第10話:デカい水とパッサパサの携帯食料
「…………ふふっ」
なにわろとんねん………。
「フーッ…!フーッ……!」
汗をビッシャビシャにかきながら近くに積んであった大量のでっかい水のペットボトルを取る。ももで挟んで抑え右手で蓋を開けぐいっと飲む。もう左手はガソリン発電機くらい振動している。……ウケるなぁ。
ゆっくりグーパーして握力を確かめる……。今日はもうこれだけで泣きそうだけど明日になればどうだろう、軽いものの保持とかはできるだろうがなんかケンカとかとっさに掴むこととかはできないと思う。……さっき思いついた片手用の武器を作っておくか。素手よりはマシな程度だと思うけど。
「あの……今コレどういう状況……?」
サテライトちゃんが話しかけてくる。まだ立っていた。
「あぁ、消毒ありがとうね。んにゃ、別に好きにしていいよ。僕は今日ここで寝るけど、どっか行きたきゃ行けばいいし」
「……変な人だ」
「まぁ、自覚はあるけど。……外は聞こえる限りだいぶ警察いるから出ない方がいいと思うけどね」
お巡りさんの首いわしたうえに銃声まき散らしながら走り回ったらそらそうなるか。たぶんだけど、あのお巡りさんからすれば僕も”オウムアムア”の一員だと思われて捜査されているに違いない。……今ごろ、元気してるかなぁ、あのおっさん。
あの公園を飛び出してサテライトちゃんとかくれ鬼を始めてからだいたい15分、いや20分かな?経ったけど……こういう事件の犯人っていつまで隠れりゃいいんだろう?
「……いや、いい。ワイもここにいるやで……。怖いけど。賽ノ助さんが」
ちょっと離れたところに座りながら失礼かましてくる。
「え?んだべが……。こいでめっちゃ優しくしてらんだどもな」
銃弾ブチ込まれたのに相手を無傷で済ましてるし。顔は1発はたいたけど。
「僕はボイド以外は殺す気は無いよ。女の子は気が引けるしね。それくらいの分別はあるってば……一応もっかい確認しておくけどさっきのドローンの攻撃は急所を狙う気はなかったんだよね?」
持っている物を全部ローテーブルに並べる。借りた細いドライバーで新しい武器を作りながら、しっかり目を見て質問してみる。……片手だとつらいな。
「なかったって…!いや、銃使った時点でダメやんな……」
逸らされた。
「アレの操作って難しいの?っていうか何アレ?手作り?」
「せ、せやで。ドローンとアーム組み合わせて撃てるようにした……難しかったけど、めっちゃ練習したから……」
「………じゃあいいよ。僕が邪魔者なのは分かってるし。キミが殺す気だったらダメだけどもう何もしないならこっちも何もしない」
たぶん噓はついてないと思う。女の子になんかするのは気が引けるので助かった。
「………きも」
お?………まぁそうか。
「ジェットくんもそうだったけど、2人揃って優しいね。消毒手伝ってくれたし。殺さないようにしてくれるしさ」
事情があるんだろうがこういうことするの、たぶん向いてない。僕には関係ないけどな。
「……せやね。お兄ちゃんは優しい。賽ノ助さんと違って毒針も持ち歩かないし。……え!?なにやってんの……?」
やっと取れた。
「ハトの頭からくちばし外したところ。いる?」
適当に返事しながらくちばしのなくなったハトの頭をまたポケットにしまう。すぐ埋めなかったことに感謝する日が来るとは。
ちなみに顔を上げたら、サテライトちゃんはさらに遠ざかっていた。
その後も黙々と加工して、最後に使えるかを確認してみる。…………グッとやっても壊れない。これならまぁ武器になるだろう。
「うわ……ドン引きなんやけど、賽ノ助さん友達おらんやろ」
「え?ふふっ……いるよ。ホントはソイツに会いに東京に来たんだけど、迷子になってる内にここまで来ちゃった。しったげウケるでな」
「……笑えない」
それもそう。
「結局何なの?賽ノ助さんって。ボイドは『鬼ごっこの鬼が増えた』とか抽象的なことしか言わへんし。ワケわからんくらい捕まらんし」
