第23話 初めての任務 前編
「どの依頼にします?」
「お前達はまだ下級冒険者だから1つ上の中級の依頼までしか受けられない」
「なら中級を受けるんですね!」
「……いや中級からは魔物や魔獣討伐が多くなる。初めは下級の方がいい」
冒険者協会依頼板の前にて俺たちはどの依頼を受けるか話し合っていた。
閑散とした冒険者協会内部にある酒場の壁際に依頼板が立て掛けられている。
木の板にチョークで内容が書いてあるだけのお粗末な依頼板だがなん十枚も並ぶと少しはマシに見える。
楓瑠は1つの依頼板を手に取り
腰にかけているカバンの中へと入れた。
「篠鞘じゃあねえか!」
そう行って飛び出して来たのはゴリラと見間違えるような容姿をした中年男性だった。
これにはムツゴロウさんもビックリだろう。
「ラリーゴか……」
「久しぶりだな!また懲りずにパーティ結成かぁ?えぇ?」
ラリーゴは歯をむき出して楓瑠にけしかける。
楓瑠も最初は無視していたが言葉をかけられる毎に
その顔は怒りで満ちていくのが見て取れる。
「可愛い娘ちゃんもいるみたいだなあ〜」
視線の先はもちろんミカだ。
「ひゃッ」となんとも可愛らしい声をだしたミカは慌ててラリーゴから目を逸らし俺の後ろに隠れた。
「これから依頼を受けるんだどいてくれ」
「死なないように頑張ってくれよ〜仲間殺しの楓瑠さ〜ん」
罵声を背に俺たちは冒険者協会を後にした。
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冒険者協会をでた後徒歩で依頼場所に行くことになった。馬車で行ったりするんだと妄想していたが儚く散ってしまった。
移動中は誰も何も言わなくてとても気まずい空気が流れていた。
「今から依頼の説明をするがいいか?」
「……」
俺もフォイアスもミカも誰1人として口を開かなかった。あって間もないが先程見た楓瑠への扱いをどうしても受け入れられなかったからだ。
「ラリーゴはな、俺が1番初めに入っていたパーティのメンバーに恋人が居たんだ……。あいつは悪くない悪いのは……」
「楓瑠は悪くないですよ!」
「いいんだよもう、それに慣れすぎた……」
このやり場のない憤りをどこに投げればいいか分からなくなって、とりあえず話を聞くことに専念した。
「今回の依頼はアクムレアという花の確保だ」
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下級依頼
依頼内容
アクムレアの確保又は栽培
依頼報酬
小判銀貨 1枚
銅貨 3枚
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「花?ですか」
内容に納得いかないのかフォイアスは答えた。
「そう花だ。フォイアス君が気にしているのは花では自分達の力が測れないとでも思ってるのだろう?」
その通りです。とでも言いたげな顔をフォイアスは楓瑠に向ける。
フォイアスは顔に出るタイプだ。
学校時代もミカに「私太ったかな?」と聞かれた時にはそんなことないなどと口では言っているが顔に出ているのでよくミカを凹ませていた。
学校のことを懐かしく感じる時が来るとは……
すごく時代を感じた。
「アクムレアの近くには『赤仔犬』《レッド クタービ》が生息している。『赤仔犬』との戦闘でお前たちの能力を推し量ろう」
フォイアスは「なるほど!」と言いたげな顔を楓瑠に向けた。
「わかったなら行くぞ、ついてこい」
太陽が俺たちを照らしミカとフォイアスの明るい髪色は楓瑠の黒い髪をよく目立たせた。
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ここはランス領クリンク村付近にある森だ。
名前を聞いたところでよくわかってはいないが自分で調べたところ冒険者協会から更に西に進んだところにありローリア王国とエーリュシオン王国のちょうど境らしい。
エーリュシオン王国は絶滅しかけている悪魔が住んでいる唯一の国だ。そんな国との境にある村だが治安は悪くない、なんならアルト村よりもいいくらいだ。
悪魔といえばイザークさんや第二王子のジークフリートなんちゃらさんのイメージが強いのでそこまで悪い奴らとは思えない。
「みんな見るんだ」
そう言われたので指さす方を見ると
2〜30センチの青い花が咲いていた。
蕾が異様に膨らんでいて「気味が悪い」印象を受けた。
「これがアクムレアですか?」
「あぁそうだ。恐らくこの近くに『赤仔犬』がいる。油断はするなよ」
俺たち3人(ペルセウス、フォイアス、ミカ以降は子供組と略します)は魔物や魔獣といった類と戦闘経験がない。
あるのは学校で習った対人戦闘だけだ。
世の中平和に越したことはないが
いざというとき動けなければ死ぬ。
当たり前のことだ。
「あそこだ」
「どこですか?」
「右前方にある木の後ろ、『赤仔犬』の尾が見えるはずだ」
言われた通り、気の後ろには犬の尻尾のようなモフモフが見える。
だけどどこが仔犬なんだ?
