第27話 オーバーエイム 前編

2ヶ月が経過した。

外は日差しが強くなり昔の俺なら1歩も出ようとは思わなかっただろう。


俺は今ホームシックになっている。

冒険者生活が嫌という訳では無い。たまに嫌な以来はあるが前世に比べたらマシな方だ。ただ単純にペヤードとマリアードに会いたかったんだ。


おかしな話だと思う。こんな姿でも俺の中身は30超えたおっさんだ。親の事は好きだが同時にこわくもあるんだ。そして考えてしまうんだ。

俺が異世界から来たことを言ってしまうとどうなるのかを。


この2ヶ月の間『仔犬の宴』というパーティ名は少し有名になった。初めは仲間殺しの篠鞘楓瑠が新しくパーティを作ったなんてことを誰かが言ったんだとおもう。憶測だけどね。


結成してからの勢いは凄かった。

中級依頼 29回

下級依頼 13回

この2ヶ月でそれだけのことをやってみせた。

「うるさい外野は実力で黙らすのが手っ取り早い」と楓瑠さんから聞いたが本当にその通りだと思う。

初めは茶化してきた奴らが居たが最近は1人も見かけない。


ラリーゴと他数人は楓瑠さんのことを目の敵にしているようだったが直接的な嫌がらせはしてはこない。我らが楓瑠さんの実力にビビっているのだ。


これだけの依頼を解決してきた『仔犬の宴』は今日から中級冒険者となる。この昇進の速さは異例中の異例と聞いた。


冒険者は中級が1番多い。

ほとんどのパーティはそこで諦めるか死んでしまうからだ。冒険者なんて職業はいつも死と隣り合わせのようなものだ。


この前なんて『小鬼』《ゴブリン》とミカを間違えて死にかけた。危うく仲間内で殺人事件が起きる直前だった。

討伐対象である『小鬼』は難なく倒せたが、まさか自分が討伐対象になるなんて思いもしなかったよ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



昼頃の酒場にしては珍しく席が半分ほど埋まっていた。窓から入ってくる光が眩しくほとんどの者たちは日陰に座っていた。

『仔犬の宴』も例外に漏れず、ジメジメとした酒場の隅に座っている。


料理人に頼んでおいた肉のソテーを小腹に入れ、会議は始まった。



そもそも俺たちのパーティが昼から活動するのは珍しい。

依頼によって左右されるが、朝始まりの夕方帰りが基本だ。昼から始まるということは移動距離が長く日を跨いで活動することを意味する。



「今回の依頼だが、ワンランク上の上級の依頼を受けてきた」

楓瑠さんはそのまま説明を続けた。

「依頼は『毒蠍』《デススコーピオン》の討伐。『毒蠍』は尾にある毒針を使い遠距離、近距離攻撃共に穴がない。おそらく今までで1番の強敵だろう」



この説明する光景も何回みたことだろうか。


あんなにやってみたかったものなのにいざやると、現実と妄想のギャップに心がやられる。


世の中そう綺麗じゃない。綺麗なら冒険者の仕事なんていらないからな...。



ランス領郊外ガイナー村付近の荒地。

蠍なのでてっきり砂漠にいるのだと思い込んでいた。草木は生えておらず、地面は灰のような色をしていかにもな感じだ。


丘を越えた先には、冒険者パーティが数組か見えた。酒場で見た顔ぶれだ。すぐにわかったね。


「オーバーエイムか...」

楓瑠さんは面倒くさそうに言った。

「揉め事にならないといいですけどね」


オーバーエイム、つまり同じ依頼を複数のパーティが受けることを指す。普通はひとつの依頼につきひとつのパーティが相場なのだが、冒険者協会側がひとつのパーティでは厳しいと判断した以来の場合今回のようなことが起きる。


オーバーエイムで1番の問題が依頼報酬だ。

依頼報酬はひとつのパーティ分しか出ていない。


考えて見ればそれは当然のことで、依頼主はオーバーエイムになるなんて予測していない、複数のパーティに変更したのは冒険者協会なので依頼報酬もひとつのパーティ分という訳だ。


