第12話 勝利
前回のあらすじ
牛達の決死の突撃が奇跡を起こして、人間達は信仰の問題から総崩れしたのであった。
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「デスサンダーハリケーン!!!」
デスバインが角から雷を出しながら、手に持った大鎌を頭上で竜巻のように振るうと刃の風と雷が無数に吹き荒れて、周囲の人間達は次々と斬り刻まれていく。
「デスブレイドウェーブ!!!」
デスルドも両手に握った禍々しい形状をした剣を振るうと、巨大な魔力の光波が地面をえぐり取りながら前進していき、進行上にいる人間達を薙ぎ払っていく。
牛達の突進で混乱して敗走する敵軍を、老将二人の怒涛の攻撃と追撃部隊が襲い掛かっていた。
それにより、人間達の混乱に拍車がかかり、被害が増していく。
その頃、人間達の陣形を左翼まで横断した牛達は、この状況に戸惑っていた。
人間からの反撃もなく、進行方向にいた人間達は自分達から進路を開けるように離散したために、牛達は人間とは誰一人戦っていないし体当たりではねてもいない。結果的に、ただ横切っただけとなった。
そのため「モーモー?」と不思議がりながら、逃げる人間達とそれを追撃するデスバイン達
「深追いはするな! “追い詰められたイビルラットは、イビルキャットを噛む”というからな!」
老将達は、逃げる人間達を追いかけようとする部下達を引き止める。
既にこの追撃戦で人間側に2000人の被害を出しており、これ以上の追撃は不要と判断したからだ。
その理由は相手には、まだ約8000人は残っているので、態勢を建て直されて反撃されれば500人程度の
何より、今までの戦闘で老将を含めた部隊の隊員は、既に魔力と体力をかなり消耗しているので、継戦能力も低いと判断したからだ。
「奴らが戻ってくるかもしれん。警戒しつつ負傷者の応急処置をしろ。その後、我らも後退して本隊と合流する!」
老将の指示の元、部下の隊員たちは負傷兵達の看護と護衛に、回ることになった。
そこに、右方向から牛に乗ったルーフェル達がやって来る。
「牛さん達~~~!!!」
ルーフェルが涙目でそう叫びながら、近づいてくるとそれに気付いた牛達も「モ~! モ~!(御主人様~!)」と鳴きながら、同じく涙目で駆け寄っていく。
「よかったよ~ みんな無事でよかったよ~」
「モ~ モ~(御主人様~)」
牛達が近づくとルーフェル等は牛から降りて、牛達に抱きつき涙を流しながら無事に再会できた事を喜ぶ。そして、牛達もそんな彼女達に嬉しそうに頭を擦り寄せる。
「私は心配なんて、全然してなかったんだからね! だって、アンタ達が私を置いていくから、私が活躍しそこねたんだもん! ……でも、無事で良かったわ~!」
最初はツンデレキャラを維持しようとしていたアイシャであったが、目に涙を浮かべながら牛達に歩み寄り抱きつくと、我慢できずに牛達の背中を何度も撫でた。
「無事でよかったです」
ベルルも牛達に近づき、その大きな体に優しく触れる。
すると、牛達は彼女達にも「モ~ モ~」と鳴いて甘えてきた。
彼女達がお互いの無事の再会に感極まっていると、デスバインがルーフェルに話しかけてくる。
「ルーフェルにアイシャ、それにベルルまで来ておったのか…」
デスバインは、幼いベルルまで危険な戦場に来ていることに驚く。
「お祖父様、ご無事だったんですね! よかった~」
ルーフェルは祖父に会えたことに安堵の表情を浮かべるが、祖父はそんなルーフェルに頼み事をしてきた。
「ルーフェル、牛達に負傷兵の運搬を手伝って欲しいのだが頼めるか? 正直、ワシらはそろそろ限界でな。このままだと途中で、我らが倒れてしまうやもしれんのだ」
デスバインはそう言って苦笑いするが、彼の顔には疲労の色が見える。
無理もない話で、彼らは先程まで休むことなく戦い続けていたのだから。
「牛さん達に聞いてみます。みんな~ 運べそう?」
「モーモー!(御主人様、おまかせください!)」
牛達は元気よく鳴き声を上げる。
「大丈夫だって!」
「そうか、助かるぞ。では、頼む!」
デスバインはそう言うと他の兵士達に指示を出して、応急処置した負傷者達を牛に乗せて運んでいく。
「公爵様! 人間達も助けるんですか!?」
アイシャは驚きながら、デスバインに尋ねる。牛達が運ぶ負傷者の中に、人間の姿を見たからだ。
「ああ、そうだ。彼等は敵ではあるが戦いが終わった以上、見捨てるわけにもいかんからな。それに、我々がここで人間達を見殺しにすれば、それは後々に禍根を残す事になるだろう。それならば、恩を売っておいたほうがいいからな。それに― 」
