とある少年の一日

沢田和早

とある少年の一日

 今日も少年は元気に登校していました。通学路にはゴミひとつ落ちていません。スッキリしています。


「ぐちゃぐちゃしている部分はないね、ヨシ!」


 右に曲がって公園の横道にさしかかりました。


「おっ、砂場がぐちゃぐちゃしているぞ」


 昨晩降った雨のせいでしょう。砂場の中央部が濡れてぐちゃぐちゃしています。少年は公園管理事務所の用具入れからスコップを持ち出して砂場をならしました。砂場はスッキリしました。


「ぐちゃぐちゃしている部分はないね、ヨシ!」


 大通りに出ました。少年は歩道橋を渡ります。隅っこに鉄サビ片が落ちています。


「ややっ、昨日に続いて今日もまたごちゃごちゃしているぞ」


 少年は鉄サビ片を拾って近くの不燃物回収所へ運びました。歩道橋はスッキリしました。


「ぐちゃぐちゃしている部分はないね、ヨシ!」


 少年は学校へ到着しました。時間が早いせいでしょうか、まだ誰も来ていません。用務員室からカギを持ち出して全ての教室をチェックします。東から西、一階から三階。どの教室もきちんと整理整頓されています。


「ぐちゃぐちゃしている部分はないね、ヨシ!」


 それから少年は自分の教室に戻り着席して授業が始まるのを待ちました。やがてチャイムが鳴りました。しかし先生はやって来ません。職員室へ行っても誰もいません。それどころか少年以外の生徒も誰一人姿を現しません。


「今日も誰も来ないのかあ。でもまあいいか。こんな狭い教室に大勢の人間が詰めかけたらぐちゃぐちゃになっちゃうからなあ。ボクだけならスッキリしているからこれはこれでヨシとしよう。うふふ」


 少年はぐちゃぐちゃになっていない教室を眺めて満面の笑みを浮かべました。

 やがて下校の時間になりました。ぐちゃぐちゃしていない学校を出た少年はぐちゃぐちゃしていない通学路を歩いて帰宅しました。今日もぐちゃぐちゃしていない一日を過ごせて少年は幸せでした。

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