畜生屑ばかり

唐島 潤

第1話 襲来!?宇宙から来た太陽の天使!

この物語は突飛つした所など一つも無く、それどころか酒、煙草、ギャンブルに溺れた救えない冴えないクズ男が“地球外生命体”……いや“純新無垢な子供”と出会い、自分以上の救えない屑共と出会い、その子供の成長を見届け、守ってもらうなんとも情けない物語だ。
















近畿地方の某県にひっそりと存在する友引市のとあるパチスロ店にその男はいた。大きいと迄は言えぬが小さくはない何とも微妙なその店のホールには、流石に子供は居ないが格好も性別も年齢が異なる人、亜人と言った人々がごった煮で詰められたそれぞれの台に向き合い白熱し結果に落胆し怒りを台にぶつけたり、悦に浸り当たった快楽に酔っていた。その中に海を題材にしたキャラクター達が登場している台をしている人物、こんな場所でも七三分けの髪にスーツという如何にもサラリーマンらしい格好をしているのが件の男、寿 竹二ことぶき たけじだ。格好こそサラリーマンらしいがスーツはヨレヨレで洗濯もアイロンも全くされてない様子で、指の先がニコチンが原因で汚れており手も震えているがそれは煙草が原因なのか酒が原因なのか定かでは無い。身長は男性平均よりも低い、見た目も特に整ってるという訳でもなく、けれどとてつもなく醜い訳でもない何とも評価し辛い平凡な面白みもない見た目をしている。だが体臭だけは特徴的であった、煙草の臭いと酒というかアルコールの強い臭いが全身に染み付いており異臭を醸し出しており、竹二の両隣の客はその異臭に眉を顰めていた。

「……………」

そんな竹二は額に青筋を浮かべ、ドンドンドンと強めの貧乏揺すりを起こしている。片手はボタンに携え、もう片方の手の指をただひたすら噛んでいた。最近の室内喫煙を禁じる規則によりパチンコを打ちながら喫煙をするという気に入っていた行動が出来なくなった怒りと、今月の給料3万ちょい全てを注ぎ込んだのに全く当たりが来ず、このままでは大敗北になってしまう為苛立っていた。





「───あっ!」

イルカの柄が当てられた7が左右揃い、無数のパチンコ玉が移動している枠組みが虹色に輝き始めた。リーチ!と茶髪のピンクのビキニを着用した大変体つきの良い女性キャラクターが言い出し、リーチ確定演出のムービーが流れ始め竹二の顔は一気に明るくなり画面へ前のめりになる。

「いけ、いけ、いけ、いけ、いけ、いけ……」

ボタンを叩いて!と指示され竹二は両手を使いボタンを力の限り連打した。パチンコで鍛えられた連打力は並外れた物で、それは先程までしていた貧乏揺すりよりも激しかった。

「あっ、あっ、あっ、くる、くる」

真ん中の柄が4、5、6とゆっくり回転していき7が迫り来ている。やっと当たると期待と希望が込み上げ竹二は目を輝かせ、口角を上げ不気味な笑みを浮かべている。竹二がこうやって笑うのは久々だ。

そしてやっと7が到着し喜びの雄叫びを挙げようとしたその時、7は止まらず通り過ぎて行きタコ柄が当てられた8で止まりリーチを告げた女性キャラクターが無慈悲にもリーチ終了!と始まりと同様にそう告げた。

「………は?」

喜びの雄叫びを挙げるはずだったがその予定を完膚なきまでに叩き潰された竹二は歯に思いっきり唇を食い込ませて、不気味に顔を歪ませながら青筋を顔いっぱいに浮かべた。手も震えているがその原因が酒か煙草か或いは単純の憤りか本人にも分かっていない。

「ッざっけんなっ!クソがっ!」

竹二は叫び、強く握った拳を怒りを込めて台に振りかぶった。












「………はぁクソがよ…」

竹二はあの後結局当たりが来ず大敗北してパチスロ店を出た後、七三分けの髪を掻きむしり、コンビニに入り数少ない所持金でパック酒を購入しコンビニを出るやいなや真っ昼間の中飲酒を始めた。震える片手でパック酒を持ち、もう片方の手はズボンのポケットに入れて帰宅しようとする竹二の姿は正真正銘こんな大人にはなりたくないろくでもない大人その者で、女子中学生か女子高生か分からないが竹二を見て、ありえない〜と何とも苛立ちを覚える声色でそう言って指を指している。

