第14話 大円団





 ルーフェル達が王都に戻って一週間後―

 魔王城では、戦没者慰霊式の後に戦勝祝いのパーティーが開かれていた。


 その犠牲者の多さから、“戦勝祝いパーティーは控えるべきでは?”との意見もあがったが、実施されることになる。


 その理由は、今回の戦いはルーフェルが起こした奇跡が無ければ、実質敗北という状況であったため、その事実を隠すために勝利を大々的に宣伝する必要性があったからだ。


 そして、そのパーティーでルーフェルの次期魔王候補への復権が正式に魔王から発表された。


「 ―という理由で、今回の勝利の立役者であるルーフェルちゃんを次期魔王候補に、復権させる。皆の者、異議はあるか?」


 魔王は会場に集まった皆の顔を見回しながら言うが、魔王の言葉に異議を唱える者は誰もいなかった。


「まあ、異論があったとしても、私が論破(肉体言語)して理解(泣かせる)させてやるけどな! ハハハハハ!!!」


 そう言って魔王が豪快に笑うと、部下達も顔を引き攣らせながら乾いた笑い声をあげる。


「それにしても、可愛いだけでなく勇気もあり慈愛に満ち溢れ、その上頭脳明晰とは…… 我が娘ながら、完璧過ぎる…… 完璧過ぎて怖いくらいだ。これはもう次期魔王はルーフェルちゃんに決まりだな! ハハハハハ!」


 娘をベタ褒めする親バカ王に併せるように、またもや苦笑いを浮かべながら、乾いた笑いをする部下達。


「もう~ お父様ったら~ 褒め過ぎだよ~ えへへ~ 私はそんな完璧じゃないよ~」


 ルーフェルは父親のべた褒めに嬉しそうにしながらも、少しだけ困ったような表情で頬を赤らめている。


(勇気や慈愛はともかく、能天気ボケボケ姫だけどね…)


 そんなルーフェルの姿を見て、アイシャは心の中で突っ込む。


 魔王の話の後、歓談が始まると功労者である老将達の周りには、たくさんの魔族達が入れ替わり立ち替わり挨拶に訪れる。


 本当はルーフェルにも挨拶をして、顔を繋いでおきたかったが彼女に近づくと親バカ王が、「その角叩き折って、その○○に☓☓☓れたいのか!?」と言わんばかりに、恐ろしい形相と凄まじい殺気を放つために、近寄ることすら出来なかった。


「この度のお二人のご活躍、誠に素晴らしいものでした。おかげで敵の追撃を受けず、更には敵を潰走させるまで追い込むことが出来ました」


「せっかく死に場所を得たというのに、生き残ってしまいました」

「これでまた前魔王様や先に逝った二人に、合わせる顔が無くなりましたわい」


 老将達の功を労う魔王に、二人は自嘲気味に語る。

 二人がこう答えたのには理由があり、それはこの一週間の間に捕虜にしていた複数の人間から情報を得ていたからだ。


 その情報とは、もちろん“牛が聖なる生き物とされている”という事で、情報を漏らした者は命を助けて貰った恩義からか、重要な情報を漏らしてくれた。


 そして、その情報からルーフェルの牛達がいる限り、人間達が攻めてくる可能性が少ないことを意味しており、老将達の出番はもう無いということだ。


「私が知る父(前魔王)なら、今回のお二人の活躍を見て褒めることはあっても、貶すことは無いと断言できます」


 魔王は、悲観的な考えを口にする二将に力強く断言する。

 すると、その魔王の言葉を聞いて、目を見開き驚きの表情を見せる二人だったが、すぐに納得したような顔になると「そうですな」と言って、お互いに顔を見合わせ大きく笑う。


 その光景を目にして、魔王も安心したような顔で笑みを浮かべる。


 パーティーより2週間後、ルーフェルとアイシャの姿はドゥンケルラントのデスバイン公爵の屋敷にあった。その目的は私物の引取と預けていた動物達の引き取りである。


 戦いの後、牛達はデスセバスチャンに率いられこの地に戻ってきており、彼に世話を任せていたのだが、次期魔王候補に戻った事に伴いルーフェルが王都で暮らすことになったので、迎えに来たのだ。


「みんな~ 元気だった~?」


「モーモー」

「メェーメェー」

「わんわん」

「ニャーニャー」


 ルーフェルは馬車から降りるなり、まずは自分が飼っている動物達に声を掛けると、声を掛けられた動物達も、彼女に甘えるように体を擦り寄せたり、鳴き声で応えたりする。


 今回の戦いの活躍により、王都の郊外に“ルーフェルふれあいもふもふ動物ランド”が建設されることになり、それが完成間近となったので、動物達はそこで暮らすことになったのだ。


