覆面バイシクラー

千求 麻也

解析! 覆面バイシクラー

「おのれ、覆面バイシクラー!」


 ヘル軍曹が悔しそうに壁を叩く。


「こら、壁を叩くな! ヘル軍曹よ!」


 首領がヘル軍曹を叱る。


 ここは世界征服を企む悪の軍団であるジェルボム団のアジトである。彼らは、改造手術を施した人間をモンスターとして使役していた。

 覆面バイシクラーはそんな改造手術を受けたが、逃亡して正義のヒーローとなった富岡つよしの変身後の姿である。


「あれさー、やめない? 倒されたモンスター爆破させるの」


 アジトの壁に埋め込まれたスピーカーから首領の言葉が発せられる。


「バラバラになった部品とか回収されて、解析されたりすんじゃん。それでアジト突き止められたりさー、ここも急造して移ってきたばっかだし。あいつ頭良いからなぁ……しかも、FBIにも拾われたりしてさー、ゴードンだっけ? バイシクラーと共闘したりして、あいつもウザいよねー」


「しからば、どのようにすれば……」


「テメーで考えろや! 大幹部だろうが!」


「は、ははー」


 ヘル軍曹は首領に声を荒げられ、ぐちゃぐちゃとした感情が込み上げてくる。


 ヘル軍曹は、モンスターを倒された場合の処理を頭の中がぐちゃぐちゃになるまで考えて、やっとのことで思いついた。


「首領! モンスターがやられた場合、ぐちゃぐちゃに溶けて原型を留めないという実験に成功しました! これで覆面バイシクラーにモンスターが倒されても解析されたりしないでしょう」


「良くやった、ヘル軍曹よ。では、新たなモンスターを覆面バイシクラーの元へ送り込め!」


 スピーカーの向こうで首領はマイクのスイッチを切った後、「まあ本当は倒されないのが一番なんだけど……」と呟いた。


 新たなモンスターはいつものように、覆面バイシクラーによって倒され、ぐちゃぐちゃになって土壌へと吸収されていった。


「くそー! ジェルボム団め! これでは倒したモンスターの手とか足を拾って解析出来ない!」


 覆面バイシクラーの変身を解いた富岡つよしは崖の上で悔しがった。しかし、知能指数がビックリするほど高い富岡は解析方法を閃いて、モンスターが溶けていった場所の土を持ち帰った。


「この土を左のトレーに入れて……カップ一杯の水を入れてぐちゃぐちゃにかき混ぜる……」


 本拠地である石橋サイクルに戻ってきた富岡は早速、土壌解析をしていた。


「どうしたつよし? なにか手伝うか?」


「あ、おやっさん! じゃあちょっとそこのシーラントを取って下さい」


 石橋サイクルのオーナーである石橋藤吉は、パンク修理用のシーラントを取ってきて富岡に渡そうとした。


「すみません、おやっさん。それをこの左のトレーに少しずつ入れていって下さい」


 石橋は言われた通りにし、富岡は左の四角いトレーに入った物質をさらにぐちゃぐちゃに練るように混ぜていった。


「練るぞー、練るぞー、練る練るぞー」


 富岡がそう言いながら練っていると、だんだんと左のトレーの物質に粘り気が出てきて伸びるようになってきた。


「よし、これを右のトレーに入っている粉々にした先週のモンスターの部品に付けて……」


「すごいぞつよし! どうなるんだ?」


 石橋が興味津々で富岡の作業を見守っていた。


「これで、モンスターが溶けていった土と、粉々になったモンスターの部品を混ぜ合わせ、新しい情報を抽出することができます」


 富岡が右のトレーを見つめる中、次第に何かが現れてきた。


「うーん、これは……」


「何か見つかったのか、つよし?」


 石橋は、富岡の肩越しに右のトレーを覗き込んだ。


「はい、これは……」


 富岡が指さす先には、なんと、ジェルボム団の新たな作戦の情報が書かれた紙があった。


「これはすごい! ジェルボム団の作戦情報が手に入ったんだな」


 石橋は、富岡の発見に興奮しながら、その情報をFBIのゴードンに伝えるための準備を始めた。


 そして、覆面バイシクラーはジェルボム団の新たな作戦を阻止することが出来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

覆面バイシクラー 千求 麻也 @chigumaya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