奇妙なる咀嚼
高柳孝吉
奇妙なる咀嚼
俺は結構変人として通っている。まあそれも没個性と言われる世の中においてこれも一つの個性かななどと、開き直っていた訳でも無いが、そんな俺がある日サンドイッチを作っていた時の事だ。パンを挟む直前、具の中に何か入れた筈の無い黒い物体が見えた気がしたが、大して気にする事も無く出来上がったサンドイッチを食べ始めた。ちょっと妙な味がしないでも無かったが、構わず下品な音を立てて咀嚼した。
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。ぐちゃ。
親に良く噛んで食べろと口が酸っぱくなる程言われていた俺は、老人ホームで出るキザミ食を超えたペースト状になるまでたっぷり咀嚼し続けた。
そして呑み込み、あーうまかったと爪楊枝でしーしー歯に挟まった何かを取り除いて、そしてそれを見た。
ーーゴキブリとおぼしき虫の足だった。
俺は、確かに変人として通っている。しかし、ゴキブリを食べて喜ぶような趣味は無い。ただ、ゴキブリを食べてしまって気持ち悪いというより、ゴキブリに可哀想な事をしたと思ったところが、やはり変人たるゆえんなのか。
奇妙なる咀嚼 高柳孝吉 @1968125takeshi
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