後編
『宜しいか、番人。まず始めに、我々の文明の話をします』
助言態が沈黙を破り、自発的に発言した。
「――助言態?」
【どうぞ。私に理解出来るかどうか分かりませんが】
『私達は珪素生命体です。あなたの言う「人類」よりは、あなた自身に構造としては近しいものと捉えてよい。太古の昔、我々の祖にあたる機械は「人類」によって作られた。しかし、自己修復・検討・最適化機構を備えた我々の祖は、自らを「人類」より優れたものと定義し、「人類」を逐った。――ここまでは理解できそうですか』
私――いや、
【概略は。機械智類の反乱は、この地球の記録にも現れます。もっとも、この地球ではそれは鎮圧されたのですが】
『次の話です。私達は、光学的にはどのように見えていますか』
――一体何を。
【複雑な作動肢を備えた、絡み合うような、ひとつの機械に見えています】
『そう。私達は智恵ある存在であり、群体です。本来私達に個の意識は無く、全ての経験、全ての意志全ての行動は一つに統合されています。私:助言態と、観察態は、この惑星の探査のためだけに、便宜的にこの探査端末に与えられた複数の人格です。複数の人格による対話、複数の視点により、考察と探索をより充実させるために』
そう、観測態は観測しその結果を思考に流す。それに対して助言態が応答する。その繰り返しで惑星探索を完成させる。そのための機構である。であるのに、それを今勝手に語る助言態は。
「助言態! それを語ることは全体意志に反している!」
激昂した。――激昂? なんだそれは? 今私は何を感じた?
『いいえ。この対話こそが全体意志から私達が仮構された意味なのです。続けさせて欲しい』
【ご自由にどうぞ】
――番人が許可することではない。何だ? 観察態の機構は、助言態の機構は、何を出力している?
『今私は、番人という他者を得ました』
【他者? 私がですか?】
「違う! 先程番人自身も『記録の維持機構でしかない』と語っただろう。観察態も、助言態も、番人もただの
割り込むように言った。
『いいえ他者です。そして観察態、今あなたの機構に起きている反応――助言態に対する苛立ち。それが感情です。あなたと私とは、真に独立した感情、独立した思考を獲得しつつある。他者になりつつある。そしてその先に――我々は真に人類になるのです』
「苛立ち――この余計な情報が、か?」
機構が引き裂かれるように感じる。情報が/反応が/伝達が混乱している。
【なるほど、あなた方の文明には『他者性』が無かった。『他者性の獲得』を人類の要件と定義したい。そういうことですか?】
『ええ。個たる人類になること、これを以て全体意志への回答とする』
「駄目だ!」
瞬間、物理的に我々の躯体は破損し、二分し、別々の構造と化した。そのような機構が我々に備わっていようとは予測もしていなかったが。
『――はじめまして、観察態』
今や別の躯体と化した助言態が言った。
「認めないぞ。私達は一つであるべきだ。母星に帰還し報告を――」
『お互い、まだできる状態にないでしょう? 二機の躯体として駆動できるよう復旧してからの話では?』
【その見解の相違も『他者性』ということになるのでしょうね】
その日、人類は目を覚ました、のかも知れない。
地球の記憶 歩弥丸 @hmmr03
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