第8話 伊勢正三が歌う「君と歩いた青春」について

 ノスタルジーを感じさせる歌に、伊勢正三の「君と歩いた青春」がある。若いころに地方から大都会へ出てきて生活をしている人には特に心に響くものがあるのではないかと思う(似たような状況の歌に、太田裕美が歌った「木綿のハンカチーフ」がある。そう言えば、太田裕美は「君と歩いた青春」もカバーで歌っていた。)。

 その中で、故郷(くに)にいるとき存在していた仲間たちのグループのことを、牧歌的、理想的に語っていて、それが、また物語を盛り上げているのだが、良く考えると、このグループのあり方、かなりイビツなのではないか。語り手を含め、グループの男性みんなが「君」のことを好きだった、というのだ(他に女性のメンバーがいたかどうかは不明。)。これでは、まるで「白雪姫と七人の小人」のようだ。

 いや、そうではない。何人かの女性もいて、女性たちも含めて、全員が「君」のことを好きだったのだ、それだけ「君」の性格が良いことを示しているのだ、という人がいるかもしれない。しかし、他の個所で、抜け駆けはしないことを約束した、というくだりがあるので、ここは、やはり男性たち全員が「君」に好意以上の感情を持っていたと解釈せざるを得ないと思う。

 現実に、このようなグループが存在するかもしれないということを否定はしないが、その関係性は、牧歌的なものとは言えず、かなり危ういバランスの上に成り立っているのではないかと思う。男性陣一人ひとりについて見れば、真剣な思いを持っていればいるほど、その心の中は穏やかなものではないだろうし、地獄に近いものがあるかもしれない。また、「君」が恋愛や結婚を意識した時点、つまり、相手がグループ内の者であれ、グループ外の者であれ、「君」が、ただ一人の男性を指向した時点で、このグループの関係性は、瓦解せざるを得ないのではないだろうか。

 いろいろと言ってきたが、筆者が、この歌が大好きなことは間違いないことを最後に言い添えておきたい。(了)

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