「鬼なら捕まえないでよ……僕は秋田の…一応フリーターか?実質マタギみたいなとこもある田舎者だよ」
「聞いてもワケわからん…………」
「別にいいよそれで。分かんないのはこっちだよ。なに?テロリストって?」
自分から行っているのは認めるけど、僕はいったい何に巻き込まれたんだとは思う。
サテライトちゃんは下を向き口ごもる。ギラギラした原宿とやらにいそうな女の子がおどおどしてる様は非常に似合わない。
「それね……ウチはお兄ちゃんについて来たから…他の人のことよく知らないの」
それでいいのか……?どうもずっと目的がハッキリしてない不気味な組織なんだけど。
「いろいろな目的のある人をボイドが集めたんだって……アイツの目的は知らないし……よく考えたらめっちゃ怪しいよね……」
よく考えないと分かんないかなぁ……?怪しさしかなかったけど。
「身の振り方は落ち着いて考えなね……」
何ともそれしか言いようがない。
「じゃあ僕、あっちで寝るから。もし電話鳴ったら起こして」
唯一デスクあるデスクを指す。久々の屋根なのはいいけど横になりたいし回転イスは止めておこう、床でいいや。
「……なんでそんな落ち着いてんや……キモいって……」
長い方のソファを居住地にしたサテライトちゃんが言う。さっきからずっと聞こえてるんだけど、僕って勝ったんだよね……?
「じゃ、おやすみね……」
明日こそこの一連の事件が終わるような気がする。
「――ぬぅ……?」
カラスの声で起きる。すりガラスの向こうは薄っすらと青白い、たぶん6時とかかな。
かゆ~い頭をかきながら身を起こして辺りを見回すとソファですやすやしてるサテライトちゃんが見える。たぶん16とかに見えるけど、寝てる分には年相応に見える。
「……なにこの状況?」
なんで僕敵と仲良く寝てんだっけ?アレ?
…………僕だな?会話を思い出すと全部僕のせいだった。腕痛すぎてバカんなってたかも。この子がかわいそうだと思わないの?
デカい水とパッサパサの携帯食料を拝借する。これいっつもじさまが買うヤツと一緒だわ。2Lのペットボトルを掴んでで左手の具合を確かめる。
「んぎっ」
……いったぁ……。持ち上げるのでやっとだな。だる~い。
「…………んえ?…………は?誰?」
「あ、起こしちゃった?」
サテライトちゃんが虚ろな目でキョロキョロして、次第に覚醒していく。
「おはよう。僕も起きてすぐなんも分からんかったよ」
「………おはようございます。思い出したけど……改めて意味が分かんないです」
「まぁ僕も。思いっきりかくれ鬼でケンカして僕もワケわかんなくなってたとこあるから許してね……」
「うん……こっちこそごめんね……」
寝起きだとめちゃ小動物みたいだった。
『起きてイオリ、朝だよ。起きて。』『起きてイオリ、朝だよ。起…』
バンッ!!
「……いやっ!これは、ね?えへへっ……!ヤダなぁ……もう……」
ダウナーな声でサテライトちゃんの携帯が喋った。………なんか最近聞いたような声だけど。ま、いいか。
「あ、そうだ。今何時?」
「え!?……ああ時間ね!?んっんぅ!……7時やね」
アレ?……時間感覚もちょっとずれてる。思ったより疲れてるかな。
「てか賽ノ助さん、自分の携帯は?」
「一昨日ね、東京タワーで解散したあと壊されたの。あの小っちゃい女の子に」
たしか東京タワーの展望台の高さが150mくらいで……外階段に出たのを見たからたぶん狙撃地点もそれよりちょっと低いくらいかな?その高さだと風も強いだろうし訓練されてると思う。それにしても陰に隠れた相手の携帯を撃ち抜くのは異常だ。位置関係で言うと弾道落下は計算に入れなくていいのかもしれないけど立ち位置まで絶対計算されていた。何者なんだろう。
「あぁ……ポラリスちゃんね。あの子一番喋らんくて何にも分からないんやけど……元々ボイドと一緒だったみたいで。アイツの言うことしか聞かへんのよね」
……この子、ぜんぜん情報ないぞ?コミュニケーションが……?
