犯人は猫と妹と

石動なつめ

第1話


「うわぁ……」


 ぐちゃぐちゃになった部屋を見た瞬間、僕は大きなため息を吐いた。

 この間の休みに本棚に綺麗に並べた本は床に落ちて散らかっているし、テーブルの上に置いてあったキャンディーの瓶は倒れて中身が散乱している。

 まるで空き巣にでも入られたかのようなこの惨状。

 その原因・・は今、部屋の端っこのカーテンの向こうに隠れて、こちらの様子を盗み見ている。


 カーテンの隙間から見える白い足。時折覗かせるふわっふわの尻尾。

 そう、この惨状の犯人は我が家の猫である。

 どうやら僕の可愛い家族は、何かに驚いて部屋の中を飛び回っていたようだ。

 けれどもあまりにぐちゃぐちゃ過ぎて、何でそうなったのかは分からない。

 猫の方を見ていると、ちょこん、とカーテンの隙間から顔だけ覗かせて来た。

 くっそ可愛い。

 こいつは自分の可愛さの使い方を良く分かっている。


 犯人はうちの猫。そこは確かだ。

 しかし原因は何か。僕は考えながら部屋をぐるりと見回す。

 するとソファーの後ろに気配を感じた。

 

 そろそろと足音を忍ばせて近づくと、そこには僕の妹が膝を抱えて隠れていた。

 僕に気付いた妹は顔を上げるが、すぐにサッと視線を逸らす。

 原因はたぶん妹だ。直観的に僕はそう思った。


 顔を逸らしだんまりを決め込む妹を、僕はじっと見下ろす。

 そうしていると、妹が何かを握っている事に気が付いた。

 ゴムボールだ。投げるとものすごくよく跳ねるゴムの玩具である。

 うちの猫はこれで遊ぶのが大好きだ。

 ははーん、と僕は理解した。


「マロと遊んだ?」

「黙秘します」

「ゴムボール投げた?」

「黙秘します」

「部屋すごいけど」

「黙秘したい」


 最後には希望が口から出ていた。黙秘したいじゃないんだが。


「あと一時間くらいで母さん帰ってくるよ」

「あう……」

「めちゃめちゃ怒られるよ」

「あうう……」


 妹はだらだらと冷や汗をかいている。

 あまりの惨状にどうして良いか分からなくなったのだろう。

 仕方のない妹である。


「黙秘しないなら片付けるの手伝ってあげる」

「本当!? ありがとうお兄ちゃん、大好き!」


 僕が助け船を出すと、妹は手のひらを返して笑顔を見せてくれた。

 妹も猫も本当に、自分の可愛さをよく分かっている。

 あざとい、あざといぞ。

 けれどもそのあざとさに僕はとても弱かったりする。


「それじゃあ、何があったか話してね」

「うん! 事の発端は、図書館で読んだ織田信長の本なの――――」


 戦国武将と猫とゴムボール。ミスマッチにもほどがある。

 そんな妹の話を聞きながら僕は、部屋の片づけを始めたのだった。

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犯人は猫と妹と 石動なつめ @natsume_isurugi

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