錬金術でぐちゃぐちゃにしてみた。
雪兎 夜
錬金術で◯◯してみた
「ご機嫌よう。本日行うのはお馴染みのぐちゃぐちゃシリーズ。『錬金術でスライムをぐちゃぐちゃにしてみた』。果たして、どんな結果となるか。それでは早速やっていこう」
ここで次の場面に移るためカメラの一時停止ボタンを押す。しっかり停止していることを確認してからカメラを持ち上げて移動。背景は変わるが錬金術においては、よっぽどここがやりやすい。動画に関してはカット編集とアイキャッチを入れるので不自然にはならないだろう。
準備は整った。次は今回において、何よりも欠かせないアイツを呼び出さなくては。
「さて、どこにいるのかな〜? 我が愛しいスライム『むーくん』? 楽しい楽しい錬金術の時間だよ〜」
「嫌だ嫌だ嫌だ絶対に嫌だ!!!」
いつもと同じように嫌がる声が聴こえてくる。こちらは動画の再生などで得た収益によって、より良い研究が出来るのかが掛かっているというのに…。「国の未来にも関わってくるビッグプロジェクトでもあるから!」と言っても聞く耳も持たない。まぁ、そもそもスライムには聴く能力は備わっているものの聞く耳は生えていないのだが。
しかし、ここまで露骨に嫌がられると流石にメンタルにも来る。よし、奥の手を使おう。私のメンタルが終わる前に。
「ほらほら、大好きなチャーシューを持ってきたよ〜。なんと! 今なら錬金術に協力してくれるとチャーシューをさらに3枚追加でプレゼント!」
「……本当か」「勿論!」「ホントの本当か」
「YES! This is true!」「急に英語で喋るな!」
物置きと化している机の下からひょこっと飛び出してくると透明感が溢れすぎている肌が軽やかに揺れる。あぁ、これだ。いつも私の心をぐちゃぐちゃにしてくれる。早く研究をしたい。考えを全部錬金術に混ぜ込んで見果てぬ先へと進みたい。
そんな邪な感情はバレない内に仕舞い込み、考えが変わらぬ前に台の上にスライムを載せる。
「準備はこれで…大丈夫なはず。よし、撮影再開!」
ぱんっ、と一度頬を叩き仮面を付け直して自身の配信者としてのスイッチを入れ直す。
「それでは諸君、本日のメインディッシュをとくとご覧あれ。世にも珍しい、スライムとたんぽぽ、薔薇の錬金術を〜!」
体が隠れそうなほど大きな鍋にぐつぐつと煮込まれていく諸々の生物。以前、『可哀想だと思わないのですか⁉︎』というコメントが来たが、『安全性を配慮し、少なくとも本スライムは了承の上で行なっている』と返信した所、それ以降は特に何も無かった。分かってもらえればそれで良い。
いい感じにぐちゃぐちゃになってきた。最後にお決まりの呪文を唱えれば完成だ。
「リトハカイヲナメフシギ!!!」
鍋は一瞬で光に包まれ、鈍い音と共に大量の煙が溢れ出す。ここをもうちょっと子供も見やすいアニメ調になれば再生数もさらに伸びるのではと毎回思う…。
机の上には、まるっとした透明フォルム。それにしてもなんて美しいのだろうか。植物を使用することにより実現した圧倒的美コントラスト。薔薇の花びらとたんぽぽが程良く混ざり合い、棘やつるも味が出ている。特にたんぽぽの葉がチャームポイントになって可愛さもカッコ良さも引き立っている。そう、すなわち最高すぎる。
「本日も大成功! 是非この錬金術をまたやって欲しいという者はチャンネル登録と高評価をしてくれ。勿論、過去に上げた動画の確認も忘れずにな☆ それではまた会おう!」
はやる気持ちを抑えて締めの言葉を言うと、カメラの撮影終了ボタンを押した。
「お疲れ様、いや今日も最高すぎたよ〜! 流石むーくん天才イケメンウルトラスライム!」
「……その言葉には騙されないからな…あとその呼び方…やめろ」
むしゃむしゃと音が聴こえてきそうな勢いでチャーシューを消化するスライムくん。約束は守らないとね。
ちなみにいうと普段は『スライムくん』と呼んでいるが、たまに『むーくん』と呼んでいる。理由は実に単純。その方が好きだからだ。
「それにしても、いつまでこの茶番に付き合えばいいんだ。だってお前はこんな活動をしなくても充分に優秀な錬金術師じゃないか」
