見知らぬ写真

冬野瞠

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「ん? なんだこりゃ」


 に気がついたのは、就寝前にスマホの写真フォルダをなんとはなしに眺めている時だった。

 見覚えのない写真が保存されている。何が写っているかも分からない。無理やり文字に置き換えれば、肌色と茶色と極彩色の赤がマーブル状になったぐちゃぐちゃ、といったところか。元の画像があって、後からめちゃくちゃに乱したような印象だ。

 Exif情報を確認してみると日付もおかしい。今日から二ヶ月後に撮られたことになっている。何らかのバグだろうか。

 気持ち悪いし消去してもよかったのだが、その写真を見ているとなにやらざわざわと胸騒ぎがして気にかかる。俺は日を改めて、デジタル分野に詳しい友人に相談してみることにした。

 PCで通話しながら、謎の写真について説明する。


「……ってわけで、何が写ってるのか気になってさ。こういうのって復元とかできるもんなのかな?」

『その写真のデータ、こっちに送ってくれるか? やってみるから』


 話が早くて助かる。友人のPCのアドレスにくだんの写真を送信すると、相手はさっそく画面の向こうで何やら操作しているようだ。


『ああ、これならすぐ復元できそうだよ。ちょっと待ってな。プロパティはバグじゃなさそうなのが気になるけど……。お、もう完了し』


 友人は最後まで言うことができなかった。顔を一瞬で青ざめさせ、口元を手で覆う。うぷ、という音に続き、びちゃびちゃという嘔吐の音がヘッドホンから直接耳管に注ぎ込まれる。


「お、おい、大丈夫か!? 復元はできたのか?」

『お前は見ない方がいい』


 友人は蒼白な表情で呻くように言う。

 そんなことを言われたら、余計気になるではないか。


「見せてくれ。頼む。元はと言えば俺の問題なんだから」

『……本当にいいんだな』


 友人はPCをいくらか弄ったかと思うと、いきなり接続を切った。いつも穏やかな彼らしくない振る舞いにびくりとする。

 復元されたらしい写真がこちらのアドレスに届いていた。

 ――何を緊張してるんだよ、俺。ただの写真だろ。

 浅くなる呼吸を抑えて写真を開く。そして一瞬で後悔する。


 それは、頭部の鼻から上がミンチ状になった俺のバストアップ写真だった。


 これで息があるわけがない。俺は自身の死体を見ているのだ。どんなにめちゃくちゃになろうが、毎日鏡で見る自分を見間違えるはずがない。やや薄い唇、口の右下のほくろ、お気に入りの服、どう見てもこれは俺だ。

 つまり俺は、二ヶ月後に頭の中身をぐちゃぐちゃにぶちまけて死ぬってことなのか。

 こらえきれず、胃の中身をげえげえと戻す。消化中のかつて食べ物だったものは、復元前の邪悪な写真の色彩に似ていた。

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