第20話 卒業(変な意味じゃないです。)
エルシア暦488年 3月9日。
風がよくなびく草原の上で男女3人(男2人に女1人)が雑談している。決して男2人が女の子に言い寄っている訳ではなく例えるなら『昼休みの空気感』に似たものがその場に流れていた。
草原のすぐ近くにはゴシック様式の大きいとも小さいとも言えない建物が立っている。
家畜か魔獣かそのどちらでもないかもしれないが革のような素材でできたカバンを少年たちは持っていたため、それが通学用のカバンで彼等は近くにある建物に向かっている途中なのだと容易に想像できる。
風で乱れた前髪を指で撫でながら少女は言った。
「ペル、今日で終わりだね。」
ペルと呼ばれた少年は少しだけ悲しそうな顔をしながら答える。
「6年間か……。ここを出ていくのは寂しいけど俺たちはこれからも当分の間は一緒だよな?」
残りの知的そうな少年は先程の少年とは対照的に嬉しそうな顔を浮かべ答えた。
「そう!終学会を終えたら僕達は西に向かってランス領で冒険者になるんだから!」
さっきまでの知的な雰囲気は微塵も感じられず、熱心に説明している様を見て2人は「またか……」とこれ以上ヒートアップさせないようにとなだめている。
そして3人は建物に入っていくのだった。
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今日は終学会だ。
6年経つのはあっという間だったと思う。
改めて言うが
魔術とは基本的に10歳までに定着する
個人個人で能力が違い魔法同様、魔力を消費するものだ。
俺はいま12歳だが訳あって自分の魔術を他人に明かせない。
事情を知っているのはフォイアスあとこの前みかにも言っておいた。
他の人達からは「魔術使えないけど魔法は結構使える努力家」などと言われ少々鼻が高くなる。
忘れている人も多いかもしれないので一度復習しておこう。テストに出るかもしれないから覚えておきましょう……。
神様から貰った魔術『人に作られし物』《ホムンクルス》は人型の何かを作り出す能力。
気色の悪さで言ったら魔術一は確実だろう。
それだけじゃない。
この魔術は大型トラックもビックリの燃費の悪さで少し動いただけで魔力をグングン吸われ俺とはすこぶる相性が悪い。
そんな魔術を授けた神様を恨んでいるかと聞かれたらそうでもないのだが、いつも黒い箱の中にいるあの神様を信用していいのか未だにわからない。
ただ断ったら何かしてきそうなので従うしかないのが現実だ。
2年生までは頻繁に夢の中に現れた神様もこの4年間は1度も現れていない。
最近、「あれは幻想だったのでは?」とまで考え始めている。
俺は結局卒業までに全魔法を中級まで習得する課題をクリアできなかった。
だがしかし俺はもう1つの条件である「上級魔法を1つ習得すること」をクリアしたのだった。
魔法種は『錬金法』魔法名は『構成』《テクニシャン》。要約すると細かいものを作れるようになる能力だ。
何やら卑猥に聞こえてしまう魔法名だが、さすが上級と言うべきかなかなか画期的で便利だ。
前までの『錬金術』《アルケミー》ではモンハンで言うところの太刀を作ることしかできなかったけど『構成』はスラアクを作れる的な〜感じかな。
『構成』はこれまでの魔法とは大きく異なりただ魔力を込めればポンポン出せるなんて代物なのではない。魔力量少ないから今でもポンポンとは出せないんだけど……。
『構成』はまず使用者が設計してイメージしなければならない。
「あれが欲しい」とか「いでよ神龍!」みたいな曖昧で抽象的では失敗する。
建築家や発明家みたいに作りたいものをイメージするのだ。開くドアを作りたいと思ったなら丁番やビスもイメージしなければいけない。
魔法の基本はイメージだと以前ペヤードに教わったが本当にその通りだ。上級以上になっていくと自分のイメージが大切になっていくそれに合わせて知識も必要とされる。
他の上級魔法も例に漏れなく、イメージは大切で魔法を出す時に具体性を求められる。
イメージしたら前世にも戻れるのでは?と思って試みたがそんなに上手くいったら人生苦労しない。
神様が言っていた『魂』が重要な気がする。
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さっきも同じようなことを聞いたかもしれないが今日は終学会がある。
これといって特別なことがある訳でなく例年通りの今まで変わらない普通の終学会だ。
俺たち終学生は少し大きいホールに誘導され色々な話を聞かされていた。
初めは感動したリシア校長の演説も2回目の終学会でテンプレ化されていたことを知り、ちっとも感動しなかった。あの人そういう人なのだとこの6年間嫌というほど知った気がする。
学校に実費で闘技場を作るような人だからな……。
「次は成績優秀者発表です。」
生徒は立ち上がり
「俺」と数人の生徒は前に出た。
選ばれた事を知ったのは昨日の夕方のことだ。
突然俺とほか数名は呼び出されリシア校長直々に告げられた。「あなたが今年の成績優秀者です。順位分けは明日するので楽しみにしておいて下さいね。」だそうだ。
「首席」
始めのコールがかかる。
1位はやっぱり「アイツ」だ決まっている。
学校の中ではいつも1位、歴代生徒の中でも群を抜いている才覚を持ち
そして俺の『友達』《ライバル》だ。
「フォイアス・アルト・ガントレット。」
全生徒「これが当然だ」と言わんばかりの顔をして満足そうに拍手をする。
フォイアスは上級魔法を6つそれに加え王流剣術と大和流剣術も上級までにした天才の称号を欲しいがままにした誰もが認める学生内最強の男になった。
合コンで隣に座って欲しくないランキング堂々のナンバーワンも取れるだろう。
顔もいいし……。
フォイアスは賞状筒を受け取り席に戻った。
何をしても絵になる男である。
「次席」
次席か〜。
正直誰になるかわからないんだよな。
「ペルセウス・フリーゲン。」
ペルセウス・フリーゲンね。
確か英雄の名前から取ったんだっけ、ペヤードとマリアードがつけてくれたこの世界での「俺の名前」だ。
え?俺の名前?!
