第26話 ククリ村の化け者 後編

村長に案内され家の中へと入り、地下室にある物置部屋らしき場所へ案内された。

『物』置部屋にね……。


扉を開いてもそこは入口からしか光が入ってこないのでとても薄暗かった。


「『火よ』《ファイア》」


ミカが魔法でロウソクに火をつける。

ロウソク1本だけではこの物置部屋全てを照らすには足りなかった。

1歩1歩俺たちは進んでいく。

その間も村長は黙っていた。きっと俺たちの反応を待っているのだろう。


部屋の中央部、何か『ある』のがわかった。

正確には『いる』だったのだが……。


「アぁどうさん、あがるいから火を消しておくれよォ」

地面に這いつくばっていたそれは人間なのか魔物なのか曖昧だった。

体はところどころ痣だらけで、右腕は人間のものではなかった。顔もマダラになっていて、怖かった。


俺はそこで疑問になったんだ。

人間と魔物の定義とはなんなのだろうってね



この世界での人間と魔物の定義は曖昧だ。


人間っぽいエルフやドワーフのほとんど人間と変わらない種族や獣族や亜人などの体の一部が人間でなくとも一応人間に部類される。


魔物はゴブリンやスライム、オーク、リザードマン。数えただけでキリがない。

先日討伐した『赤仔犬』そして『赤巨犬』は魔物の中でも獣に近いので魔獣と呼ばれる。

分類上は魔物で良い。


今あげた魔物たちは人語を話すこと後できない。


ではもし人間の言葉を話せる魔物がいたら?それはどんな結末を迎えるのだろう。


「ミカ火を小さくして」


「……」

ミカはなにも言わないが手元にある火はだんだんと弱まっていく。

「父さン!だれがぞこに、ぃるノか?!」


「オウダリーこの方たちは冒険者だよ……」


「ぼう険しゃ?なンでだよどうさん!」

オウダリーの叫びは止まらない。

体を動かそうとするが首輪がついていて村長には届かなかった。


「オウダリー……、もうお別れだ」


「そんナの嫌だ!父ざン!」

村長は俺たちを残してはいってきた扉から去っていった。

後のことは『仔犬の宴』に任せるって意味だろう。


「君たち俺を殺すのかい?7人くらい……か?」


「楓瑠さん.....」

俺一人では解決できないと判断したためここは楓瑠さんにご教授願おう。


「オウダリーさんは死にたいか?」


「ォれは、ごのまま魔物どして、いぎのハいやだ。でも死にだくない」


「質問を変える。お前は人間かそれとも人間に害をなす魔物か?」


オウダリーは肝を潰されたみたいな顔をした。


俺たちはテロリストじゃない生き物を無闇やたらに殺しまくることはしない。


その約束を守るのは相手が善良な人間だった場合の話だ。


「ォれは人間なのか?自分でモわかぁらない」

オウダリーは少し微笑んだ。

それに反応したのか体の痣が拡がっていく。


「見てくれ、ごのァざが拡がるとぉどんどん魔物にぃなってぇいくんだ」


「時間の問題ってわけか.....」


「原因はなんなんでしょう?」

俺は問いかけたがそんなことわかる者は誰も居なかった。

ただただその場に沈黙だけが漂っていた。


「あ!私心当たりあるかもしれない」


「ミカ、詳しく聞かせてくれ」



「昔読んでいた歴史の本に書いてあった病気です。名前は確か.....テラス病。そうテラス病です!」


ミカは歴史だけずば抜けて点数が良かったからな、つまり彼女は怪力系ヒロインでもあり歴史オタヒロインでもあるのだ。


「他に思い出せるか?」


「体中にある痣が拡がっていき、その部分から次々に魔物になっていく原因不明で治療法も見つかっていない病です...」



「オウダリーさん聞いた通りだ。医療が進んでいた昔の人でも治療ができない原因不明の病だそうだ」


「ォれはァ死にたかぁねェ...」

始めと比べて随分と呂律が回らなくなっている。


「フォイアス。君はどう思う?」

先程から何も口に出さなかったフォイアスは「少し考えます」といった。


その間もオウダリーの痣の侵食は少しづつ進んでいく。

「オウダリーさん...」


「なんダ?俺をころスか」


「今僕たちに殺されて人のまま死ぬか、魔物として死ぬかどっちがいいですか?」


結局は殺さなければならない。

放っておけば魔物になり、人に害をなすかもしれない。俺がオウダリーさんの立場なら今死ぬことを選ぶ。


「オれはまだ人間か...」

そう言ったオウダリーさんの目から涙がこぼれ落ちる。そしてこう言った。


「なァ冒険者ノ 方々...」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺はどちらかと言えば幸せな人生を送っていたと思う。村長の息子で容姿だって別に悪くない。それに来月には結婚する予定だった。


それが一日で急変してしまった。

昔から体は人一倍強い方で病気にだって罹ったことがない。1度もだぜ?


488年3月1日体に異変が起こった。

なんで正確な日時を覚えているかと言うと日記を書いていたからなんだけど、その日を境に体中にまだら模様の黒点ができ始めたんだ。


別に痛くも痒くもないので気にはしなかった。


488年4月1日

遂に体の一部が魔物化した。

少し興奮した。

だってカッコイイじゃないか。物語に出てくる片腕が機械の主人公がいるんだけどそれが子供の頃から好きで、そんな主人公になれた気がした。


そんな姿を村の人達は「悪魔だ」とか「化け物」だとか言ってくる。あれは心に効いた。


想像して欲しい。

小さい頃から仲の良かった友人、世話になっていた向かいのおばさん。

そして自分を育ててくれた親。そんな人達から罵詈雑言吐かれたら誰だって傷つくだろう?


でも1番傷ついたのは婚約者に逃げられたことだな。すごく好きだったんだけど今では関係の無い話になってしまった。


体が丈夫だって言ったね。

でも心は丈夫じゃなかったみたいだ。


そんなこんなで父は、父さんは冒険者を呼んだらしい。


「今僕たちに殺されて人のまま死ぬか、魔物として死ぬかどっちがいいですか?」


質問に答えるが声に前のようなハリがない。

魔物の発声器官が十分に発達していないからかな。


俺なんて霞んで見えるほどの美青年がこう言った。

少なくとも今の俺は「人間」に見えているらしい。


よく分からないけどすごく嬉しくて涙が出た。

生まれてから見ても1番涙を出したと思う。

そこで思った。

涙が出るってことはまだ俺は人間なのかなって。


そして俺はこういった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「俺を殺してくレ」


オウダリーさんはそう言った。

もう涙は流れていなかった。



その後『仔犬の宴』は村を出ていった。

住民たちは感謝の言葉をあげていた。


その声を聞いて俺はすごくイライラして「コイツら全員殺してやりたい」なんて良くない考えを持ってしまっていた。


依頼報酬を手に取ると逃げるように馬車に乗り込み冒険者協会に帰った。


酒場で飲んだジュースがすごく美味しかったのを不思議なくらいに覚えている。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜後書きなるもの

今回めっちゃ暗い話でした。

本当はこの話は楓瑠さんの没案で、楓瑠さんの仲間が死んだのは魔物化した楓瑠さんが殺していたからなんて設定もあったんですけど、それだと胸糞悪いので一般人であるオウダリー・ダックくんにこの業を背負わせることにしました。ごめんよオウダリーくん。


ちなみにオウダリー・ダックはみにくいアヒルの子って意味です。

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