「それに捕虜にすれば、あとで情報を引き出すこともできますし、次の戦いでこちらの負傷者の手当も期待できます」
デスバインの言葉を遮るように、ベルルは淡々と答えた。
「流石はベルルだな。アイシャも武術の鍛錬も良いが、もう少し学問も学んだほうが良いぞ」
「ううっ 精進します…」
デスバインにそう言われて、アイシャは自分の考えの浅さを恥じて、顔を真っ赤にさせる。
「よし、我らもバルバッド丘陵に向かうぞ」
負傷者の応急処置を終えた一同は、本隊のいるバルバッド丘陵に向けて移動を開始させ、その道中でデスバインはルーフェルに質問をしてきた。
「ところで、ルーフェル。この牛達の角には刃物、尻尾には火が取り付けられていたようだが、これはお前が考えたのか?」
「違うよ~。これは、ベルルちゃんが考えたんだよ~」
ルーフェルは、デスバインの問いに笑顔でそう答えた。
「そうなのか?」
「はい。僭越ながら、わたくしが策を弄しました」
ベルルは遠慮がちにそう返事をすると、”モーモーファイヤーの計(火牛計)”の説明を行う。
「なるほど… 確かに、夜襲で使えば、相手に大混乱を起こせるだろう。しかし、こんな複雑な作戦を、まだ子供であるベルルが立てたとは…。学問好きの才のある子だと思っていたが、ここまでとはな」
公爵は感心しながら、ベルルに微笑む。
「あ、ありがとうございます」
ベルルはデスバインに褒められて、照れながら頭を下げるとせっかく向こうから話しかけてきてくれたので、祖父の安否を尋ねることにした。
「あの… 公爵様… 祖父は無事でしょうか?」
「ん? デスセバスチャンなら、伝令役として本隊に向かわせてあるから、心配はいらんよ」
「そうですか。よかった」
ベルルは祖父が無事だと知り、ほっと胸を撫で下ろす。
すると、前方より土煙をあげながら、馬と複数人の地面が唸るような足音が近づいてきた。
それはドルーク・デモンラウスが率いる援軍部隊であり、先頭にはドルークでその側には彼の副官が控えている。彼の援軍部隊は、サターナの牛達突撃の報告を受けた魔王の命令で、慌てて援軍に来たのだ。
「援軍ご苦労。だが、敵は潰走状態で撤退しておる。追撃はせずに、予定通りバルバッド丘陵で様子を見たほうがよいだろう」
デスルドは、自分達のところまでやって来たドルークと副官に労いの言葉をかけると、彼等に現状報告を行う。
「そうですか。流石は元四天王のお二人ですな」
「我らだけの力ではない。いや、むしろこの者達の命を懸けた突撃のおかげだ」
ドルークは二人の功績に感嘆の声をあげると、デスバインがルーフェル達と牛達のおかげだと答える。
「も~ も~」
褒められて牛達も嬉しそうに鳴く。
「この牛達が…… ルーフェル様達の策が上手くいったということですか…」
サターナからこの策を聞かされた時、魔王と彼は正直上手くいくとは考えていなかった。
視界の利かない夜襲ならまだしも、昼まではあの人間達の飛び道具の前では、蜂の巣にされると予想していたからで、そのため慌てて救援に来たのだ。
そして、その予想は正しいもので、本来ならそうなっていたであろう。
今回の件が特殊なだけである。
「ルーフェル様とベルル嬢…… あとアイシャは無事でしょうか?」
ドレークは魔王から、ルーフェルの安否を確認するように指示を受けており、アイシャの名前を最後に出したのは、公私混同を避けるために聞かないつもりであったが、親心からつい口に出てしまったのだ。
「安心しろ。皆、無事だ。もちろんご息女もな」
「そうですか。それは良かった」
ドレークもそう言って、安堵の表情を浮かべるが、すぐに真剣な顔つきに戻る。
「それでは、我らは列の最後尾について、敵の追撃に備えます」
「うむ、そうしてくれると助かる。正直、今の我にはこれ以上の余力はないからな」
デスルドがそう答えるとドルーク達は、老将達に一例すると後方へと下がっていき、彼らの護衛に付く。そして、斥候を出して人間達の動向も探らせる。
その移動の途中、ドルークは娘をチラ見するが、声を掛けることはなかった。
アイシャも父親の視線を感じたのか、一度だけ目を合わすと、彼女は無言で小さく頭を下げる。ドレークは娘のそんな態度を見て、何か言いたい気持ちになるがグッと堪えて黙って前を見据えると、部下を率いてそのまま進む。
こうして、一同は本隊が布陣するバルバッド丘陵へ移動を続けた。
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