きんいろ【KAC2023/ぐちゃぐちゃ】

湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)

第1話




 やっと買ってもらえた24色セットの色鉛筆をランドセルに入れた。

 今日の休み時間はこれで絵を描くんだ!

 そんなことを考えていると勝手に口が笑うし、勝手に足が弾む。

 今ならどこまでも走れる気がする。


 色鉛筆見たさであたしの周りに人が集まった。ちょっと心がむず痒くなる。

「いいなぁ」

「その色貸してよ」

 みんなのは12色しかないから、あたししか持っていない色が12色もあった。

 ――えっへん! あたしの色鉛筆、すごいでしょ!

 心の中でニヤニヤしながら、大人ぶってホイホイ貸した。

 でも、途中で「あれ?」って思った。

 まるで、あたしの色鉛筆じゃないみたいって思ったんだ。

 

 あれを貸して、これを貸して。

 気づいたら、削らないといけないほどに芯が減っていたりしてた。

 買ったばっかりだったはずの色鉛筆はたったの1日ででこぼこになった。

 綺麗な虹みたいに並んでいたはずなのに、みんな適当に戻すから虹は消えてなくなった。


「あれ、きんいろ、ない……」


 迷子のきんいろを探したけれど、全然見つからない。

 貸してあげた子たちは知らん顔。

 先生に相談したら、みんなに「見つけたら教えてね」と言ってくれたけど、あたしの元に戻ってこなかった。


「24色なんて、持ってくるのが悪いんだい」

 名前を書く白いところが削り落とされたきんいろの鉛筆を振り回しながら、クラスメイトがケラケラ笑った。

 もう二度と誰かに物を貸したくないって、そのケラケラを見ながら思った。


 あたしの心はあの時壊れた。

 それから、きんいろの色鉛筆を見るのも嫌になった。


「ごめん。その色鉛筆、取ってくれない?」

 友人が落としてしまったきんいろを見つめた。ぐちゃぐちゃの心を抑えつけて、そっと掴む。

「ねぇ。サキの絵、ここにきんいろ重ねたら綺麗だと思うよ」

「え?」

「それ、使って」

 躊躇うことなく物を貸す友人のあたたかさに泣きながら、あたしは久しぶりにきんいろを走らせた。



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きんいろ【KAC2023/ぐちゃぐちゃ】 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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