第13話 危機一髪!

「ユナ様相手だが容赦は要らん!あの女は王国を裏切った売国女だ!総員、発射!」


魔導小銃を構えた王国兵たちが引き金を弾く。

ミーアの強化魔法は魔導小銃にまで及んでいた。

王国軍御用達の魔導小銃とは、似ても似つかない発砲音。弾丸の威力は撃ち手の魔力に比例する。

魔力保有量を大幅に底上げされた彼らが放つ弾丸は、空気を切り裂いて時空を歪ませる。


鉱山の麓は爆風に巻き込まれ、たちまちヴァン達の姿は確認できなくなってしまった。


土気色の煙が立ちのぼる。

追い討ちと言わんばかりに、ブレイドはトドメの魔法を放った。


「コレでお終いだな。塵となって消えろ!」


彼の腕に集約された魔力の球。

煙に包まれ標的は視認できない。それでも、構わずブレイドは力を解き放った。


黄金に光る魔力の球体。やがて地面に着弾すると、肌が痛くなるほどの一層大きな音が轟く。

剣山のような形で天に向かって伸びる光。

やがて煙も光も引いた後は、着弾地点にポッカリと巨大な穴が開いていた。

地層の色が変わるほど深い、巨大な穴だ。


爆風に巻き込まれた他の王国兵たちもいたが、ミーアのビルドアップのおかげで命に別状はなかった。


残ったのは殺風景な穴だけ。

瓦礫もゴミも吹き飛ばして更地になったのを眺めて、ブレイドは嬉しそうにほくそ笑む。


「フフッ、跡形もなく消えたか。S級冒険者をもってしても、今の僕は止められないんだ!」





「ふぅ……なんとか脱出できたか」

「あのクソメガネ、許せない。危うく殺されるところだったわよ!」


ヴァン達は間一髪のところで魔法の餌食になることを避けることができた。


自身とユナの身体をできる限り密着させて結界の中に組み上げ、転移結界魔法で遠方に飛ばすという荒技でなんとか切り抜けた。


魔導小銃の弾丸の速度より速く結界を組み上げることは博打だったが、そこは流石S級冒険者のヴァン。すんでのところで結界魔法の発動が間に合った。


「……ところで、いつまで俺に引っついてるんだ?」


「!?!?」


結界を最小限に造る為、身体を密着させる必要があった。ユナは今もなお彼の腰に抱きついたままだったことに、指摘されて初めて気がついた。


「べ、別に!アンタこそ早く離れなさいよ!なにずっと大人しくアタシに抱かれてんのよ!」


「いやいや……こんなに強く締められちゃ離れられないだろ」


「う!うるさい!生意気な護衛だこと!いい加減にしないと解雇するわよ!」


顔を赤らめて飛び退くユナ。

わざとらしく袖に着いたホコリを大袈裟に叩いて、照れ隠しする。

彼女の扱い方が分かってきたヴァンは、やれやれといった具合でそれ以上の追求は控えた。


「さてと、ここからどうするか。鉱山の入口から転移してきたが……どうやらここは王国に囚われた奴隷の労働場所みたいだな」


ヴァンが指差した通り、そこでは沢山の奴隷たちが労働を強いられていた。


不健康な身体つきで鉱石を荷車に積み込んでは、せっせと運んでいる。作業着はボロボロで、もはや身体を守る意味は成していない。顔や腕はホコリや塵で真っ黒に変わり、たまに監視の王国兵から発破をかけられる。過酷な労働環境だ。