「は、はい!」
手と足を同時にだし緊張を体にあらわにした。
正直選ばれると思っていなかった。
俺は思っていた以上に自分のことを過小評価していたのかもしれない。
ペヤード達が俺に手を振って自分の事のように喜んでいる。本当に良い親から生まれたと思う。
俺も賞状筒を貰い席に戻る。
席は基本自由だったのでフォイアスの隣に座った。
前世で言うところの卒業式なのに席が自由なところに文化の違いを感じる。
「次席おめでとう!」
「やっぱりフォイアスはすごいな。いくら頑張って追いかけても足跡すら見えないよ……。」
「なんかごめん……。」
「謝るなよ、なんか俺が悪いみたいじゃん。」
傍から見ればフォイアスが嫌味を言ったように見えるかもしれないが心から祝ってくれていることを俺は知っている。
フォイアス・アルト・ガントレットとはそういう人物なのだから。
「あとは『3人』だな。」
「うん。参席がこんなに多いのは久しぶりらしいよ。」
「参席……」
前にいる3人は次は自分かもしれないという緊張感からかムズムズしだした。
「エリン・シャンドリア」
誰?と思う方もいると思うが
分からない人は魔法決闘を思い出して欲しい。
1年の時から魔術を扱うことができ、いつもクラスの中心にいた陽気な女の子だ。
彼女には双子の兄がいるが成績優秀者には選ばれなかったみたいだ。
エリン・シャンドリアは魔法の扱いに長けていて
特別クラスでもおかしくない実力を持っている。
特に風魔法は学校内でもフォイアスに次ぐレベルなので彼女の技量を伺えることだろう。
「同率参席バレル・ケモナー」
次はみんな大好きバレルのご登場だ。
バレルはこれといって得意なことは無かったが逆に言ってしまうと苦手なものもなかった。
だから全ての分野を平均かそれ以上の水準で習得し教師達からの支持も厚かった。
少し教師から褒められる度に耳をぴょこぴょこと動かしドヤ顔でこちらを見てくる光景は今でも忘れられない。
2人ともこちらへ戻ってきたようだ。
卒業する悲しさよりも優秀者に選ばれたことが嬉しいのだろう、涙なんて微塵も浮かべていない。
代わりに満面の笑みを浮かべていやがる。
「残りは1人。」
「だね。」
独り言のつもりだったが隣のフォイアスに聞こえていたようだ。
「同率参席ミカ・サードルフ・モレナ。」
「はぁ……はい!」
大勢のプレッシャーからくる緊張で顔が強ばっている。オドオドしながら賞状筒を受け取るその姿にも気品が感じられ彼女は貴族なのだと再確認できる。
ミカはあまりできのいい方ではなかった。
剣術も魔法も幼少期からずっと英才教育を受けてきたため他の子供たちよりも覚えたのが早かっただけだ。
ミカも俺と同じ凡才だった。
なぜ俺たちが選ばれたのか、理由は単純で死に物狂いで努力をしたから。
それでも次席と参席。
首席がフォイアスなのは誰もが分かりきったこと、
でも俺たちはそこで諦めなかった。
限界まで手を伸ばして足掻いて
フォイアスに追いつきフォイアスと同じ土俵に立とうとした。
結局、同じ土俵には立つことなんてできなかった。
でもこの無謀な挑戦のおかげで次席になれた。
ミカは参席になれた。
努力は裏切らないなんてことは思わないけど
何もしないと何も起きないのは当たり前のことだ。
フォイアスを見て
「すごい」「かっこいい」と傍観者側になるのか「俺も追いつきたい」「私も強くなりたい」と好敵手側になるのか……。
どちらになるかは自分で選べる。
選ぶだけなら無料だ。
なら選ぶしかないだろう。
俺もミカもいつかは友達としてではなく仲間としてフォイアスの隣に立ちたいと思っている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ペル。ちゃんと荷物は持ったか……」
「うん」
「ちゃんとご飯食べるのよ」
「分かってる」
「変な人について行くんじゃないぞ」
「お父さん……僕ももう子供じゃないんだから。」
「お前はまだ子供だ。今もこれからも」
ペヤードから貰った紙をポケットにしまい、
ドアノブに手をかける。
ゆっくりと下げて家から出ようとする。
俺は後ろを振り返りもう一度ペヤードとマリアードと向き合った。
「…………」
「行くのね。」
「頑張れよ。」
「お父さん。お母さん。」
俺はドアを全開し
再び前を向いた。
そのまま後ろを向いていたら泣いているのがバレてしまうからだ。
この2人とはしばらく会えないだろう。
だったら最後くらい後悔ないように
前世の両親にも届くくらいに
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
〜創世の
次回 創世の
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