おんなだけど、いいの?
米太郎
飛行機雲
青い空と、青い海
水平線はどこまでもまっすぐ引かれている。
私の気持ちとは正反対だな。
空は雲一つなく澄み渡っていて、気持ちの良い海風が頬を撫でていく。
風はいつも優しいな。流した涙を拭いてくれて。
「見る目なかったなー!」
綺麗な空と海に向かって、私の気持ちを投げ捨てる。
運命の赤い糸だと思って手繰り寄せても、ぐちゃぐちゃに絡み合っていて。
いつも違う女に辿り着く。何回目だろう、浮気されたの。
彼の手からは、何本も糸が出ているんだろう。
そもそも、私と彼は繋がっていたのかな。
繋がっているかも分からない糸なんて、私の方から切ってしまおう。
そうしたら清々する。
そう思って、スマホから彼の連絡先を消した。
ろうそくの灯が消えるように、切れた赤い糸はそっと燃え尽きた。
赤い色なんて、私の気持ちには合わない。
この空にも似合わない。
芝生の上に寝転がる。
静かに一人になりたいって海まで来たけど、本当に静か。
この世界に、私以外に誰も存在していないみたい。
澄んだ心で空を見上げると、ゆっくりと飛行機が飛んでいるのが見えた。
飛行機が通った後には、白い糸が出ているみたい。
あんな飛行機雲みたいに、まっすぐ絡み合わない糸がいいな。
まっすぐまっすぐ、どこまでも。
飛行機雲を目線で追って寝返りをうつと、そこにはユキが立っていた。
「あおい、心配したよ?」
そう言って、ユキは飛行機の進む側に座った。
空に浮かぶ雲のように白い肌が綺麗。
「なんでここにいるのが分かったの?」
「嫌なことがあると、いつもここに来るじゃん」
ユキって、綺麗な声なんだよな。
心地良い声を聴きながら、私は寝転がったままユキの小言を聞く。
「あんな匂わせたメッセージ送っておいてさ」
ユキは、私のことをなんでも気づいてくれる。
「『私を迎えに来て』って言ってるようなもんだよ」
ユキは、私のことを誰よりも心配してくれる。
「何かあればストレートに私に言ってよ。助けに来るから」
そこまで聞いて、私は景色に似合わない色に頬を染めていることを自覚した。
自分からは見えないから、気にしないもん。
「……また、独り身同士になったね」
ゆっくり進んでいた飛行機がユキの後ろ側まで飛んで行った。
飛行機雲の白い糸が、ユキに繋がるように見えた。
私には、白い糸の方が合っているのかもしれない。
「赤い糸じゃなくて、白い糸なんていうのも悪くないと思うよ?」
白い糸。
そんな繋がりは、飛行機雲のようにいつか消えてしまうのだろう。
けれども、まっすぐな糸。
なにとも絡みあわない、まっすぐな糸。
そんな糸と繋がってもいいと思えた。
「あおとしろが交じり合ったら何色だと思う?」
「うーんと、みずい……」
起き上がりざまに、ユキにキスをした。
こんなことして、明日は雨模様かも。
飛行機雲の糸が消えたらどうするんだろ、私。
「答えは、赤色だよ」
私とユキの頬の色が答え。
できれば雨じゃなくて、季節外れのユキが降ればいいな。
そんなことを思いながら、私はユキに埋もれるように抱き着いた。
そっと耳打ちして、混ざり合う色を楽しんだ。
「大好きだよ」
「私もだよ」
おんなだけど、いいの? 米太郎 @tahoshi
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