 だが、一部動物達は「モーモー メェーメェー」と鳴いて、残ることを希望してくる。


「この子達が、ここで暮らしたいって言っているんだけど、いいかなぁ~?」


 ルーフェルは申し訳なさそうな表情で、デスセバスチャンの方を見る。

 どうやら、世話をしてくれたデスセバスチャンと離れたくないようだ。


「公爵閣下からご許可を頂ければ、私は問題ありません」


 その動物達の気持を察したデスセバスチャンは、微笑んで了承する。


「ワシは構わんよ。こやつらはもう家族みたいなものだしな」


 デスバインは、あっさりOKを出す。

 残りたがっている動物達は、ルーフェルが初期に召喚したものが多く、1年以上この地にいるものもいるので、公爵も少し愛着が湧いていたからだ。


「お祖父様、ありがとうございます~! よかったね、みんな~」


 ルーフェルは祖父の許しが出たことに、嬉しそうにしながら礼を言うと動物達も嬉しそうに鳴き声を上げる。


「ルーフェルにアイシャちゃん、また遊びに来てね。あと、サターナやお付の子にもまた遊びに来るように言っておいてね」


「はい、お祖母様」


「三人共、元気でな」

「はい。お祖父様とお祖母様、デスセバスチャンもお元気で」


 ルーフェルは祖父母夫妻とセバスチャンに別れの挨拶を済ませる。


「ルーフェル様とアイシャ様もお元気で。ベルルも元気でやるんだぞ。あと、迷惑をかけないようにな」


「はい、お祖父様。また学問所の休みに帰って参ります」


 ベルルも祖父との一時の別れをおこなう。

 今回の戦いでその才を惜しんだデスバインによって、まだ幼いベルルが王都にある魔界一の学問所で特別に学べるようになったので、一緒に王都に向かうことになったのだ。


 因みに王都では、魔王城で暮らす事になっている。


「みんな、迷惑をかけないようにね。私もまた遊びに来るからね」

「モーモー メェーメェー」


 ルーフェルが声を掛けると、動物達も彼女に声をかけるように鳴く。

 そして、体を擦り寄せるなどして別れを惜しむ。


 こうして、ルーフェル達は祖父達に見送られながら、半年だけとはいえ過ごしたドゥンケルラントを後にする。



 その頃、魔王城―


「あ~あ… やっぱり、私もお姉さまに付いていけばよかったですわ~。そうだ! 今から、お城をこっそり抜け出して、お姉さまの所に行きますわ!」


「やめてください~、サターナ様~!」

「ええい! 放しなさいですわ! このままだと、お姉さま成分が不足するのですわ!!」


 レヴィアの制止を振り切って、姉に会いに行くため脱走しようとするサターナ。


「駄目ですよ~。そんな事をされたら、今度こそ私の首が飛んじゃいますよ~」


 涙目で懇願しながら、レヴィアはサターナに縋りつく。


「わかりましたわ。だから、もう泣かないでくださいまし」


 その必死の訴えを聞いて、さすがのサターナも渋々折れる。



 ルーフェル達が乗る馬車を先頭に、その後を動物達がお行儀よく列を成してついていく。


 馬車に揺られながら、ルーフェルとアイシャが笑顔で話していると、外の風景を見ながらツンデレが不意に赤い髪を触りながら呟く。


「早く王都に帰りたいと思っていたけど、いざ離れるとなると寂しいものね」

「そうだね~」


 ルーフェルはツンデレの言葉に相槌を打つ。


「こんな所に連れて来られて、酪農作業までさせられて… 何度アンタをぶっ飛ばしてやろうかと思ったか…… でも、今となってはいい思い出ね」


「私の事を何度もぶっ飛ばそうと思ったの!?」


 親友の述懐にルーフェルは驚愕する。


「“述懐”とは、“考えている事や思い出を述べること”と… わたくし、また知識を一つ得ることができました」


 ”良い子の魔界熟語入門”を読みながら、知らないことを知る喜びにジト目を輝かせるベルル。


「ルーフェルふれあいもふもふ動物ランド、楽しみだね~。ねぇ~? アイシャちゃん」


「わっ 私は別に… でも、アンタがどうしてもと言うなら、もふもふしてあげてもいいんだからね!」


 テンプレツンデレ構文で答えるアイシャ。

 そんな幼馴染の”本当はもふもふしたいの! 察しなさいよ!”という面倒くさい思考を、ルーフェルは長い付き合いで解っているので、その辺を踏まえて返事をする。


「うん! 一緒にもふもふしようね~」

「もう、しょうがないわね~。一緒にもふもふしてあげるわよ~」


 二人の少女は楽しそうな声で笑い合う。

 その様子を見て、ベルルは微笑みを浮かべていた。


 ルーフェルが魔王在位中、牛を操る事ができる彼女を警戒して人間達は侵攻してこなかったので、魔界は平和な時代が訪れることになり“安寧王”と呼ばれることになる。


 そして、彼女は魔王に就任した後も、暇を見ては動物達のお世話をして、動物達といつまでも仲良く暮らすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

動物召喚しか使えない魔王候補は辺境で酪農を営むことになったけれど、奇跡的な力で魔王軍を救う! 土岡太郎 @teroro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