「………」

竹二は聞こえないふりをして通り過ぎていった。竹二にも分かってるのだ、自分がありえない、ろくでもない男だという事が。



そもそも寿 竹二の成り立ち、経歴は、古くから友引市で不動産業を営む寿家の三人兄弟の次男として産まれた。兄や弟はどちらも眉目秀麗で文武両道、両親からも鳶から鷹が生まれたと云われ県外でも有名な名門大学に入学し無事首席で卒業、兄は家業を受け継ぎ、弟は地元の大学で数学の教授をしている。一方中間生まれの竹二は見た目は普通、学力も普通で2年浪人してやっと地元の大学に入学し特に成果を収める事なくひっそりと卒業、そして有名家電メーカーの友引支部の平社員として出世も無しに数十年働いている。そして酒と煙草とギャンブルに溺れた、何故竹二と兄弟達にここまで差が開いてしまったのだろうか、竹二に1つ思い当たるのは彼がEDと診断されてからだ。それ迄はこんな自分でも親に孫を見せてやりたいと思っていた竹二は婚活を繰り返し、お互い子供を作り結婚する事を前提としたお付き合いまで発展し元々性欲は薄かったがその相手と毎晩愛を確かめあっていた、何度繰り返しても子供が出来ずいつの間にかブツが勃たなくなっていた。病院で検査したところEDと云われ種無しとも判明した、それにより相手とは別れ、両親にもこの2つを話すと竹二の事を優しく慰めてくれたが何処か残念そうな顔をしてたのを竹二はずっと覚えていた。それから実家を出て、元から好きだった酒、煙草を異常な迄に摂取するようになり、ギャンブル主にパチンコに手を出し始め今に至る。

この経歴を思い出す程に自分は家族を困らせ、悲しませてばかりのクズだと思い知らされ苦い顔をして自嘲気味に笑った。



「…あー、もう誰でもいいし、なんなら地球外生命体でもいいから身の回りの事とか全部やってくれる、こんな俺を助けてくれねーかなー」

竹二はふとそんなに声が漏れてしまった、ただ脳死でそんな事を蚊の鳴くような声で呟いた。

竹二にとっては酔っ払いのただの独り言であったが、とある生命体はそれを聞き取った。




チュドーン!!!!!!!!!!!!!

ビルが立ち並ぶ路地裏に向かって、凄まじい轟音が鳴り響き竹二も思わずそこを向いてしまった。その轟音のした場所から煙が出ている。一応都会である友引市において何かが墜ちてきたかのような轟音と不時着した時に流れるような煙が現れるなんて異常事態と呼ぶしかないのだが竹二以外の街行く通行人達は知らん顔、いや竹二以外そんな事が起こったと知らないから気づいてないのかもしれない。竹二はトンチンカンな現状に首を傾げた、そのまま竹二も知らん顔で自宅に帰れば良かったものの酔いが完全に頭に回っているからか好奇心でナニかが墜ちて来たであろう路地裏に千鳥足へ向かった。


「おいぃ!そこひぃいるのふぁダレだぁ?」

ベロンベロンに酔って視界が朧気になっている竹二には路地裏に墜ちて来たであろうモノはオレンジ色や黄色、赤色といったサーモグラフィー越しでしか見ない色の派手な服装を身に纏い蹲ってる人物にしか見えなかった。竹二が話しかけても一言も発せず微動だにしない姿に苛立ちを覚え地団駄を踏みながら更に路地裏に進んでいく。


「なひぃさまのつもひぃだ!」

酔って通常より調子が良く思い上がっている竹二は怒鳴りながら墜ちてきたナニかに近寄っていく。

『待て地球内生命体ホモサピエンス、これ以上近寄ると危険だ』

路地裏の奥、恐らく墜ちてきたナニかがやっと言葉を発しアクションを起こした。その声はまるで機械音声のように無機質で、それなのに地を這うような酷く恐ろしい声。およそ地球上の生物が出しているとは思えず竹二は全身に鳥肌を立てた。

『止まったなホモサピエンス、賢明な判断だ。さて速急に本題に入ろう』

自身に鳥肌を立て若干恐怖している竹二の事など気にも止めずナニかは話しを進める。

『───ホモサピエンス、キミは助けを求めたな?』

竹二には思い当たる節があった、先程こんな自分を助けて欲しいと呟いていた。竹二はあんなに小さな独り言だったのに届いてた事への驚きと、誰であろうと助けてくれる事への喜びが湧き上がった。


