悪魔の家【KAC20233】

あきのりんご

悪魔の家

 私は自他ともに認めるきれい好き。

 片づけと掃除が大好きだ。

 家の中は埃ひとつ逃さずきれいに掃除するし、フローリングは定期的にワックスもかける。

 水まわりだって使用後はきれいに拭き取り、水一滴たりとも残さない。

 シンクも浴室もいつだってピカピカ。


 部屋がきれいに片付いているからよく誤解されるけど、私はミニマリストというわけではない。

 それなりに物はあるのだ。趣味の本棚だってあるし、ゲームだってある。

 ただ、うまく工夫して片づけてあるからすっきりして見える。

 もちろん必要かどうかを見極めて、必要なものはしっかり買う。

 心配性だから物置は消耗品のストックでいっぱいだ。


 そんな我が家がいま、荒れ果てている。

 こればかりはどうにもならない。

 我が家にはいま、悪魔がいるのだ。

 悪魔は我が物顔で家中を這いまわる。

 腹が減っては泣いて暴れ、腹いっぱいになればまた動き出して吐しゃ物をまき散らす。

 箱にしまったおもちゃは全部ひっくり返さないと気が済まない。

 片づけた端からばらまかれる。

 なんだろう、あれに似ている。

 賽の河原で積み上げた小石の塔が、あと一つで完成というところで地獄の鬼たちに壊されて最初からやり直しを喰らうような感じ。

 絶望しかない。

 私は授乳と寝不足と、家が片付かないストレスでいっぱいだ。


 少し目を離した隙に、悪魔はティッシュペーパーを箱から一枚一枚取り出して引き裂き、ばら撒いていた。

 妙に量が多いと思ったら、空箱が二つも転がっていた。


 ああ、家の中がぐちゃぐちゃだ。

 耐えられない。

 それでも腹が減ったと泣き叫ぶ悪魔の腹を満たしてやらなきゃいけない。

 疲れた体をなんとか起こし、台所でお湯を沸かしてミルクを入れる。


 悪魔を抱き上げ、ミルクを飲ませる。

 ごくごくごく。

 あっという間にミルクを平らげると、私を見てにっこりと微笑んだ。


 こ、この悪魔……いや、天使め。

 これからも世話してやるんだからっ。

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