第24話 初めての任務 後編

目の前の光景に俺は目を疑った。

直線上に削られた木々に続いて木っ端微塵となった『赤仔犬』、これを齢12歳の少年が成し遂げた事実。

上級魔法『鳴雷』を予備動作無しで放ったその少年の名はフォイアス・アルト・ガントレットと聞いた。


はっきりと言おう、彼は以上だ。

その前のミカといい少女も凄まじい力を持っていたがそれはあの歳にしてはのこと。少しの才能とたゆまぬ努力あっての力だろう。


だが彼はどうだ?

まるで絵本に出てくる光の勇者そのものではないか

神に選ばれた『依代』としか考えられない。


妹がそうであったように。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いや〜えげつないな……」


フォイアスが魔法を唱えて『赤仔犬』はミキサーにかけられたみたいに粉々になった。


フォイアスの後にする俺の気持ちも考えて欲しいものだよ全く。


「ペルセウス。君で最後だ」

「はい……!」


「頑張って……」


「頑張れペル」


2人の鼓舞を後に俺は前に進む。

愛用の『エクスカリバー』(レプリカ)を構え警戒して探索するが、全く見当たらない。


足元にはアクムレアが咲き誇っている。

一つ所ではない何百もある。


フォイアスが俺の分まで倒してしまった……なんてことはないだろうか。

欲張りな野郎だ。


「うわぁ!」

思わず情けない声が出てしまったが、居たぞ『赤仔犬』《レッドクタービ》だ。


木にいい具合に隠れていて、気づかなかった。


『赤仔犬』と目が合う。


その目は宝石のように輝いていて、見た者の戦意を削ぐ気がした。

今からこの魔獣を殺すのだ。

躊躇はするな。



依頼の妨げになる恐れがあるためアクムレアが生えていない地面に手と膝を着く。


そして材質の確認、魔力の操作を並行して行う。

「『錬金術』《アルケミー》!」

手で触れた箇所から地面が錐状に変化していく。


『赤仔犬』は咄嗟に避けようとするが横から伸びたソレに貫かれる。


「よし!上手くいった。錬成途中に軌道を変える高難易度技が!」


初めて生物を殺した高揚感と

高難易度魔法に成功した達成感に体がなんとも言えない快感を覚えた。


俺もリシア校長や両親のように魔法オタに目覚めつつあるのか?!