「んああ!しょうだとも!助けてくれんのか?」

『ああ勿論だ、だがそれには代償が伴う』

「何でもいいしゃ!助けてくれりゅのなら何でもくりぇてやらぁ!」

『心得た、これにて契約完了だ』

返答を貰うやいなやナニかは浮かび上がり、とてつもない熱気を出し始めた。ナニかの熱気に充てられ竹二の酔いが覚めていく、竹二が派手な服を着て蹲っていると思っていたのは派手な色をした炎揺らめく巨大な球体、竹二の他にもこの光景を見てる者が居たならこう答えるであろう。

───小規模の太陽そのものだと






「あっ…あっ……」

竹二は腰を抜かし、地面にへたり込む。一方太陽のようなナニかは浮いたかと思った矢先に変形をし始めた。蹲っていると予想してたのは当たっていたようで、腕や足のような物を解き始め、高さ30メートル以上の炎の巨人と化した。

『地球内生命体ホモサピエンス。私はキミを絶対外敵から守り抜くと誓う』

構造上仕方ないが見下しながら、かなりの距離はあるが竹二にも届くようにそう云った。正直な話竹二は恐怖で震え上がり少しばかり失禁している。

『おや怖がらせてしまったか?済まないな。ソレにこの姿のままだと他の地球内生命体も危険にしてしまう恐れがある、よし誰かから体を借りようではないか』

そう宣うと、ナニかは炎の渦に身を包みどんどん縮んでいく。縮んでいく様子を竹二もそれを焦点の合わない目で追っていき、ナニかは竹二より小さくなり炎の渦が解ける。炎の渦から出てきたのは先程までの宇宙的恐怖と言うべきであろうか、はたまた本能的恐怖と言うべき炎の巨人では無く、上から赤、黄、オレンジの順で分けられた髪色が特徴的な5〜6歳ぐらいの女児であった。短い前髪を分け足の関節まである後ろ髪、着用してる白いワンピースが良く似合う100人中100人が幼いながらに美しいと答えるであろう整った、整いすぎた見た目の女児が竹二の目の前に立っていた。そして鈴のような可愛らしい、子供らしい声で先程と同じ言葉を告げた。

「改めて言おう、地球内生命体ホモサピエンス。私はキミを絶対外敵から守り抜くと誓う」


















「そう言えば私がどういうモノか言ってなかったな、私は先程生成されたばかりの自由遊星恒星体、まあ分かりやすく例えると留まらず、自由に行動する太陽みたいなものだ」

自らを自由遊星恒星体と云う少女の小さな手を握り、竹二は路地裏から出てきた。普段なら酔っ払って幻聴が聞こえているか、子供の嘘だと思っているところだが、ついさっき迄の出来事を目撃してしまった為嘘とも幻聴とも答えられなくなった。人通りを歩いてる中、自由遊星恒星体を名乗る少女は腹を鳴らした。

「………腹減ってんのか?」

「多分そうだな、空腹になるなんて生まれて初めてだ」

さっき生まれたばかりって言ってたからそりゃ生まれて初めてだろうよ、と竹二は言いかけたが言ってもろくでもない事になりそうだから喉の先で抑え、無言でコンビニに立ち寄る。数少ない所持金で安いアンパンと、2人で共有して飲む用のミネラルウォーターを購入しコンビニを出る。アンパンの袋を開け、アンパンを半分に割り、少女に渡す。

「これは?」

「アンパンだ、俺も食べたいから半分こな」

竹二はそう言い半分に割ったアンパンを口に運ぶ、餡子特有の甘さが口の中に広がる。竹二にとって所持金が僅かな時に食べる定番でもう慣れた味だが、少女は違った。物珍しそうにアンパンを見つめ、その小さな口にアンパンを運んだ。死んだ魚のような目は変わらぬが表情がパッと明るくなり、一心不乱に安物のアンパンに齧り付き完食した。

「ふむ…これが美味しいという感覚か」

なんて口に餡子を付けたまま宣う姿が子供らしくて可笑しくて堪らず、軽く笑い、竹二は少女の口元に引っ付いている餡子を取ってやり、蓋を開けたミネラルウォーターを渡してやるとそれもまたグビグビと飲んでいる。





「食事に飲み物、感謝する。続きを話そう、私は自由遊星恒星体だが同時にこの地球で云うところの天使にも該当してな、ここに来る前に地球の天使達に個体名天使ソルビットと命名された。その時に説明されたが特定のホモサピエンスなどモンスター、妖など人判定をされてない者達の虐殺禁止、人が働く施設の破壊は禁じられた。今の私に出来るのはモンスターや妖の退治と、キミとキミの大切な人の護衛だけだ」