ブーッ……!ブーッ……!
「あっ電話」
デスクの上に無造作に置かれていた携帯が振動している。
「ハイもしもし」
『おはよ――ん?あれ?サテライト?』
「ハイ、サテライトちゃんです」
『……………………』
「おい、聞いてっか?サテライトちゃんだぞ、なぁ」
『……へぇ、そうか、キミだったか……。そうかそうか……ブフッ…!』
コイツほんと笑い方キモいな。
『ブヒャヒャヒャッ……ゲホッ!ジェットを止めたのもキミだね……!?まったく、期待以上だ!あるいは一番の障害はキミだったかもしれない!』
「声でっか……まあ確かに止めたけど。僕が用事あるのはボイドくんだけだからさ、お前が出てきてくれれば別に止めなかったよ?」
ふと目をやるとサテライトちゃんが不安そうに見ていた。
『ん~。ちなみに用事って?』
「殺す」
もはや譲れない。これは僕のルールだ。
『……もう最高。賽ノ助くんのことを僕は全然知らないんだけど、迷子だったんだっけ?これはもう運命だネ♪』
「お前は僕に殺意を向けた。そういうのは許さないことにしてるんだ。引鉄を引いたのはお前じゃないけど、肝心なのは殺意だ」
僕が口を開く度にサテライトちゃんが引いていくのが分かってちょっと面白い。手でも振っておこう。
『いいよ!どうやら最大の鬼はキミだったみたいだ!じゃあそろそろ配信をして……サテライトが居ないとなると……ちょっと用事があるからさ、東京タワーで待っててよ。そうだなぁ、夕方になっちゃうかもだけど』
「……分かった。……あ、サテライトちゃんに代わるか?」
『ぼほっ!……真面目だね。いや、いいよ。お疲れ様、あとは好きにしてって伝えておいて』
「じゃあ、後でな」
「……わっ。どうなったん?」
電話を切り、サテライトちゃんに投げ渡す。
「うん、殺したいって言ったら夕方、東京タワーで待ってるってさ。サテライトちゃんのことは……『お疲れ様、あとは好きにして』ってさ」
ふと思いついて声マネをしてみる。
「あぁ、ふいんき似てる。……そう、用済みなんやな。参ったなぁ……。お兄ちゃんは今ごろ逮捕やろか……?」
やった。レパートリーが増えたのでメモ帳に……ねぇや。
「知らないね。でもなんか仮面付けてたでしょ?ひょっとしたらバレてないんじゃない?知らんけど、僕が羽田空港で通り魔扱いされてそうだもん」
つまりバレてないとなると僕の身柄が危ないワケなんだけど。
「……なんとか分からへんかなぁ」
屋上でぐしゃぐしゃにしたアレのことかな。じゃあしょうがないよね。
「じゃ、夕方まで時間あるし……行ってみる?病院」
昨日の下調べのときに見た周辺案内図ではたしか複合されてる診療所とかがあったハズたぶんそこに放り込まれてると思う。ただもう出てたら知らん。
「え?いいんか?」
「うん。キミ1人じゃ捕まりそうだし、ここに置いてくれた恩もあるし。僕はさすがに中まで入れないけどね」
ほぼ脅迫したようなものだけど。
「ありがとナス……」
「なんて?」
「いや、ありがとうございます……」
「――あの、改めて、ホントにありがとうございます……」
あのビルを出てからずっとこの調子だ。あの東北人でもそれと分かる中途半端な関西弁は鳴りを潜め、卑屈とまで言えるような態度でうやうやしくついて来る。
「それにしても……凄いですね。警察どころか全然人に会わない」
しかもこんな感じでずっと下から持ち上げようとしてくる。その内揉み手とかしてきそう。
「それはほとんど偶然だよ……慎重に歩いてるだけで」
「いやぁ凄いですよ……賽ノ助さんにはかなわないなぁ…実際そうだったし」
何が目的なんだろう……正直こっちの方が不気味で怖い。それともこっちのが素だったりするんだろうか。
「うん……あ、そろそろ着くね」
空港が見えてきた。
「うわっ……!しかも早い…!さすがでヤンスね……!!」
いや、この子ふざけてるかも?
