真昼の大惨事

波津井りく

容疑者しかいない

 室内の惨状に苦い物を噛み締めつつ、帰宅した二人は明らかに物色された戸棚へと目をやった。


「凄まじい光景だな。何を求めて家探ししていたんだ?」


「マジでひっでぇな。たった数時間でこれだけ室内を荒らせるのかよ」


「まさか、リビング以外もこの有様なんじゃ……」


 ──その日の小岩井家は昼頃から家人が全員出払っており、夕方まで無人だった。留守を狙った犯行なのは明白。

 帰って来た小岩井家の長男と次男は、現場のリビングに入った瞬間、荒れ果てた室内に言葉を失った。


 無理もない、絨毯は捲れ上がり戸棚という戸棚が開けられ中を漁られている。

 おまけに観葉植物は斜めにかしぎ、カーテンには小さく並んだ穴、ティッシュペーパーが紙屑と化して撒き散らされていたのだから。


「……容疑者は三名、太郎、小町、大和。以上だ」


「特に大和には前科があるからな、最有力候補だわな」


「しかし小町もあれで中々、質が悪いだろう。気性が荒いところもある」


「太郎もなぁ。普段は大人しいのに、急にスイッチが入ったみたいになるよな」


「つまり全員容疑者のままか……」


「つーかさ、全員実行犯で共犯者じゃねぇの?」


「あり得る」


 二人は散らかった物を踏まないよう気を付けつつ、リビングの奥へと足を運んだ。

 ──読み通り、そこには三名の容疑者が息をひそめて丸くなっていた。


「こーらお前ら! なんでこんな悪戯したー!?」


「いい子でお留守番してろと言ったのに……めっ!」


 紀州犬の太郎、白猫の小町、雑種犬の大和は揃って『私は悪いことしてませんよ』とばかりに目を逸らした。完全に分かっているのだと思う。

 片付けるのはお前ら人間の仕事でしょと、ツンと澄まし顔しているのが憎らしくも可愛い。この暴れん坊ギャングめ。


 でもしばらくおやつにカリカリもちゅるるもやらん、と心に決めた小岩井兄弟だった。

 ペットと人間の攻防はいつの世も、ぐちゃぐちゃ現場と共にある。

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真昼の大惨事 波津井りく @11ecrit

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