第22話 篠鞘 楓瑠という男

俺たちの目の前には黒髪、高身長イケメンのナイスガイが座っている。

3人の異なる視線を感じているのに彼は微動だにしなかった。

その視線にとうとう耐えきれなくなったのか篠鞘楓瑠は口を開いた。


「本当に俺でいいのか噂は聞いているはずだろ?それにまだ小さい子供じゃないか」


「歳はそこまで変わらないとドベールさんからお聞きしましたよ」

ドベールとは受付嬢の事だ。


「あいつ余計なこと言いやがって……」


「ペルセウスこの人は本当に大丈夫なのか?!」

フォイアスは訴えかけるが俺の都合のいい耳はそれを聞き取らなかった。


「篠鞘さん……。ぜひうちのパーティーに……」


「やめとけよなガキ共後悔するのはお前達だぜ?ほれ、そこの嬢ちゃんも何か言ったらどうだ?」


ミカはしどろもどろになりながら答える。

「えっ、私はペルセウスがいいならそれで……。」


楓瑠は俺たちの様子を見て鼻で笑うと、テーブルに用意された肉料理にがっつきはじめる。


「そんなんじゃすぐ死ぬぞ。俺の仲間みたいによ」


角度的に表情は見えないがそれが良いものでは無いと3人ともわかっていた。


「あの」


「なんだフォイアスとかいうやつ」


「失礼承知でお聞きします。お仲間達は殉職されたのですか……?それとも……」


「何が言いてぇ?」


フォイアスを睨みつけ威圧しているようだが上級魔法使いで上級剣術使いの彼には効果いまひとつのようだ。


「『あなた』が入ったパーティが『あなた』以外死んでいるなんて不思議じゃないですか」


「……死んだんだよ全員!俺を残してよぉ!」


この言い方からして篠鞘楓瑠が直接殺したわけではなさそうだ。


というかフォイアスのデリカシーのなさと物怖じしない度胸は尊敬に値しないね。

完璧超人だと思っていたがモラルに欠けているというか人間性が欠如している。

まるで親を失った子のようだ。


「俺が関わった人達全員、俺だけを残して死んでいく、そんなことならもうパーティーなんて……」


楓瑠の表情は一気に曇りその曇りが晴れることはなさそうだ。


篠鞘 楓瑠は前世の俺と似ている気がする。

全てを諦め生ける屍のような顔をしていた自分を暗転したパソコンの画面で毎日見ていたからわかる。


彼も挫折と後悔を繰り返しているのだろう。


そんな彼にかけるべき言葉を

この場で俺だけが知っている。


「もう頑張らなくていいんです」


「はぁ?」


「篠鞘さんはもう十分頑張りました。だからこれからは僕たちに手伝わせてください」


「子供が責任なんて背負えるわけないだろ、それに言っただろ。これ以上仲間を失いたくないんだ……」


「篠鞘さんだって子供じゃないですか」


楓瑠は木製のジョッキの中身を一気に飲み干した。


その顔にはさっきの曇りは無くなっていたが嬉々とした顔つきではなかった。

飲み物と一緒にも杞憂も飲み込んだように見えた。


「口に出すだけならゴブリンだって言えるぜ?」


「もし信用できないならいつでも殺してもらって構いません。それくらいの覚悟があって冒険者になろうとしているんですから」


「待ってペルそれは……」

フォイアスは言葉を口に出そうとしたようだがグッと飲み込んだようだった。


俺は空になったジョッキにナイフを投げ入れた。勢いを残したナイフはジョッキのバランスを崩し、バランスを保てなくなったジョッキは倒れた。



気づけば俺たち以外の冒険者はほとんどいなかった。そのせいか場の静けさが余計目立った。


「仲間になったとして、俺はお前たちの子守りをするほど器用じゃない。死んだら後にも前にも進めないんだわかっているのか?」


「私たちは弱くありません……」

ミカの手は震えていた。

「だから頼ってください!私たちに篠鞘さんの業を背負わてください。お願いします……」

「僕もお願いします。ほらフォイアスも」

「君がそう言うなら……、お願いします」



「はぁぁ〜」

楓瑠の間の抜けた声にさっきまでの殺伐とした空気感はなくなっていた。


「俺の負けだ。お前たちのパーティに加わってもいいが最終判断は1度任務を行ってから決める。いいな?」


「はい!」



俺たちの4人の旅はまだまだ続きそうだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


昼頃、1人で冒険者協会辺りをうろついていると受付嬢のドベールに半ば強引に新しいパーティの招待を受けた。


もちろん俺は断るつもりだった。

彼女とはそれなりに付き合いは長いので彼女なりに俺を気遣ってくれているのかもしれないが、今の俺にとってその行動は逆効果だった。


パーティの仲間が次々と死んでいった。

原因は不明、いつも俺一人を残して仲間は去っていった。


そんな俺をパーティに入れようとする物好きはいなかったので少し不思議に思っていた矢先、案の定と言うべきか下の毛も生え揃っていなさそうな子供達が椅子に座っていた。


テーブルには俺用の飲み物とつまみ物も置いてあるようでしっかりと教育はされてきたのだと少し安心した。


そんな教養のある子供達が自分になんの用なのだろうと気になった。下手に優しくして懐かれでもしたら困るので強気でいけば……なんて思った。



「本当に俺でいいのか噂は聞いているはずだろ?それにまだ小さい子供じゃないか」


色々考えた結果こんな言葉しかでなかった。


「歳はそこまで変わらないとドベールさんからお聞きしましたよ」


ペルセウスとかいう、俺の事を見る度にニヤニヤと笑み浮かべた子供が答えてくれた。

全くどうベールのお節介には懲り懲りだ。


色々話していると自分のことをこんな小さな子供達に語り出していた。


「俺が関わった人達全員、俺だけを残して死んでいく、そんなことならもうパーティーなんて……」


もう俺なんて生きていても意味がないから

死んでもいい気がしてしょうがなかった。


死のうとしたことは今まで何度かあった。


故郷大和大国で妹が行方知らずになったとき


そのことを国はまともに取り合ってくれなかったとき


国を抜けて冒険者になることを目指したとき


そしていまこのとき


この子達を適当にあしらってその後近くにある川で入水でもしてもいいなと思って、でも死ぬのは怖くてさらに気分が落ちた。


もう頑張りたくなかった。

もう息のない仲間の身体を背負うのはごめんだ。


「もう頑張らなくていいんです」

一瞬心でも読まれたのかと混乱したがそんなことよりも自分の心が軽くなっていたことに驚いた。


こんな小さな子供に救われた。

小さいのに不思議と大きく見える気がした。


「子供が責任なんて背負えるわけないだろ、それに言っただろ。これ以上仲間を失いたくないんだ……」


正直言うとこの子達のパーティになら入っても悪い気はしないなと思い始めていた。


「篠鞘さんだって子供じゃないですか」


ハッとした。

こんなに小さくも大きい子供達と俺の歳はそこまで変わらないのだとあらためて気付かされた。


俺も子供だったことを思い出した。

今まで生きていくだけ精一杯でそんなことすら忘れていた。


でも俺はこの子達を守れない。

守れる自信がなかった。


「私たちは弱くありません……だから頼ってください!」


女の子に続き一行は頭を下げた。


俺はこの子達を守りたい気持ちではなくて

仲間になりたい。

そう思った。


俺たちの4人の旅はまだまだ続きそうだ。

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