「じゃあ僕はここらに居るからさ。確認できたらここから見える辺りからマルバツの合図ちょうだい。もし居なかったらまた探しに行こう。居たら僕は行くけど」
空港近くの建物の隙間というか、物陰から言う。
「はい……じゃああの……ごめんなさい!腕とかいろいろ……それとこのご恩は忘れません、ありがとうございました!」
なにが?よくわかんないけど良かったね。
なにかしらの居心地の悪さが作用した結果、おざなりに手を振るだけで別れる。
…………それにしても変な気分だ。ちょうど昨日までの雰囲気と今日の
雰囲気が全然違うように感じる。口調が変わったのもそうだけど、急に小っちゃくなったかのような錯覚があった。不安定だなぁ……。この状況において自然なヤツが居るのかと言われたら知らないけど。
まぁそういうことにしておくか。
とかいろいろ振り返っていると小走りで視界に入ってくる女の子が居た。やっぱり目立つ髪色だ。あれだけで捕まりそうな気がする。
マルだ。でっかいマル。……そういうときってバンザイして腕で輪っか作るものじゃないの?腕を野球のコーチャーみたいにグルグル回してる。いいなそれ。僕も今度からそうしよ。
じゃあ行くか。長居はできない。見えるように大きめに手を振って応える。時間的には昼前だから……たぶんちょっと早く着くだろうけどそっちのがいいな。そうしよう。
…………死ぬほど歩くなぁ。俺でなきゃだよこんなの。もう背嚢もないし楽だけど。あれ失くしたのじさまにかかられるなぁ……。僕のですぅ。とか言えないし……財布もないしなぁ……。
後で考えよう。
「―――て!」
え?やっべ!振り向かずに走り出す。たぶん待てって言った!
「待てって!」
「ヤぁなの!!」
加速がついてから後ろを確認する―――
「――ウォウッ!?」
振り向いたときにはもう目と鼻の先に大きな手が迫って来ていた!はや!!
学生のときのタイムとかは覚えてないし、九郎のが速かったけど僕だって運動は苦手じゃない。それをこんな一瞬で詰めてくるようなのって――!
「俺だって!ジェットだ。警察でもな」
「じゃあなおさらじゃん!」
脱出しようと、僕の肩を掴んでいるそのでかい手の指を取ろうとしてみる……!けどビクともしない。
「痛い痛いって……!謝るから……!申し訳ない!とは思ってないけどねーだ!」
左肩がミシミシ行ってる。この兄妹、僕の左半身のこと嫌いか?
「あぁすまない。え?思ってないの…?いや、待ってほしい……別に恨みで追っかけてきたワケじゃないんだ」
たしかにその目にはあのキレたときみたいな暴力性は欠片も感じられない。むしろさっきのサテライトちゃんのような……。
「まず妹を、銃を向けた伊織に手を出さないでくれたこと…感謝する」
「ビンタしたけどね」
パァン!
「それと、俺を止めてくれたこと」
「え?ノーコメント?」
キレイなスナップの効いたビンタが即飛んできたけど?