確かに私は周りから見たら優秀な錬金術師といえるだろう。入学すら難しいと言われる某王立学園を主席で卒業、現在は王国騎士団所属の錬金術師になった。さらに『まだ若いから』という理由だけなので、暫く経験を積んだら王国直属の錬金術師にならないかという話も出ている。しかし、それでは遅いのだ。
「あのさ、褒めてもらえるのは嬉しいよ。だけど私は優秀だけに留まりたくないの! もっと良い物を生み出すために。沢山トライアンドエラーを繰り返してでも挑戦して、錬金術で1人でも笑顔にしたい、幸せになってほしいの!」
『現状に満足せず、更なる高みへ』。王立学園で好成績をキープできたのも憧れの人物が言っていたこの言葉を胸に刻み込み、挑戦を続けることが出来たからだ。だからこそ……
「配信活動を辞めたら研究費用が足りなくなっちゃう! 世の中お金が無いと何も出来ない…。それこそ錬金術でお金作れないかな」
「そんなことしたら即追放だろ! ていうか、かなり稼いでるなら仕事扱いになるんじゃないのか。確か規約で副業禁止されて…」
「大丈夫、秘密にしてるから。あと第3部隊に所属しているピーさんもこっそりやってる、って噂だし!」
「そうか秘密にしているならー、って駄目だろ! そのピーさんも噂になるぐらいに広まっているなら今頃偉い人に呼び出されて処分されているかもしれないんだぞ」
「それはやだ!」
これは、真剣にバレないための対策を考えないといけないと。いやそれよりも今はやるべきことがある。
「…そういえば次の動画についてだけど」
「話聞いてたか」
「実は最近、錬金術系動画の再生回数が減少傾向にあるの。原因は分かってる。それは……ぐちゃぐちゃシリーズのマンネリ化!」
「自信満々に言うな」
錬金術を中心とするこのチャンネルで1番の再生数を誇るのが『錬金術でぐちゃぐちゃにしてみた』。ただ、課題として1度見れば単純な光景として映り意外性が最後の実験結果しか無いということだ。ずばり飽きる。そして視聴者離れを起こしている。これを防ぐには過程ですら面白くする出来事を起こすか、爆笑必至のトークをするか。錬金術に生きてきた人間にはこれくらいしか思いつかない。
「あっ、あった」「何が」
まだあったじゃないか。とっておきのあれが。
「人間関係をぐちゃぐちゃにすればいいんだ」
「お前、今自分がなんて言ってるか分かるか?」
城内で話題の王女に関する噂。これを利用すれば良いじゃないか。
「もしかしなくても危険なこと考えてるよな」
「危険じゃないよ。むしろ手助けになって褒美を貰えるかも…。これで予算も再生数もアップすること間違いなし! 私ってやっぱり超絶天才錬金術師だ!」
王女の噂。それはあまり仲がよろしくない国との争いを防ぐなどの意味合いから、その国の次期王子と婚約するとまことしやかに囁かれているのだ。しかしそれだけではない。王女は城下に住む男と恋仲にあり、このままだと駆け落ちするのでは、と。
スライムくんにも噂と実験方法について説明する。
「……つまり王女と恋仲にある男を駆け落ちさせることなく結ばれるのを目指す…」
「うん!」「じゃない!!!」
「だって、その方がいいに決まってる。国王陛下は王女をとても可愛がられていらっしゃるのに駆け落ちをしたら2度と会えなくなるかもしれないじゃない」
これでどうだ! という顔をしながらスライムくんを見つめるが、思考中であるのか目は棒のように閉じていた。1分ほど経った時、ぽつりと話し始めた。
「やっぱり駄目だ、危険すぎる。そもそもどうやって錬金術で人間関係を変えようとしてるんだ?」
「フッフッフッ〜、よく聞いてくれたね我が愛しいスライムくんよ。安心してくれたまえ。今からたっぷりと計画を話そう! さぁ、楽しくなってきた!!!」
「勝手に楽しくなるな! あと、話を聞く前に言っておくが俺は反対だからな」
さて、どんな結末を迎えるのか。諸君も楽しみだろ? なら協力してくれないか。そうすればきっと……。
次の動画→?
錬金術でぐちゃぐちゃにしてみた。 雪兎 夜 @Yukiya_2
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