その中で、1人監視の目を盗んで石で遊ぶ少年がいた。


ヴァンはその少年に目をつけ、接触を試みる。


「それ、よくできてるじゃないか。ゴーレムか?」


「!?」


「ああ、そう身構えなくていい。俺達は王国兵じゃないからな、痛いことはしない」


突然、見覚えのない怪しい2人組に声をかけられた少年は驚いた。

だが、危害を加えないと分かると、また作業に取り掛かり始めた。


「うん、ゴーレム。石と石をこうやって濡らした土と粘土でくっつけるんだ。腕はコレで完成。次は足を造らないと」


「君は働かなくても怒られないの?」


ユナが疑問を尋ねると、少年は俯いて作業を続けたままぶっきらぼうに答える。


「余裕だよ、奴らの勤務形態は頭の中に入ってる。ルーティンなんだ。この時間帯はこっちの見回りは手薄だから」


意外な答えに顔を見合わせる2人。

この鉱山の攻略の糸口が掴めたかもしれないと気分が上がった。

早速ユナたちは、少年に提案を持ちかける。


「それってこの鉱山全体の見張りの動きをだいたい把握しているってこと?」


「まぁ……うん。だいたいは分かるよ。興味本位で持ち場を離れて散歩したりもしてるからね」


「凄い!それは非常に貴重なデータよ!それをアタシ達に教えてもらうことって、できたりしないかしら?」


「お姉さん達が何者なのか明かさない以上は、協力はできないよ」


「……そうねぇ。差し詰め、あなた達を救いに来た凄腕冒険者ってところかしら」


冒険者という言葉に、予想外に少年は目をキラキラさせて反応した。


「冒険者!?じゃあ魔法が使えるの!?」


「ああ。教えて欲しいか?」


「うん!俺、物心ついた時からここにいるからさ、魔法とか習ったことないんだ。お兄ちゃん、お姉ちゃん!魔法教えてくれよ!」


「魔法はこのお兄さんがとっても得意だからねぇ。その代わり、アタシ達に見張りの王国兵たちの穴を教えることが条件よ」


タダでは首を振らない精神のユナ。

彼女の負けん気はひと回り以上小さい少年相手でも遺憾なく発揮される。

少年はふたつ返事でOK という訳にはいかなかったが、やはり魔法への誘惑には敵わなかったようで、渋々了承した。


「その代わり魔法を教えるのが先だよ!あと1時間くらいでこっちも見張りの人数が多くなるんだ。そうしたら、僕も働かなくちゃいけない」


少年はそう言って、自らの首に設置された輪状の装置を指差した。

それは王国軍に装着させられた首輪型の爆弾。

少年の指差しは、仕事をサボっているのがバレたら死んでしまうということを暗に伝えている。


状況を察したヴァンは、早速魔法の指導に入った。


「これが基本の魔法の『印』だ。これを正確に結べるように極めると……」


俺は転がる石ころをひとつ指差し、少年がしっかりと確認できる速度で指を組み始めた。

すると、フワフワと石ころが浮き上がる。ヴァンが拳を握ると、頭上まで浮かび上がった石ころが粉々に砕け散った。


「す……すげぇッ!!!」


「なに、この程度ならなんてことはない。適切な訓練を積めば誰だってできるようになる」


「お兄ちゃん!俺、炎を操る魔法を使ってみたいんだ!手から火を出したりとかさ!カッケェじゃん!」


「属性魔法も基本を応用するだけだ。この基本の印に、炎属性の印を合わせれば……」


ヴァンが先程の動作に少し工程を加えると、浮遊した石ころは空中で真っ赤に燃えた。まるで宇宙空間を駆ける流星のように。


「お兄ちゃんスゲェ!もしかしてどんな魔法でも使えるのか?」


「こう見えてS級だからな。練度に差はあれど、ひと通りはどんな魔法でも扱える」


ヴァンは次々と魔法を披露した。

少年は興味津々に目を輝かせている。ヴァンの真似をして指を合わせるもたどたどしく、魔法の発現には至らなかった。


「魔法は日々の積み重ねが大事だ。魔法に近道はない。続けていると自然とコツが掴めてくる」


「うん!分かったよお兄ちゃん!」


「さて……では俺も教えてもらおうか。この鉱山の全容を把握したい。監視の王国兵の配置や、入れ替わる時間帯などを知りたい」






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