「お前に刺された毒を抜いて痛みと物凄い痒みが引いたとき、なんていうのか……目が覚めたようだった」
お……?それってもしかしてさ。
「なんだったんだろうな……たしかに俺と伊織の状況は変わってない、ずっと最悪で……どうにかしたい。それは変わらない、けど。…………いや、お前には関係ないことだ、とにかく、ありがとう」
「なに言ってんだかわがんねばって、ジェットくんが良かったてんなら良かったんでない?僕も毒盛って感謝されるとか貴重な経験させて貰ったでな」
すっかり毒気の抜けた顔をしているのでたぶん良かったんだろう。
「それで、お前はこれからボイドと戦うんだろ?許さないとか言ってたな」
どうやらこっちが本題らしい。
「戦うってのもちょっと違うんだけど、まぁ殺しに行こうとしてる」
なんかもう敵って感じじゃないので素直に答えておく。遠慮するような間でもないし。どんな関係って言われたらぜんっぜんサッパリなんだけど。
「……そうか。じゃあ確認なんだが……お前は配信を見たか?」
そういえば東京タワーで集まってたときになんかやってたな……。それとさっきの電話でも配信がどうたらって。
「いや、見てない。見た方がいい?」
真剣な顔のジェットくんがさらに難しい顔をする。
「いや、見るな。……そうか、だからあんなに……」
「どうしたの、1人で解決しないで欲しいんだけど」
なんかブツブツ言い始めた。勝手に納得されちゃっています。居心地が悪い。
「何でもない。たぶんボイドを止められるのは賽ノ助、お前だけだ。こうなったら応援してる……頼んだ」
何でもないって言うヤツが何でもなかったことないんだけどな……。
「ただ、ボイドは短い間だが、俺の拳法も教えてある。もちろん俺よりは弱いがセンスがあった……気を付けてくれ」
そこの強気は健在なんだ。
「そう……?そう。じゃ行くね」
「お兄ちゃ~ん!まったく急に走っちゃってさ、看護師さん怒ってたよ!……バレてなかったね……!」
どうやら飛び出したジェットくんの代わりになんやかんやしていたらしいサテライト……伊織ちゃんが走ってきた。
「あっ……!賽ノ助さん、ホンットにありがとうございました!」
何度目だっけ。
「そうだ、それも言わなきゃならなかった。俺が入院してたときに刑事さんが来たんだ。フレアを捕まえたって人。その人と…取引して黙って貰ってもらえているんだが」
太っ腹な刑事もいたもんだ。未遂とはいえテロリストなんだけどな。
「その人の横に、お前の友達が居た。一緒に行動しているらしい」
「へ?」
「背は俺より少し低いくらいだけどよく鍛えていた。金髪だったな」
十中八九、九郎だろう。ていうか僕に友達はそんな居ない。なんで?自分からこんな事件に首を突っ込むヤツだったかな……?僕が何してるかとかも知らないハズだけど。
「……とにかく、そういうことだ。こんなこと言うのもなんだが、頑張れ」
「えーっと、うん!頑張るね!」
何を?
『秘密結社オウムアムア、最終目標発表!!』
「あー、あーっ。マイクテスマイクテス……1人でこれ流すの大変だなぁ…」
携帯を持ったボイドが配信の調整をしている。
「やぁ、みんなさっきぶりだね。改めて名乗っておこう。僕は
フッと視線を外す。すぐ戻す。
「まぁ兎にも角にも、2日前からテロリストとして活動しているグループのリーダー。それが僕だ」
また携帯を確認する。
「……やぁ、たくさんの人が見てくれているね。まぁそのために色々したんだもんね、失敗も多かったけどこれなら大丈夫かな。フレアには感謝しないと」
画面に近づき外を背景にしていたカメラを180°回転させる。大きなエレベータードアが映る。
「今見せた通り、ここは東京タワーの展望台。最初の配信の場所だね。流石に今回はすぐ警察もすぐ来るだろう」
逃げるそぶりはない。
「ここまでやったんだ。警察関係者も全員今までの配信も含めて見ていることだろう。これで僕の計画が完成する………」
携帯を放り投げ、両手を広げる。その表情はにやけたまま。
パン―――!
