第13話 凱旋
「お姉さまーーーー!! ご無事でなにりよりですわ~~!!」
本陣に到着したルーフェルが、牛から降りるとサターナがそう叫びながら、「とうっ ですわ!」とジャンプしてルーフェルに抱きつく。
「サ、サターナちゃん!?」
「お姉さま~! もう、心配したんですのよ~」
サターナはそう言うと、胸に埋めていた顔を離すとルーフェルの顔を見る。
「ごめんね。心配かけて……」
「いいえ、お気になさらないでくださいませ。それより、本当に良くご無事でよかったですわ」
姉妹の感動的(?)な再会の横で、デスセバスチャンとベルルも互いに安否を確認しあう。
「お祖父様、よくご無事で」
「ベルル。お前も無事で良かった」
デスセバスチャンは、危険な戦場に来た孫娘を叱ろうと思ったが、彼女が主人と運命を共にしたいという気持ちは自分にも解るので、その事については何も言わなかった。
「公爵閣下もご無事のご帰還、大変喜ばしく存じます」
「多くの若者が死んだというのに… また死に損なってしまったがな」
デスセバスチャンが、デスバインに一例をしながら無事を喜ぶと、公爵は自嘲気味にそう答える。
デスバイン・デスルドの両将は、報告のために魔王の元に出頭しており、その後ろにはルーフェルの姿もあった。
「デスバイン・デスルド両公爵のおかげで、我軍は危機を脱した。この場を借りて礼を言う」
魔王はそう言って、二人の老臣を労うと両名は戦いの詳細を語り始める。
そして、語り終わると魔王を含めた幹部達はどよめきたつ。
あの人数で、
「そうか… ルーフェルちゃ― ルーフェルが…。ルーフェルよ、此度の活躍、見事であった」
部下の前なので、威厳を保ちながら彼女に声をかける。
それは娘に対する父親の言葉では無く、魔王としてのものであった。
「ところで、どこか怪我はしていないかい? 痛いところはないかい? パパはもう心配で心配で…… 」
―が、魔王の威厳より、過保護な父親の感情が勝ってしまい、ルーフェルに優しい口調で尋ねてしまう。
それを聞いていた皆は呆れ顔だが、文句を言う者はいない。
彼等は魔王が娘を溺愛していることを知っているし、それにルーフェルの作戦が功を奏して、魔王軍の窮地を救った【英雄】であることは事実だからだ。
そうなれば、その事を知った国民はこのように考えるだろう。
”【英雄】であるルーフェル様を、次期魔王候補に戻して、次期魔王様に!”と。
つまりは、現魔王と次期魔王候補に、文句を言うのは得策では無いという打算によるものであった。手のひらクルーであった。
「大丈夫だよ~。ほら、どこも怪我してないよ~」
そう言って、ルーフェルが両手を広げながらクルリと回ると、それを見た魔王は『ホッ』とした顔になる。
「そうか、良かった。本当に良かった」
「もう、お父様ったら大袈裟なんだから~」
ルーフェルは照れたように笑うと、魔王は“コホンッ”咳払いをしてから幹部達の方に向き直った。
そして―
「皆の者! ルーフェルちゃん達の活躍と無事を讃えて、拍手せよ! はい、拍手!!」
魔王はそう言うと、自ら率先して拍手しながら部下にも促す。
皆も笑顔(苦笑い)を浮かべながら「パチパチ」と手を叩く。
「えへへへ~」
一同の反応に、ルーフェルは嬉しそうに笑みを浮かべる。
そんな喜ぶルーフェルの姿を見ながら、彼女の後ろでかしづくアイシャは心の中で、複雑な気持ちを抱いていた。
頑張ったのは牛達で、策を考えたのはベルル。でも、その牛達を召喚したのも、その策を採用したのもルーフェル。なので、ルーフェルとベルル・牛達が称賛を受けるのは当然だが、何もしていない自分が受けるのは違うような気がしていたからだ。
彼女は決意する。もっと、鍛錬を積んで強くなり、いつか自分の力で魔王軍に貢献しようと。
そして、そんな彼女が努力と研鑽を続け魔界最強の魔剣士になり、魔王軍四天王の一人になるのは未来の話。