冒険者協会側が出してくれれば解決なのだが、まぁそう簡単にはいかない。



「なんだ?犯罪者軍団じゃねぇかお前らもこの依頼を受けるのか〜?」


絡んできたのはトカゲ顔のヘカナビという男。

『仔犬の宴』に楯突く奴らの一部で、一応、上級冒険者パーティ『真の夜明』に入っている。


「何か文句でもあるか?」

楓瑠さんはヘカナビに冷たく返す。


「文句じゃねぇさ〜心配だよ。心配。また仲間がいなくなっちまうと思ってよぉ〜」

ヘカナビはそう言ってケタケタ笑いこける、


突風が吹き、灰のような地面が舞い上がった流れるように風に運ばれていくとヘカナビの言葉が聞こえてきた。


「今回の依頼はよ、俺たちに譲れよ。な?」


楓瑠さんの喉元にダガーナイフを突きつけるが

楓瑠さんはその行動に笑ってみせた。


「ヘカナビ、そんな玩具で俺を殺せると思ったのか?」


「勿論。ここでやって見せようか?可愛いお仲間と一緒に」


どちらも強気で嘘をついていない。

ヘカナビの言葉は楓瑠さんには届きすらしてなさそうだった。


「つまんねえ〜の、蠍の餌にならねえようになー」


丘の方へ歩いていき何か言い忘れていたのかこちらに振り向く。


「そうだ。今回のオーバーエイム、『猛獣の集い』《ビースターズ》も来てやがるぜ」


『猛獣の集い』はラリーゴのいるパーティだ。

リーダーであるラリーゴが楓瑠さんアンチなので俺たち『仔犬の宴』とは釣り合いが悪い。



各々のチームが『毒蠍』《デススコーピオン》を探すために動き始めた。俺たちチームは南東、北東に『猛獣の集い』が同じようにほかのパーティも並んでいる。


「見つかりましたか?」

『探索』中の楓瑠さんに俺は聞いた。


「いや、見つからない。ここにはいないのかもしれないな」


「とりあえず急ぎましょう」

ほかのパーティーに報酬を取られると思ったのかフォイアスは荷物をまとめだした。


「北に行くのはどうでしょうか?私、何か聞こえた気がしました」


「そうだなそうしよう」


ロウソクの炎を魔法で大きくし、たいまつに移す。

他の魔物が寄らないように自分達の痕跡を消した。




北に行くと灰色のはずの地面が深紅に染まっていた。その上にところどころ欠損している遺体が捨てられていた。無惨に食い尽くされたみたいだ。


「あぁ、助けてく、れ」


「生き残りか、ミカ水をくれ」

「はい!」

ミカはバッグから水筒を取りだし、楓瑠さんに渡した。その水筒の水をゆっくりと、飲む人が焦らないように楓瑠さんは飲ませた。


「ありがとう少し、落ち着いた」


「礼はいい、何があった?」

楓瑠さんはまるで、忘れ物をした生徒に問いかけるみたいに言った。


その迫力に気圧されたのか、先程あったことの恐怖かわからないが、男の言葉が詰まった。


「『毒蠍』は一匹じゃなかった。群れだ、そう群れていたんだ」

男はハァハァと息を切らし、その様子からもただ事じゃないことが分かる。


「『毒蠍』が群れている?そんなこと...とりあえず向かうぞ。みんな出発の準備だ急げ」


男は必死に止めようとしていたが、止まる素振りすら見せなかった。


「大丈夫ですよ」

俺はその人を安心づけようと思い労いも含めて声をかけた。


「僕たちは強いですから!」

男は安心したのかその場に座り込んだ。

もしかしたら呆れていたのかもしれないな。

いやそんなわけない。

きっと安心して体の力が抜けきったのだきっと!


男のため息混じりの声を聞き流し『仔犬の宴』は進み出す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜後書きなるもの

冒険者編になってから前後編になってすみません。

でも冒険者編は学校編と違って書いてて楽しいです!


ヘカナビの名前の由来はカナヘビから来てます。


創練 裏設定1


元々、楓瑠さんは天元突破グレンラガンに出てくるカミナを元に作ろうと思ってたんですけどいざ書いてみると爽やかイケメンになったのでなんか、自分で書いてておかしくなります。


いつかは熱い男気キャラを出したい!(願望)

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創成の錬金術師〇 俺が世界 @oreganbaru

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