あれはどう見ても成犬、普通の犬の倍はある。
「私が行きます!」
そう行って前に出たのはミカだ。
このメンバーの中で一人称が私なのはミカだけだし当たり前だな。
剣に手をかける姿は今から魔獣を抹殺しに行くなんて誰も想像つかないだろう。
「1匹だけだが注意していけ、もし無理そうなら俺が救出する」
「はい…」
楓瑠さんそんな心配はいりませんよ。
だってミカは……
「『身体能力強化』《ブースト》プラス『力を欲する者』《パワー》!」
強いですから。
魔法と魔術を唱え終わると同時に彼女は地面を蹴り宙に舞う、その勢いのまま『赤仔犬』に飛びかかり片手に構えていた剣で首を切り落とした。
ミカの魔術『力を欲する者』の能力は単純に自分の身体の強化だ。それなら『身体能力強化』と何ら変わりないが、その能力真価は支援系魔法との相乗効果にある。
『力を欲する者』はミカの魔術発動時のステータスを参考に強化する。つまり『身体能力強化』を使った状態で魔術を使用すれば絶大な力になるのだ。
「終わりましたけど……どうかしましたか?篠鞘さん」
「い、いやもう実力はわかった大丈夫だ……」
楓瑠さんも驚いているようだ。
一見すると可憐で華奢な少女だがその内に秘められし怪力はフォイアスをも凌ぐ……
つまり彼女は怪力系ヒロインなのだ!
「いまの攻撃の音で敵が寄ってきているな」
「どうしてわかるんですか?」
「『魔力感知』《サーチ》だ」
「『魔力感知』……」
「知らないのか?正式パーティを組むことになったら教えてやろう」
「ぜひぜひ!」
『魔力感知』なんて便利そうな魔法の名前を学生時代では聞いた事がない。
冒険者特有の技術なのだろうか。
楓瑠さんの冒険者としての経験が頼もしい、
ここに来るまでも地形や植物などの性質から迷わずに来ることができた。
冷徹な人かと思ったが
少し褒めた言葉を使うと
楓瑠さんはとても嬉しそうな顔をした。
根は本当にいいひとなのだろう。
そうこうしているうちに『赤仔犬』数匹がこちらにやってきている。
「次は僕が」
フォイアスはそう言った瞬間に上級雷属性魔法『鳴雷』を派手に飛ばし『赤仔犬』を蹴散らした。
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〜後書きなるもの
篠鞘楓瑠くんは作者の溜まりに溜まった厨二心を詰め込んだキャラクターです。一応大和大国編を書くつもりで楓瑠くんの妹も多分出ます(多分)。
書くとしてもあと10章くらいは先なので何年後か分かりません。それまでに作者こと俺が世界が失踪する可能性が高いです。
それでは次回 初めての任務 後編 までおさらば
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