「ペルセウスやったな!」

「すごいよペルセウス……!」

フォイアスとミカは俺の成功を自分の事のように喜んだ。


「3人とも上出来だ」


「ということは……?」


「合格だ」

楓瑠さんは一呼吸おいてみんなに言い聞かせるように言った。


俺たち子供組は互いに賞賛しあった。


だからだろうか油断していいたのだろう。

高速で近づいてくる一匹の魔獣に気づけなかったのだ。


「3人とも逃げろぉ!」

気づけば『赤仔犬』とは比べようもない程の大きさの爪が目の前にあった。


「死んだ」

そう思った。


俺の体は気づけば魔獣から引き離れていた。

フォイアスだ。


フォイアスが俺とミカ2人を抱え、『時を越える者』《ヘリオス》で高速移動したのだ。


今思えばこいつには助けられてばかりだ。


「楓瑠さんあいつは一体……?」


「奴は『赤仔犬』の成体上級魔獣『赤巨犬』《レッド キュオーン》だ」


あんなに大きかった『赤仔犬』がなんで仔犬なのか今わかった。親がデカすぎるからだ。


いままでとは比べ物にはならない威圧感。

フォイアスならワンパンできるだろうが俺はどうだろう。一発でも喰らえば逆にワンパンされそうだ。


なにせ俺は魔力量が人並み以下だからな。


フォイアスが前へでて魔法の構えを取る。

『鳴雷』を打つ気なのだろう。


楓瑠さんは狙いを定めているフォイアスの前へと回り込み、魔法を強制的に終了させた。


「待てフォイアス。ここは俺が行く」


「篠鞘さんがですか……?」


「後輩に少しだけ格好いいとこ見せたいからな」


『赤巨犬』は楓瑠さんに飛びかかる。

『赤仔犬』の三倍は越えるだろうその体から繰り出される攻撃は当たれば致命傷になり得る。


俺たちの前に立ち剣を引き抜き構える。

今にも切りつけそうな佇まい、あれは大和流剣術の構えだ。


初めに動いたのは『赤巨犬』だ。

その鋭い爪を楓瑠さんの方へと伸ばす。



「ザシュ」という例えようのない音が森に響く。

『赤巨犬』の左腕が宙に舞う。

切り口が鮮やかすぎて自分が斬られたことにまだ気づいていないようだ。


「ワゥーーン!」


「ワンワンうるせぇよ犬モドキ」

楓瑠さんは刀身を1度鞘に戻した。

なんでだ、まだ決着はついていないのに。


『赤巨犬』は片足を失ってバランスが取れていない。


鞘に戻してからこの場の雰囲気が一変した。

この雰囲気……、リシア校長とかに近いかもしれないな。強者の風格的なものだろう。


変わったのは雰囲気だけじゃない

時間が経つにつれて楓瑠さんの周りが光り輝いている。可視化される程に高密度な魔力か?


「3人とももっと後ろに下がれ誤射範囲内だ」

子供組3人は言われた通りに下がった。

10メートルは離れている。


「大和流剣術 奥義『燦欻阿領』《サンクチュアリ》」


魔力の塊が斬撃と合わさり瞬く間に飛んでゆく。

直撃した『赤巨犬』の胴体は完全に吹き飛び消え去っていた。


威力だけならフォイアスの『鳴雷』以上だ。


「誤射しなくて良かった」



帰り道俺たちは行きとは違い他愛もない話をし合って帰った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あれやこれやと色々あったが、これで一日目も終了だ。なんだかどっと疲れた気がする。

依頼の報告と報酬を受け取って今日はもう寝よう。


依頼の報告は楓瑠さんが段取りを見せてくれるということなので任せることにした。

俺たちは後ろからドベールさんと楓瑠さんのアオハルを見ていた。


「ドベール。依頼終了の確認と討伐魔獣の確認を頼む」

「お疲れだったわね。どうだった?久しぶりのパーティは」


「…………なかなか悪くないよ。3人とも優秀だ」


「そう♪それは良かった良かった。ところであなたたちパーティ名は?」


「まだ決まってないのか……。みんなこっちへ来てくれー!」


机に置いてあった夕食を慌ててかきこみ

詰まりそうだったので水で流し込んだ。


「パーティ名、なにか希望あるか?」


「はい!ゴッド・クロス・オーバー!」


「長い。ダサい。却下だ」


そんなにダサいいやか……。

かっこいいとおまうけどなゴッド・クロス・オーバー。


「はい」

「ミカも何かあるのか?」

「あります!」


中々自信ありげだな。

いいとこ育ちの貴族様のセンスが今問われる。

「ソードマジシャンズ……です」


「よく分からない却下だ。最後フォイアス何かるか?」

俺よりはまともに聞こえたが楓瑠さんの趣味には合わなかったらしい。


容姿端麗、期待の新人で今作の主人公をさしおいて主人公以上のスペックをお持ちのフォイアスさんのご登場だァ〜。


「ん〜あるとするなら『黒龍達の闇の集い』《ブラックドラゴンズ・ダーククラン》ですかね」


…………………。

「それだけは無いな」

「ないな」

「さすがにそれは……ちょっと」


俺とミカ、楓瑠さんの心が1つになった瞬間である。

「ちゃんと真面目に考えてるの〜?」

ドベールが痺れを切らして野次を入れてきた。

「少し面白くて盛り上がってしまった」


「そういう楓瑠はなんかないの?後輩ばっかに言わせてアンタなにもしてないじゃない」


「俺のかー。なら、『仔犬達の宴』とか」


「あんた、それってもしかして……」


ドベールは何か言いかけたが寸前のとこで止めた。

何を言いたかったのか分からないが

きっと過去に関するのだろうと察した。


「『仔犬達の宴』いいじゃないですか!」


「私もいいと思うな」


「僕は『黒龍達の闇の集い』《ブラックドラゴンズ・ダーククラン》の方が好きだな」


「決まりだな」

「うん!」


「『黒龍達の闇の集い』《ブラックドラゴンズ・ダーククラン》に?」


それだけは絶対に違う。

空気を読むんだイケメン。


「リーダーも楓瑠さんでいいですよね!」


「俺が?」

「他にいませんよ……」


楓瑠さんは少し考る素振りを見せ、仕方なく了承してくれた。


「じゃあパーティ名『仔犬達の宴』、リーダー篠鞘楓瑠。これでいいわね?」


「はい!問題ありません」



『仔犬達の宴』は今日から指導だ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

裏設定1


楓瑠くんの強さは英雄級下位くらいはあるけど、

本気を出したら騎士団や国軍からスカウトが来るからわざと力を抜いているよ。

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