同級生たちともんじゃ食べながら話すだけ

サドガワイツキ

第1話

 大学生の頃はよく通った、大学近くのもんじゃ焼きの上手い飲み屋で、久しぶりに仲の良かった同級生の田中、山本と飲むことになった。


「久しぶりだな、田中、山本」


「ヌゥーフフフ、お久しぶりでござるよ佐藤氏~」


「田中は相変わらずその口調なんだな。あと佐藤、お前太ったか?」


 うっせーな太ってねーよと笑い合う。大学を卒業しても定期的に連絡を取り合う程度に仲が良い悪友たちは変わっていなかった。

 3人寄ればなんとやら、ではないけど3人であの頃と同じように鉄板を囲んで座る。

ぐちゃぐちゃともんじゃをこねながら大学を卒業してからの近況や会社の愚痴なんかを話して盛り上がた。

 ドロッとしたもんじゃが鉄板の上でジュウジュウと音を立てているのを眺めていると、山本がぽつり、と言った。


「前田さんの事は残念だったな」


 此処にはいない、俺達のサークルの仲間だった女……俺の幼馴染であり、大学の頃に俺を裏切った女だ。


「いいって。浮気されたのはショックだったけど、3年もたてば傷も風化するさ。縁も切れたし気にしてねーよ」


「今は収監されてるんだっけ」


「オォウ……ヤリサーテニサーでいけないものに染まってしまったのでござったな」


 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ。もんじゃをひっくり返す。


 俺の幼馴染で恋人でも会った前田は、大学に入ったころは俺とサブカル同好会で雑多に活動していた。

 しかし暫くしてヤリサーで有名なテニサーの先輩と浮気しているのが発覚して別れたのだ。長い付き合いだったのでショックも大きかったが、同好会の先輩やこいつらに支えられて立ち直ったので恩人でもある。

 サークルの先輩たちから、悪い事は言わないからあのサークルに関わったりしない方がいいと色々と悪い噂を教えてもらえたので俺は放置することが最適と理解して、そのままあいつと縁を切った。

 卒業間近になってテニサーに“違法なもの”が蔓延していて皆が“それ”の常習者になっていることが発覚し、軒並み停学・退学になり―――その中にはあいつもいた。

 様々なものを失ったあいつは学校を去る前に俺に謝罪とともに縋りに来たが、俺はにべもなく断った。今更関わりたいとも思わなかったし、関わって俺まで巻き込まれたくなかった。冷たいと思われるかもしれないがあくまで幼馴染で元恋人、でしかない。愛情もなくなった人間を後生抱えていけるほど俺は優しくないし、そんな義理もない。

 アイツの両親からは俺がいてアイツがどうしてこんな事になっているのかと俺に責任があるかのようにわめきたてていたのが不快だったが、すんだことだし今後あの一家に関わる事もないから過ぎた事だ。

 佐藤が言ったように、アイツは結局“それ”がやめられなくてまた再犯していたんだから目も当てられない。突き放して正解だったと思う。


「再犯でまた捕まる前、どこから調べたのか俺のところに来て金を貸してくれとか一晩幾らだとか佐藤の場所をきかれてよ、気味悪かったから警察呼んだら逃げてったわ。幽鬼かなにかみたいだったぜ」


 そう言って思い出してゲンナリしている山本。

 げっ、そうなのか。引っ越しておいてよかった、今はセキュリティしっかりしたタワマン住まいだから助かったぜ。


「ま、飯がマズくなる話題はここら辺にしておこうぜ。それよりお前らこそ女出来たのかよ」


「実は拙者結婚するでゴザルよ。お2人にもきてもらいたいでござる」


「「まじかよ?!?!」」


 一番結婚に縁遠そうな田中の言葉にハモる俺と山本。


「某、実はこう見えてめっちゃ股間の紳士がマグナムでござるよヤングメ~ン。拙者のマグナムにかかれば女子もメロメロでござる。結婚式ともなれば2人にも出会いもあるのではござらぬか?」


「なーにがマグナムじゃ。でも田中が結婚一番のりかぁ。ゴザル口調のぽっちゃりさんがなぁ」


「いや普段は普通にしゃべってるよ、社会人だし」


「急に普通の口調に戻るなよ!」


 ドゥフフフ、フォカヌポゥと笑う田中に苦笑しながら3人でまた乾杯した。

 呑みの場ってのは暗い話題より明るい話題に限る。あの女の事は捨て置いていけばいい。

 

うーむ、いい感じに焼けたもんじゃがうまい。

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同級生たちともんじゃ食べながら話すだけ サドガワイツキ @sadogawa_ituki

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