「はぁ?俺身の回りの世話をして欲しくて助けて欲しいって言ったのにお前は出来ねえの?」

「すまん出来ん、そもそも私はモンスター、或いは妖退治を行っている人物が救援を望んでその結果宇宙から生み出されたのだが、生憎その相手には先客が居たようで私は助けることが出来なくてな、ちょうど助けて欲しいと言っていたキミが居て契約してくれたと云う流れだからそういう機能は今は無いが練習すれば出来るようになるだろう。期待しててくれ」

はたまた天使ソルビットなどと名乗り始めた少女はこの体で出せるめいいっぱいの力で竹二の手を握りしめた。

「………そもそも天使とかモンスターとか妖とか本当に居んのかよ」

「地球外生命体がいるのだから当たり前居るに決まってるだろう」

当たり前の事を聞かれて当たり前のようにキッパリと答える少女に竹二は、あっ居るんだ…と悟った。



「ところで…あの……契約の時、代償がどうやらとか言ってたが何か貢いだり内蔵とか差し出さないとイケないやつか…?」

竹二が恐る恐る代償について訊くと少女は大きな頭を横に振った。

「いや、そんな事はしなくていい、心配するな。私が欲する代償は居場所、要するにこの地球上での住居が欲しいだけだ。契約してくれたという事はキミの住居に共に住んでも良いと云う事だろう?」

流石に突然…と考えたが自分を守ってくれるし今更子供1人ぐらいいいか、と思い至り竹二は少女に向かってコクリ、と首を縦に振った。少女はぎこちない笑顔で微笑んだ。



やっとの事竹二が住む2階建ての、築50年以上あろうボロアパートの前へ辿り着いた。竹二の部屋は2階にあり、そこに行く為に階段を登るとギシギシと軋む嫌な音が聞こえてくる。2階に上がり進んでいくと、右端の部屋に『寿』と書かれた表札がある部屋が見つかる。ここが竹二の家らしい。竹二はズボンのポケットから鍵を取り出し鍵を開けた、そのまま家に入るかと思いきや少女に目線を合わせて座り込んだ。

「……?どうした?早く入らないのか?」

「……あのさ、一緒に暮らす事に当たって新しく契約しないか?」

「?いいぞどんな契約がしたい?」

「ひとつだけさ、俺の事をホモサピエンスとかキミ呼びしない事だ。種族名…?で呼ばれるのなんか嫌だし、キミ呼びもむず痒いもんでね。言い忘れてたが、俺は寿 竹二、寿でも竹二でもどっちでもいいから名前で呼んでくれ」

「コトブキ…タケジ……?………分かった今から竹二と呼ぶ」

「よしっいいぞ」

竹二は立ち上がり、少女の頭を強めに撫でた。そしてドアノブを捻り自身と少女を玄関に入れた後再度鍵を閉めた。

「あー…後これは契約とは関係ないんだがな…」

「?ご所要があれば何でも言ってくれ、叶えられるものなら何でも叶えてやろう」

「自由遊星恒星体とか天使ソルビットとかあの姿なら合ってるが、今の姿じゃ似合わない名前だからこの姿の時は恒美つねみって呼ばせてくれ。恒星の恒に美人の美で恒美だ、特徴を捉えて付けた名前だからいい名前だと思うんだが………」

「……ツネミ…ああいい名前だ、私も自主的にこの少女の姿の時はその名前を名乗る事にしよう」

少女、恒美は笑顔こそぎこちない物だが心底嬉しそうな顔を浮かべた。












竹二と恒美が暮らす部屋はコンロや風呂もなく、家電といえばレンジと湯沸かし器しかないゴミで埋まったこじんまりとした和室部屋で、端ということもありベランダも存在している。

「どうだ?恒美、ここが俺たちの城だ。今日から始まる楽しい楽しい同居生活だぜ?感想とかはあるか?」

竹二はボロいとか汚いとか言われるのを期待して恒美に話しかけると、畳に座っている恒美の純白のワンピースに黄色い染みが広がっていた。


「すまん竹二、排泄をしてしまったのだがこういう時はどうすればいい?」

飄々と訊く恒美とは正反対に竹二は腰を落とし落胆した。竹二はこれからの行方を心配になりながら恒美の後片付けを始めた。


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