『にくたろう』
ハマハマ
君は知っているか
君は知っているか? 寡聞にして僕は知らない。
こんな時にどう言えば良いのかを。
理学療法士の可愛い妻、運動神経は悪いがやけに成績の良い長男、ぬいぐるみのネーミングセンスがとんがった元気ハツラツの次男坊。
そしてニッチな機械の設計整備を生業としながら趣味で小説を書く僕。
すこぶる幸せな日々を送る中、事件は起こった。
次男坊が国語の授業で書いた物語が賞を取ったんだ。
――『ももたろう』みたいな◯◯たろうを主人公に据えてお話を作ってみましょう――
彼の書いた物語のタイトルは『にくたろう』。
おばあさんが道で拾った肉から産まれた男の子は『にくたろう』と名付けられてすくすくと育ち、そして大食い大会に出場。
大会で出会った『ぎょうざたろう』『からあげたろう』と仲良くなりつつも優勝する物語。
僕も読んだ。
内容はとっちらかってぐちゃぐちゃだ。けれどはっきり言ってめちゃくちゃに面白かった。天才だと思った。
そう思ったのは僕だけじゃなかった。
これに担任がいたく感激し、市のコンクールへ。
さらに県へ、国へ。
次男坊は誰もが知る作家になった。
にくたろうは書籍化され、重版に重版を重ね、二巻三巻と出版され続けた。にくたろうは売れに売れた。
次男坊が描いた落書きのような挿し絵も入れられる様になり、『いつか怪傑ゾ◯リを抜いてギネスに乗るだろう、何せ作者が若い』などと言われる様になる。
…………最初は良かった。
次男坊の才能が認められて僕も妻も長男も喜んだ。
唸るほどの金も入ってきた。
けれど次男坊は言ってはならない言葉を吐いた。
『おとうさんが書いてるの、一円にもなってないの?』
カク◯ムさんからリワード貰ってるわい、などとは口が裂けても言えなかった。僕の心はぐっちゃぐちゃのぼろ雑巾。
僕には『にくたろう』を超えるものは書けない……
僕は筆を折った……
「おとーさんおとーさんおとーさん! 起きろー!」
うるさいな。僕は眠いんだ、放っておいてくれ。
「……くそ、心だけじゃない、体も寝汗でぐちゃぐちゃだ」
「バドミントンする約束ー!」
「……? バドミントン……?」
ふん、売れっ子小学生作家さまにはバドミントンなんてしてる暇はないだろう。
「そんな事より『にくたろう』の続き書かなくていいのか?」
「……? おかーさーん! おとーさんがなんかへーん!」
……? にくたろうは……僕の、夢――?
僕はニヤリと笑った。
これは勝てる。
こんな時になんて言えば良いんだろうな。
そして自分で書いた『にくたろう』をカク◯ムさんで公開した。
結果は――――
まぁ、ちょっと読んで貰えた。
そんなもんだと思ってた。
『にくたろう』 ハマハマ @hamahamanji
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