カメラに向かい柏手を一つ鳴らす。静かな展望デッキに乾いた音が響く。
「あっ………やっぱり、すぐ来ちゃったね。特殊部隊ってヤツかも」
エレベーターのランプが点滅する。余裕は崩れない。
「ぐふっ……!これまでの配信にはいくつか細工がしてある……ほんの一瞬の文字表示だったり、画像の差し込みだったり。サテライトに作ってもらったんだけど……要はサブリミナル効果ってヤツだ。特別製だから本当に潜在意識レベルでしか見えない。超精密な分析でも掛けないと認識できないものだ」
エレベーターは上昇している。
「それに加えて僕が生まれ持ち、そして訓練されてきたもの……他人をコントロールする技術、ありていに言えば、”催眠術”。一挙手一投足、言葉選び、発音、リズム、音程、全てを使ってある刷り込みをした。配信を見た者は全員かかる」
エレベーターが到着する。
「例外はなく―――」
エレベーターのドアが開く。全身黒尽くめの重装備、SWATが画面に映る。
「誰も僕を認識できない」
「――――どうなってる!!?」
特殊部隊の隊員が吠える。
「誰も僕を見ることは出来ず、声を聞くことも出来ず、匂いも感じられず、触った感触も分からない」
特殊部隊はボイドを囲んでいながらも、周辺を見回し捜索している。
「目の前!?こちらからは確認できません……!」
ボイドは悠々と隊員の横を歩いたり肩に手を置いたりしている。
「今はまだ第一段階だ、配信では認識できるようにしている。目的も言わなきゃならないからね……ただこの配信が終わるとき、もう誰にも捕まえることはできない」
懐から長方形の金属を取り出す。
カチャカチャと音を立てて手遊びでもするかのようにトリックを決めながらバタフライナイフを展開した。
「僕とポラリス……最初の配信のときにいた小さな女の子だね。僕らは孤児だった……」
何でもないかのように歩き、隊員の1人の喉をナイフで撫でる。鮮血が噴き出し、その隊員が膝をつく。
「それだけならよくあることだけど、僕らには人と違うところがあった。なぜだか昔から僕の言うことはよく通った。僕はそれでうまくいっていたんだけど。彼女は……」
また1人、隊員の心臓に狙いを定めて丁寧にしっかりと刺す。
「ある日彼女を引き取りたいって話が出た。ソイツらはどこか薄っぺらな家庭で違和感を覚えた僕は、その日初めて自分の意志で全力で催眠をかけた」
特殊部隊は残り3人になっている。
「彼らは家族でも何でもなかった。ある組織の構成員でなんと驚くべきことに才能のある子どもを集めて、裏で活動する駒にしているらしい。しかも本当に大きい組織で、国家レベルまで口が利くとか」
淡々と語る間にまた1人と死んでいく。
「どんな能力だろうと子どもが2人では手に負える訳もなく、やがて捕まり”再教育”された。……結果、色々な仕事もやったよ。仲間、みたいなのもできた。しばらくそうして生きていた」
パニックになった隊員が見当違いの方向に銃を撃つ。その内の1発の跳弾が仲間に当たった。
「…………ここの詳細は名誉のために伏せるが、なんとかそこから逃げ出したんだ。僕とポラリスの2人だけになったけれど」
銃弾は倒れている隊員や、展望台の厚いガラスに突き刺さる。背後でガラスが割れる音がする。最後の1人になった隊員は弾切れの銃からカチカチと音を鳴らしながら這いつくばって逃げようとする。
「そう……ここまでの事件を起こした目的は、”告発”だ。世界に向かって届くように、絶対に逃げられないように、もみ消されないくらいの事件を起こしたんだ……」
歩いて画面外に行く。逃げ出した隊員の悲鳴が届いてくる。戻ってきたボイドは返り血で汚れていた。
「その組織の名前は
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