第25話 ククリ村の化け者 前編

今日で冒険者生活も2日目だ。

最低でもあと4年はこの生活が続くと考えたら気が遠くなる。

だが昨日の出来事はどれも新鮮で面白かった。

それは事実だ。

少し前までは失敗ばかりだったからその反動もあるだろう。


何かに勝利することで気分を悪くする者は居ないと思う。その何かは本当になんだっていいんだ。

親や弟でも近所のおばちゃんでも、魔獣でも……。


勝利とは自信を生むから向上心を生むのだ。

前世ではスポーツなんて何が楽しいのかわからなかったが今わかった気がするよ。


楓瑠さんやフォイアスも今までこんな気持ちだったのだろうか。


いやいや、フォイアスはともかく楓瑠さんに限ってそんなことはないか……。まだ会って2日目だがそんな人じゃないと思う。


そういえば昨日、あの後みんなで夕食を取っている時に魔術の話になり俺は大変窮屈な時間を過ごした訳だが、さすがの楓瑠さんもフォイアスの魔術が神の名を持つことを知って驚いていた。


その楓瑠さんの魔術だが言い出す寸前で受付嬢のドベールさんに酒場から追い出されてしまった。

長く入り浸りすぎたようだ。

(※もちろん『仔犬の宴』メンバーは全員未成年なのでお酒は飲んでいません)


冒険者協会から出たあと宿に入ったが、その日に稼いだ額のほとんどを酒場と宿で使ってしまった。


まだ依頼報酬が少ないので暫くは生きていくだけで精一杯だろう。


今日もまた依頼を受けると言っていたからとりあえず冒険者協会へ向かおう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

冒険者協会は朝が1番賑わっている。

そのほとんどが依頼の受注に来ているようだ。


しかし頭のいい『仔犬の宴』たちは昨日の内に依頼の受注を済ませていた。(※そう提案したのは楓瑠さんで子供組はなにもしていません)

ここに来た理由は依頼内容の確認と朝食をとるためだからな。もっとも、俺は後者の方に集中している訳だがね。


眠そうに目を擦るミカを隣で眺めながら食べるベーコンエッグは格別に美味かった。


「今日の依頼だが、お前たちよ実力も考慮し中級の依頼を取った。内容は村に現れる魔物の討伐だ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

中級依頼

依頼内容

村の魔物の討伐

依頼報酬

小判銀貨2枚

銅貨8枚

依頼場所 ククリ村

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「この書き方何かおかしくないですか?普通は『村の魔物の討伐』ではなくて『村に現れる魔物の討伐』ではないですか?」


依頼内容が書かれてある板を見てフォイアスは顔をしかめた。


「書き間違え……とも考えられるが確かに少し妙だ」


「そうですかね?僕は普通だとおもいますけど」


「そもそもこの依頼、内容に対して報酬が多すぎるんだ。何かあるかもしれないな」

そこら辺の魔獣や魔物の1匹2匹『仔犬の宴』ならどうってことない。

初級冒険者の中なら1番強いだろう。


そう心配することないと思うが……念には念をという言葉があるからな。


ククリ村は少し遠いようで馬車で行くことになった。

魔力の関係かこの世界の馬は足が速い。

馬車と言えど侮ってはいけない速さをしている。

外の景色が溶けていくみたいだ。


舗装されていない道なのでガタガタ揺れている。

なぜ昨日今日のことなのに忘れていたのか、

揺れるということはすなわち「酔う」のだ。


俺は猛烈に吐いた。

朝食べたベーコンエッグがそのままでてきたとさえ錯覚した。

ミカは吐きこそはしなかったが目眩が酷かった。


その姿はまるで、産まれたての子鹿にタップダンスを踊らせたみたいだった。



「2人とも大丈夫?」

酔いでぐったりしている俺たちにフォイアスはあれやこれやと試すがなにも効果がなかった。


どのツボを突いてしまったのか楓瑠さんは大笑いした。


「なんで、笑っ、てるんですかァォロォロオロォ」

口から声を出すと共に吐瀉物も出してしまう。


「いやぁ〜すまない。あんなに強かった2人にもこんな弱点があるなんて思いもしなかったからな」


「僕達が強いなんて、楓瑠そんの方が強いじ、ゃないですかァァォロォァアォ」


外にリバースされていく。

朝食達、これがエコなリサイクル、クーリングオフだ。

「俺は1つ忘れていたことがある聞きたいか?」


「オェォィ!(はい!)」


「俺も馬車酔いしやすい事だ!」

さっきまで平常を装っていたようだが耐えきれなかったようだ。反対側の窓へ行き俺と同じことをしている。そうクーリングオフだ。


「僕以外、全員酔いにやられた……」

こうしてフォイアス以外の3人は馬車酔いで体力の半分を削られたとさ……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ククリ村はランス領南西に位置する小さな村だ。

建物や施設からお金が無い村なのだとわかった。


アルト村はこの世界の中では裕福で治安も良い方なのだ。俺が住んでいた間も目立った事件は特になかったし一度不審者出たくらいだな。


そういえばあの不審者は捕まったのだろうか?


「あなた方が依頼主で間違いないでしょうか?」


「はい。私が依頼主で村長のメッケンと申します……」


いかにも「疲弊しきってます」って感じの顔をしている。目の下のくまが酷い。


「ところで依頼内容なのですが……」


「こちらへ」

村長はどこかへ歩き出した。ついてこい。ってことだろう。


この村の人達はずっと何かに怯えている。


それだけ強い魔物か魔獣がいるのだろう。

何も覚えていない一般人には対処しょうがないからね。ほんとうに。


「ここです……」


案内された場所はこの村の中では少し大きな家だった。もっとも、石でできている外壁は傷だらけで

痛々しかった。


「討伐対象はどこに?」

フォイアスがそう聞くと村長は涙を流しながら俺たちの方を向いた。


「討伐対象は、討伐対象は……私の息子です」


周りの酸素が一気に無くなって息苦しくなった気がした。


『仔犬の宴』達は件の家へと入っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜後書きなるもの

ミカの魔獣『力を欲する者』《パワー》についての細くです。能力は魔術発動時の身体能力×欲望の量。大事なのは『魔術発動時の身体能力』です。


ミカが自分の体を鍛えれば鍛えるほどその効果は強くなり身体強化魔法を使えばさらに強化されます。


際限はない。とまでは言いませんがパワーだけなら作中トップクラスですね。


欲望が彼女を変えてしまう可能性とかもありますが

それはいつかわかるかもしれないです。





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