部屋が汚いっす先輩……!

鬼影スパナ

第1話

「んー、ここがウチのアパート。ま、入ってー」

「せ、先輩の……お、お邪魔します!」


 大学の先輩と飲み会をした。人気者の彼女と飲むのはとても楽しく、そして、気づけば終電を逃していた。いや、本当は帰ろうと思えば歩いて帰れたのだけど、先輩の「じゃあウチくる?」という誘いにホイホイ付いてきてしまったのである。


 つまり、俺は今日、先輩にお持ち帰りされてしまったのだ……!


 初めての女子の部屋。それも憧れの先輩の。胸を高鳴らせた俺は、先輩に続いて部屋に入る。明かりのない暗い部屋。ふわりと、甘ったるい匂いがしたような気がした。いて、なんか硬いもの踏んだ。


「んしょっと」


 ぱちり、と部屋の明かりをつける先輩。その瞬間、俺の甘い恋心は吹っ飛んだ。


 先輩の部屋は電気をつけたにもかかわらずどこか薄暗くて、どこもかしこも物が散らばっていた。まず目に飛び込んできたのは洗濯物だった。白いTシャツや青いジーンズが床に散らばり、部屋中に衣服の山ができていた。あ、あれこのあいだ着てた服だ。

 洗濯物の山の横には、汚い食器が積み重なっていた。アイスのカップや、なにかスパゲッティでも載せていたであろう皿が、片付けられることなく放置されていたのだ。ひょっとして先ほどの甘い匂いはこれ?……あー、バニラアイスのカップぅー。スプーンくらい片付けてください……ッ!


 また、部屋の片隅には机があった。が、その上はノートや書類がぐちゃぐちゃに積まれていた。辞書やなにか英語の論文なども、机の上に散らばっていた。そして、机の下には、古ぼけたスリッパがあった。スリッパはもはやあきらめの表情を浮かべて転がっているようで、埃をかぶっているようだった……


 というか、床もね。ファッション雑誌にマンガ雑誌が転がっていて、あ、CDのケースも落ちている。危ない、踏みつぶしてしまう所だった。なんだこのチラシ……うん、要らないヤツ。ポストに突っ込まれている新聞の勧誘広告だな。靴下も脱ぎ捨てられ、床に落ちたままになっていた。ちょ、下着もある。さっき踏んだのって位置的にもしかしてあのブラ……!?


「テキトーにくつろいでいいよぉ」

「いやあの……」

「そこのソファーつかって。比較的キレーだから」


 そういう先輩。部屋の真ん中には、確かに大きなソファが置かれていた。その上には、汚れた枕と毛布が置かれ、それらの上には、本や漫画、むき出しのCDなどが散乱していた。……うーん、この。先輩は綺麗という言葉の定義を知らないのではなかろうか? いや、比較的、といっていたから知ってるには知ってるのかもしれない。


「先輩……掃除、しましょう」

「えー……後輩がおかーさんみたいなこと言い出した。やだ」


 その後、俺が先輩の部屋を何とか掃除したのだが、先輩は始終「うぇぇ……面倒くさい」と不機嫌な顔を浮かべていたのである。

 大学でのしっかりした雰囲気はどこに捨ててきたんですかぁ先輩……ッ!!

 

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