すると、ドルーク・デモンラウスが、挙手を行い発言の許可を求める。
「どうした?」
「只今、先程斥候に出した者より報告が入りました。人間達は軍を再編させる事無く人間領に撤退していったそうです」
「ほう……」
「恐らく潰走状態の収拾が、出来なかったと思われます」
ドルークの予測に、他の者達も同意見なのか特に反論する者はいなかった。
「では、再度の侵攻はないのだな?」
「はい。おそらくは…」
「ふむ……」
ドルークの報告を聞いて魔王は少し考え込む。
「では、警戒を怠らず犠牲者達の弔いをするとしよう」
「はっ!」
魔王がそう告げると、幹部達は一斉に頭を下げて了解の意を示す。魔王軍にとって、今回の戦いは大きな犠牲を払っての勝利で終わり、彼等の心には重いものが残った。
そんな中、ベルルがルーフェルの袖を引っ張って、小さな声でこう言ってくる。
「ルーフェル様。人間達が戦場に放棄していった新兵器を鹵獲して王都に持って帰り、研究することを魔王様に進言してください。”敵を知り、己を知れば百戦危うからず“と言いますから」
彼女は、ルーフェルにだけ聞こえるような声量で言ったので、アイシャとサターナを除き他のメンバーは誰も気づかなかった。
「お父様! 人間さん達が置いていった武器を回収して、王都で調べてみてはどうでしょうか? 敵を知り…… なんとやらです!」
ベルルの言葉を受けて、ルーフェルは父親を見上げながら、うまく説明出来ないことを元気と勢いで誤魔化しながら提案する。
(ベルルより言葉が幼いし、最後は格言が言えずに誤魔化した! 勉強って大事ね… 私も気をつけないと…)
心の中で学問は大事だと再確認するアイシャ。
だが―
「流石はルーフェルちゃん! 可愛いだけでなく賢いとは、我が娘ながら完璧だ! おパパは嬉しいよ!」
魔王はルーフェルの提案に大喜びし、手のひらクル~の部下達も「流石ですな~」などと賞賛の声を上げている。
「流石はお姉様ですわ~~~」
「えへへへ~」
そして、姉とベルルの会話を聞いていたにもかかわらず、手放しで褒め称えるサターナ。
もちろん抱きつきながら。
その魔王がルーフェルを甘やかす光景を見て、頭を抱えているドレーク。
そして、そんな父親の姿を見て、アイシャは父親が自分に厳しく接している理由の一端を理解する。
魔族は種族の優位性から、人間達を侮り情報収集や戦術などを軽視しており、それでも非力な人間達との戦いで、今回のような一方的に被害を受けて後退するようなことは無かった。
だが、今回の件で人間の軍事技術の高さを魔王と魔王軍は思い知り、人間達のことを知るべきだと魔王は考えルーフェル(ベルル)の意見を聞き入れたのである。
そうしなければ、今回のような幸運に恵まれない限りは、今度こそ敗色濃厚となるからだ。
こうして、魔王軍は負傷者を王都に先に移送させると、ガダラン平原に戻り人間軍に警戒しつつ、味方と敵の遺体を弔うと鹵獲した銃や野戦砲を牛達に引かせて王都へ凱旋する。
今回の戦いの勝利とルーフェルと牛達の活躍が知れ渡っているようで、王都への街道沿いには国民たちが総出で出迎えて、口々にルーフェルと牛達に称賛の声を掛けてきた。
元々、ルーフェルはその性格から、国民からは愛されており人気があったのだが、この勝利により人気は更に高まることになる。
そんな国民の反応に対して、ルーフェルは恥ずかしそうに照れながらも、笑顔で手を振っていた。そして、魔王軍の者達も誇らしげな顔をしながら、彼女と一緒に手を振り返す。
こうして、魔王軍にとって痛ましい犠牲が多く出たが、同時に歴史的な勝利を得たことでルーフェルは牛達の名と共に、魔界の歴史に名を残すことになったのであった。
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