に突き進んでくる侵入者に戸惑うものの、王国兵達は訓練された動きで隊列を整え、一斉に魔導小銃を構える。


「撃てェッ!」


隊長の命令と共に、バラバラと発砲音が轟いた。


鋭いドライブテクニックでバイクを蛇行させて銃弾を躱しながら、男は淡々と命じる。


「マット、アイツらを黙らせろ」


「OK!ちゃちゃっと終わらせるZe!」


マットは魔導二輪のハンドルから両手を離し、空中で印を結び始めた。基本から乖離した複雑な指の組み方だが、その速度は非常に速い。


「ソラきた、かますZe!青ラッパ!」


マットの呼び声とともに、突如上空から降ってきた青いラッパ。


先端のベルの部分が口になっており、周りにまん丸い目がついて愛嬌のある顔のようになっている。


青ラッパは大きく息を吸い込むと、その可愛らしい顔からは想像もつかないような、耳を塞ぎたくなる不快音を奏でた。


例えるなら、鼓膜を直接引っかかれるようだ。

確実に三半規管を狂わせる。


「あぁ……頭が割れる!」

「あのラッパだ!あのラッパを破壊しろ!」


隊長が死に物狂いで命令するも、正常な判断を下せなくなった王国兵たちはバラバラと銃器を地面に落として倒れていく。


中には錯乱して銃を乱射する者もいて、現場は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


辛うじて意識を保っていた隊長。

朦朧とした中で放った1発の弾丸。


軌道はラッパの顔面へ直線的に進んでいくも、甲高い金属音とともにラッパはいとも簡単に弾き返してしまった。


一糸乱れぬ隊列の王国兵だったが、今や粗末。


穴が開いた王国兵の群れに、2台のバイクが躊躇なく突っ込んでいく。


暴走した車輪で鎧を踏み潰しながら、彼らはその先へ駆け抜けていく。


隊長が虫の息のような体力でなんとか身体を起こして無線機を取り出すと、上長であるブレイドに連絡を取るのだった。


「ブレイド様……こちらに新たな侵入者が。現在、魔導二輪で内部へ進行中です」


『ほう?今日は来客が多いな。いいだろう。迷い込んだ愚かなネズミどもには、このブレイド直々に手をくだしてやる』


気力で報告を終えた隊長は、糸が切れたのかそこで力尽きた。


無線の通信は途切れ、入口の付近には築かれた王国兵の山だけが残ったのだった。


「マット、方向はコッチで合ってるのかよ?」


「ああ、俺様の探知機がそう言ってるからNa!さて、そろそろ到着だZe?」


法定の速度を超えた速さで魔導二輪を乗りこなす2人が、端末の導く方向へと疾走する。


やがて奴隷として働かされている労働者の姿も増えてきた。


オニキスを示す赤点に近づくと、遂に彼らを止めるべく前方に立ち塞がる集団が現れた。


その先頭には丸眼鏡をかけた男。この鉱山の長、ブレイドだ。


「止まれ!何者か知らないが、僕の管轄で随分と好き勝手暴れてくれたようじゃないか。無事に帰れるとは思わないことだ」


ブレイドの身体を張った制止を受け、暴走していた二輪は急ブレーキをかけて止まる。


キキッとタイヤが地面を滑る高音とともに白煙を巻き上げ、彼らは大人しくバイクを降りた。


「どうだマット?『オニキス』はコイツらが所持しているのか?」


「さぁNa!ただ、近くにあることは間違いねえ。コイツはなんだか色々と知ってそうだ。ロヴァ、コイツから聞き出そうZe!」


ヘルメットを脱ぎ捨てて素顔を露わにした瞬間、王国兵たちの顔色が変わった。


理由は簡単だ。その2人の男の顔は、ブレイドもよく知っている。


「……なるほど。これはまた、厄介な客人が紛れ込んだものだ」


すると、ブレイドの背後でざわざわと騒ぎ始めた兵士たちが口々に噂する。



「アイツらは……盗賊パーティー『プランダ』のマットとロヴァノフ!」

「各地で略奪行為を重ねた結果、S級冒険者の資格を剥奪された極悪タッグだ!」


「……で、今度はなにが目的だ?『オニキス』を探しているなら、残念ながら僕じゃない」



ブレイドが手で追い払う仕草をすると、マットは豪快に笑い声をあげた。



「ハッハッ!笑わせるなYo!この鉱山に帝国兵と奴隷以外に誰がいるってんだYo!探知機に反応がある以上は、俺様の追求から逃れられないZe!?」


「御託はいい、さっさと始めるぞ。今はシラを切るつもりだろうが、半殺しにして脅せば嫌でも居場所を吐くハズだ」



対話を拒む盗賊は、王国兵達の答えを待たずして魔法の発動に踏み切った。


まずはマットの魔法だ。


入り口を強行突破した時にも披露した召喚魔法の一種。魔力を帯びた金管楽器を召喚し、地獄の音色を奏でるのだ。



「出番だZe!青ラッパ!」



またしても登場したのは青いタイプのラッパ。


この不快音は、数秒と経たずに三半規管を狂わせて戦意を喪失させる。


しかし、今度はラッパが音を奏でる直前で王国軍サイドにも動きがあった。


ブレイドの陰からスッと脇に現れたミーア。彼女は無言のまま、指だけを動かし始めた。


玄人にはすぐに分かる。

詠唱の速度は肉眼で追いきれない。

それに加えて型は難解なモノばかり。

これは、トビキリ強烈な魔法がくる。



「……状態異常無効。全ステータス、最大限まで上昇」



覇気の無い声で小さく呟くミーア。

だがしかし、彼女のつぶやいた魔法の内容はとてつもなく強力だ。



「マット、どういうことだ。お前のラッパの音を聴いてもピンピンしてるぞ」


「あぁ、あの女だNa……。あの小娘の魔法で三半規管や精神力を飛躍的に強靭なモノにしているんだZe!それも、ここにいる兵隊全員が対象らしいNa!厄介だ、敵ながら大した野郎だYo!」


「コイツァ、ちぃと骨が折れるかァ?しかもそれだけじゃねぇな、モブどもの魔力に体力、全てを限界まで引き上げてやがる。ようく見たらあの女……なるほどな?道理でこんな芸当ができる訳だぜ」


「気づいたかいロヴァ。あんなみすぼらしい身なりだから気づくのに時間がかかったがYo!あの小娘は『トリオンフ』のミーアだZe?」


思わぬ難敵の登場に顔を見合わせる2人。


対照的に、ミーアのバフをその身に授かったブレイドは高揚し、戦闘狂のように声が上ずっていた。


「2人だけで乗り込んできた勇気は称えてやるがなァ、賊ども!?秩序を乱す存在は、僕は許しておけない性質でね。悪は必ず滅びなければいけない。……王国こそが、正義だ!」


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