冒険者編 少年期

第21話 ようこそ冒険者協会



ローリア王国ランス領。

ローリア王国の西側に位置するこの場所は別名「始まりの街」と呼ばれることもある。


なぜ「始まりの街」か、

それはこの街に冒険者協会があり数多くの英雄を生み出した実績があるからだ。


異世界RPG系ゲームなら名前の通り始めに訪れるだろうが、俺はここに来るまでに12年も時間を費やした。


理由は簡単

俺が異世界転生したからだ。

DQN2人組から殺されたかと思ったら急に異世界転生……。

今ふりかえってみると中々ハードな人生だったな。

転生したらしたで転生特典なんて貰えなかったし

貰ったものと言えば使い所のない謎の魔術くらい。


そんな俺も今、冒険者協会の前に立っている。

俺たちは勇ましく立ち並び冒険者協会を眺めていた……。なんてことは3人のうち2人はその場で倒れ込んでいた。


魔物や魔獣に追われたわけでも途中でも盗賊団に襲われた訳でもない。

それは現代でも経験したことある人は多いのではないだろうか。

つまり要するに


俺とミカは馬車酔いしたのだった。


協会の周りには屈強な冒険者で溢れていたが、俺たちの周りには不自然な空間があった。

いかなる敵をもなぎ倒してきた冒険者でさえ俺達の吐瀉物を避けていく。


フォイアスはそんな俺たちの背中をさすりながら周りの人に詫びていた。


スッキリしたあとやっと冒険者協会に足を踏み入れた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「結構広いんだね」

「しかもキレイだ」

冒険者協会はもっと汚いイメージがあったが

実際は小綺麗な酒場みたいな感じだ。


周りには中年過ぎたおっさん達や

俺たちと歳の近そうな子供までいる。


この世界では子供が働くことは珍しくない。


特に冒険者なんかは少量の入会料さえあれば誰でもなれるので特に多いらしい。

俺たちのように自ら志願して冒険者になる者の方が珍しいと馬車の運ちゃんに聞いた。


酒場の奥にある受付へ向かう。

受付はマニュアル通りの笑顔を貼り付けた獣族のお姉さんが対応してくれた。


「ご要望はなんでしょうか?」


「あっ、えっと僕達冒険者になりたくて」


受付嬢は表情には出さなかったが不安気な雰囲気を見せた。「また子供がきた」とでも思っているのだろう。


「でしたら1人に付き小判銀貨2枚と書類を書いていただきますがよろしいでしょうか?」


「はいもちろんです!」


財布を探すために体を探るがどこにも見当たらない。一瞬スリにでもあったかと考えたがフォイアスに預けていたことを思い出した。


「フォイアス財布もってる?」


「これでしょ」


「ほいっ」という掛け声と一緒に安っぽい袋が投げられる。そのまま弧線を描き手に収まる。


財布なんて名前で呼んでるけどただの年季の入った小さい麻袋だ。


そういえば中学生の頃は機能性が悪い癖に謎にチェーンやらドクロが付いた財布使ってたな……。

ああ思い出したくない。


「3人分の小判銀貨6枚です」


「ではこちらの書類に皆様方の名前とサインをお願いします。」


羽根ペンにインクをつけ名前を書き始める。

始めは静観していた受付嬢だったが

ミカが名前を書き始めるとみるみるうちに顔に血の気が無くなっていく。


それもそのはずミカのフルネームは

ミカ・サードルフ・モレナ、この国を知るものなら彼女が領主と深い関わりがあると気づくだろう。


「あ、あなたは領主様の……」

さっきまでの営業スマイルを忘れたのか笑顔が消えていた。

ミカはなだめるように優しく少し申し訳なさそうに

「娘です……」といった。

ミカの口から『娘』が発されると受付嬢は腰を抜かした。


「でも、あの……普通の一般人として扱っていただいた結構です」


「そんなわけにはいきません!すぐに高ランク冒険者の護衛を手配します!」


「いえ大丈夫です。私はこの2人とパーティを組むので」ミカはそう宣言しきったが返答は予想外なものだった。


「申し訳ありませんがパーティ結成は昨年から『4人』必要になっています……それと先程の失言はどうかお忘れください。」


3人は互いの顔を見合い「4人?!」と声を揃えて言った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜冒険者協会テーブル席にて


