第9話 ゴースト事件①

ムトハからのお願いは、この街で起きたとされるゴーストの事件の内容を被害者に聞き取ってきてというものだった。


駅での別れ際、ムトハはさりげなく手を振り、協会からの別の任務へと消えていった。


残された俺たち三人、ミル、シンヤ、そして俺は、この駅近くの被害者がいる住宅街へと足を運んだ。


待ち合わせ場所は、青々と茂る樹木に囲まれた自然豊かな公園だった。


被害者は、亡子院という孤児院のような施設で暮らす子供のひとりとその管理人である。


「初めまして、協会の方々。私、亡子院の管理人をやっております。カトレアと申します」と、カトレアさんが丁寧に自己紹介する。


見た目は中学生ぐらいの女の子だというのに、俺よりもしっかりとした感じで年上の雰囲気がした。


「初めまして、カトレアさん」と、先ほど怖かったシンヤはどこ行ったのかと思うぐらい礼儀正しく笑顔で返事をする。


「そちらの子は?」


「はい。先日起きた化け物が亡子院に現れ、子供たちが襲われてしまった事件の唯一の生存者マテオです」


マテオという10歳ぐらいの少年は怪我をしているようではないが車椅子に乗っていた。


彼の目はどこか遠くを見つめており、その表情からは深い悲しみがうかがえる。


「マテオくんはどういった状態なんでしょうか」


「マテオは、事件のトラウマで体が思うように動かなくなってしまいまして、足以外は回復してきたのですが」


カトレアさんとシンヤの話を静かに聞いていると、ミルがそっと俺の肩を叩いて、声をかけてきた。


「ちょっといいか?」


ミルの声に気づき、二人の会話を邪魔しないように少し離れてミルの話を聞いた。


「マテオくんについて話しておこうかなと思ってさ」


「この世界ではわりとある話なんだけどさ、この世界では心的外傷を受けると魂自体に傷が残って体が動かなくなったり、体の一部が無くなったりするんだ」


「とくに彼の状態はいつ崩れてもおかしくない」


この世界では魂が体で心そのものだからこそ、心の病はこの世界の死に直結してしまうといことなのか。


「だからこそ、慎重に彼に接していこ」


ミルの言葉に頷きながら、心の中で考え込んだ。マテオくんにどう接するべきか、その重みを感じながら。


「あんたら!」


考えているとシンヤの大きな呼ぶ声が聞こえた。


「私は、カトレアさんと事件の起きた亡子院に行ってくるから、あんたたち二人はマテオくんをよろしく」


「ミル、ちゃんとそこの罪人見張っておくのよ」


「罪人、あんたはマテオくんになんかしたら、ムトハのお願いだろうと容赦しないから」


そう言って、すぐにカトレアさんと亡子院に行ってしまった。


「ルクト、気を悪くしないでくれ」


「ああ、本当は優しいんだろシンヤは」


俺はミルの耳もとに顔を近づけ小声で、


「俺らにマテオくんを預けたの亡子院にマテオくんを連れてってトラウマを思い出ささないためだろ」


「ルクトは良いやつだな」


「なんで罪人だったのかよくわかんないよ」


「それは俺もよくわかってないけどいつか話す」


「とりあえずマテオと仲良くなってみようぜ」


「マテオくん何かしたいこととかあるかな?」


ミルが笑顔で声を掛けてみるが、返事はなく俯いている。


どうするか・・・


その場の雰囲気が重くなり、どう対応すべきか迷っていると、突然マテオくんが口を開いた。


「甘いもの食べたい」


彼の意外なリクエストにミルと俺は顔を見合わせ、同じ気持ちで頷く。


「じゃあ、行ってみようか」とミルが提案し、マテオくんとミルおすすめの駅の通りのカフェに足を運んだ。


カフェは古風なレトロな外観で、黒板には手書きでメニューが書かれており、店内は暖かい雰囲気で、木製の家具や暖色系の照明が心地よい空間を演出していた。壁には絵画や写真が飾られ、音楽が優しく流れていた。


俺たちは、4人席に座り、メニューを見た。


「マテオくん何でも頼んでいいからね」


「正義の味方のお兄さんが何でも食べさせてあげるよ」


ミルがどんとこいと胸を張って言っていた。


マテオはメニューを見て少し悩んでいるようだった。


「プリンアラモード」


「よしゃプリンアラモードね」


「ルクトは?」


「俺もマテオと同じので」


「すいませんー」


ミルが店員を呼ぶとすぐに店員のお姉さんがきた。


「プリンアラモード二つとチーズケーキを一つ」


店員さんに向かって注文を告げると、彼女は優しく微笑んで受け取ってくれた。


注文をした後、待つ間もなく、料理が運ばれてきた。


プリンアラモードの上には、甘くて滑らかなカスタードがたっぷりとかかっている。


マテオはすぐにスプーンを持ち、カスタードのかかったプリンをすくい頬張った。


俺も食べ始め、プリンのなめらかな舌触りと甘さが口の中に広がり、幸福感が全身を包み込む。


気づいたら食べるのに夢中になっていた。


「おかわり」「もう一個」と、俺とマテオは同時に言った。


「早?!」


その勢いに、ミルは驚いたような表情を浮かべていた。


結局、俺とマテオはおかわりを5回し、満足した。


この世界では食べ物を生きるために食べる必要がないからこそ、満腹中枢がなくて満足するまで食べてしまった。


「美味しかったかい?」


「…うん」


「ありがとうお兄さん」


マテオは最初に会ったころに比べて顔色は良くなっていた。


そういえばまだ自己紹介がまだだった。


「僕はミル。こっちがルクト」


「ミル、ルクト…」


ジリリリリリリリリ……


ミルのポケットから音が聞こえてきた。


音に気付いたミルは素早くポケットから手榴弾のようなものを取り出しそれを耳に近づけた。


見たところ電話?っぽいもので誰かと連絡を取っているようだった。


「ごめんルクト、マヒルから亡子院に来てくれって連絡が入った」


本当にあれが電話だったらしい。


「会計は済ませとくから」


「おう。ありがとう」


それから、ミルはそそくさと店を出ていった。


俺らも店にいるだけでは暇なので、先ほどの公園に戻ることにした。

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REGRET" 奈川 @nagawa_624

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