もう、少し早く渡せていたら……
ゆりえる
チョコの行方は……
午前3時半を回った頃。
「やっと出来た~!」
私、才川そよかが中2にして初めて手作りした、バレンタインデー用のチョコ。
柚子の皮を細長く切って、ビターチョコをディップしただけのものだけど、我ながら、美味しそうに見栄えが良く出来たと思う!
来年は受験だし、こんな事する余裕が有るうちに、幼馴染みの道木優一に手渡して、これからは、同じ高校進学を目指して一緒に勉学に励むの!
優一の好きな緑色のラッピングして、このサイズなら、小さいし目立たないから、ポケットに入るし、双子の弟の優二にも見付からないで済みそう。
優一、喜んでくれるかな~?
「ふう~」
4時前か、少し眠れる。
6時まで二度寝しようっと。
………………
6時までのつもりが、気付いたら、7時過ぎていた!
寝癖を直す時間も無い!
「遅いぞ~!」
部活の朝練が無い日は、近所に住んでいる道木兄弟と私は、一緒に登校している。
「おはよう、そよか」
文句を言っている優二と違って、優一はいつでも笑顔を向けてくれる。
「おはよ~! ごめんね、ちょっと寝坊しちゃって……」
「そんなに遅れてないから、大丈夫だよ」
優一は優しくて、いつだって、私を責めたりしない。
「寝坊なんかしてるなよ~、大体、その寝癖頭は何だよ? 少しは、同じクラスの沼田さんの女らしさを見習えよ!」
交差点で、左方向から見えて来た沼田さんと私を見比べて言った優二。
いつもながら、なんて失礼な奴なんだろう!
何もあんな我が校のマドンナみたいな人と比べなくてもいいのに!
双子の兄弟なのに、優しくて紳士的な優一とは雲泥の差が有る!
でも、優二から、こんな嫌味を言われるのも、今日で最後なの!
残念ながら学校には、不用品持って来たらダメな事になっているから、持参出来なかったけど、今日は、下校後すぐ優一にチョコを届けるんだから!
晴れて優一と交際するようになった
………………
放課後、一人先に下校しようとした時、チョコを渡そうとしているような現場を発見!
チョコを学校に持って来たら、ダメな事になっているのに!
そこにいたのは、なんと、優二と沼田さん!
沼田さんが、優二を……?
なんて物好きな!
でも、相手が、優一じゃなくて優二で、ホッとした!
優一に渡していたら、私、勝ち目無さそうだもん!
優二なんかで良かったら、のし付けて差し上げます!
優一が他の女子に狙われないうちに、私も、早く戻ってチョコを渡さなきゃ!
校則違反を平気でしている女子が多かったら、律儀に守っていた私が、何だかバカみたい。
私のチョコなんて、ポケットに余裕で入るコンパクトサイズに仕上げたんだから!
………………
今日は部活も無いし、あの交差点を渡ったくらいで、ノンビリ下校する優一がやって来そう。
優二は、多分あの後、沼田さんと一緒に下校していそうな雰囲気だったし。
あと、もう少しって所だったのに……
交差点の出会い頭で、高速で走っている自転車が急に飛び出して来た!
ビックリし過ぎてコケて、歩道でお手付きしてしまった……
その時、手に持っていたチョコのラッピングがグチャグチャになってしまった。
こんな事になったのに、謝るどころか、自転車の人は、私に目もくれずに通り過ぎて行ったし……
校則を守って周りより出遅れるし、いきなり自転車が飛び出してくるし、何だか、踏んだり蹴ったりな感じ……
せっかくキレイにラッピング出来ていたのに……
でも、中身は大丈夫そうだし……
優一なら、きっと喜んで受け取ってくれるはず……
その優一が、予想通り、交差点を過ぎた辺りから、前方から現れた。
予想と違っていたのは、優一が、沼田さんと一緒にいた事……
どうして……?
さっき、その人、優二にチョコを渡そうとしていたのに……?
まさかと思うけど、優二を優一と間違えたの……?
そんな、二人の見分けがつなかいような人なんかに、優一と並んで歩く資格なんて無い!!
私だって……
校則なんて守らないで、チョコを学校に持参して、先に優一に手渡していたら、今頃、優一の隣にいたのは私のはずだったのに!!
……でも、そう思っているのは私だけなのかも知れない。
優一のあんな嬉しそうに、少し赤面しているような笑顔、今まで見た事無い……
今まで長い間一緒に行動していたのに、私に見せる表情とは全然違っているんだもん……
チョコのラッピングのように、グチャグチャに玉砕したような私の心……
「お~い、そよか! なんで、急にUターンするんだよ?」
優二だ!
よりによって、傷口をえぐって来そうな、一番見付かりたくない奴に見付かってしまった!
無視して、そのまま早歩きした。
「待てよ!」
優二に右手を掴まれて、持っていた緑色ラッピングのチョコを落とした。
「このチョコ、俺に?」
「違う! 自分用に作ったの!」
それがウソなのは、優二の目からは一目瞭然だよね。
私の好きな色は、ピンク。
優二の好きな色は、青。
そして、優一の好きな色が緑だから……
「ふ~ん、ひとつくらい味見させろよ」
ラッピングの破けている部分から、チョコのディップされた柚子の皮をひとつ食べた優二。
分かっている……
どうせ、優二の事だから、マズイってけなしてくるんでしょ?
「これ、旨いな~! そよかって、意外と器用なんだな~!」
なんで、優二なのに……今日に限って、褒めて来るの?
「お世辞で巻き上げようとしても、これは、私の分だから!」
言われ慣れない事を聞かされて、素直に受け止められない。
「いいよ、今年は。来年は、ちゃんと俺の分を作ってくれるなら」
優一と同じ顔して、そんな風に言われたら……
私のグチャグチャに壊れた心が、何だか、修復の兆しを感じられてしまう。
「うん、考えておくね」
受験生だっていうのに、来年のバレンタインデーには、青色のラッピングを用意する事になるのかな、私……?
【 了 】
もう、少し早く渡せていたら…… ゆりえる @yurieru
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