3人は頭を抱えて悩んでいた。

いや、実際に頭を抱えているのはペルセウスだけであと2人に対しては比喩表現なのだが……


昼過ぎで人で賑わう冒険者協会にわざわざこの不思議な一行に自ら絡もうもする者は誰一人としていなかった。


「どうするよ……」

ペルセウスは頭を抱えていた手をようやく離し問いかける。

「私たち以外にあと一人集まるかな?」


「最低でも中級魔法はいくつか扱えるレベルではないと僕たちにはついていけないよね」


冒険者にもランクがある。

魔法や剣術と同じく下から

下級 冒険者

中級 冒険者

上級 冒険者

英雄級 冒険者

伝説級 冒険者

神話級 冒険者の計6つのランクがある。

俺たちは1番下の下級冒険者からのスタートだ。


この「始まりの街」には居たとしてもせいぜい上級冒険者くらいだろう。その上級冒険者が俺達のパーティに入ってくれるかはまた別の話になる。


何も実績のなく構成員が全員子供。

そんなパーティーに入りたいと思う者がいるだろうか?


答えは1つ「NO」だ。


「ペルセウス様〜!」

声の方向を振り返り見ると受付嬢がこちらへ小走りで来ている様子だった。


「お金とか足りなかったですか?」


受付嬢は腹に手を当て息を整えている。

「コホン」と咳払いをすると

「元高ランク冒険者で現在どこのパーティにも属していない者を発見したのですがどうしますか」


「それは願ったり叶ったりです!」


「ペルまずは話を聞いた方がいいじゃないかな」


確かにと俺は頷く。

「一体どんな人なんですか?」


「えっと〜……。上級の剣士です。あとは『黒髪』なんですけど問題あるでしょうか」


少なくとも上級剣士以上の実力、

何も問題ないように思えるが……。

何かが引っかかる。


テーブルに置いてあったリンゴジュースを一気に飲み干す。からになった木製のグラスを除き違和感を探る。


そうかわかったぞ違和感の正体が。

俺はもう一度受付嬢と向き合う。


「そんな優秀な人材がなぜ他のパーティに入って居ないんですか?」


受付嬢は痛いところを突かれたのか目を泳がせる。


「実はある噂が回っておりまして」


「噂?」


「その人が入ったパーティが全て半年以内に壊滅しているとか何とか……」


冒険者にとって情報は命だ。

こんなデマを流す冒険者は居ないだろう、もし嘘の情報だとしたら相手にされないはずだ。


きっと噂ではなく事実なのだと思う。


それでも今は人材不足だ。

3人じゃ活動できないから最低でもあと1人必要になる。


そんな迷信を気にしていたら冒険者なんてやって行けない気がする。


でもその話がこのパーティーで起こりでもしたら怖くて夜しか眠れないのでここは一旦キープしておこう。



「一応名前だけ聞いといてもいいですか?」


「名前は……」


受付嬢はボードに目を通し必死に何かを読んでいるようだった。


「大和大国出身なので少し独特なんですが

『篠鞘 楓瑠』さんという人です」



俺は名前を聞いた瞬間に『篠鞘 楓瑠』をこのパーティーに入れようと決めた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

後書なるもの

学校編を急に終わらせた理由は伏線ほとんど置きおえて早く戦闘したかったからです。(異論は認めん)今回名前だけでた篠鞘 楓瑠(しのさや ふる)は作者の厨二病を詰め込んだ人物なのでお楽しみに。

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