愚痴や愚痴や愚痴や愚痴
奇跡いのる
第1話
同窓会と呼ぶにはこぢんまりとしているが、中学時代の友人たちの飲み会が開かれることになった。
集まるのは数年ぶりだった。
僕たちはヒロシーズなんて名付けられていた。
片田舎の中学校の小さな学級に同じ名前が四人も同時に集まるのは運命的な気もして、妙に意気投合して仲良くなった。
佐藤博史は中学校の先生になっていた。
「最近の毒親たちは腐ってんのよ、とにかくね、アイツらは教師のことを馬鹿にしてんの」
お酒を飲み始めてすぐに愚痴をこぼし始める。よほどストレスが溜まっていたみたいだ。
「分かるわ」と相槌を打ったのは田中洋だった。
田中洋は佐藤博史が勤務する中学校の近くで、パン屋を営んでいる。その中学校には給食がないので、ベーカリー田中で昼食を購入していく学生も多くいる。
「へぇ、お前ら大変だなあ」
と感慨深げに酒を飲んでいるのが水巻宏。
一流企業の役員として成功を収めている。この飲み会に参加するのは珍しく、いつも彼のスケジュールが合わずに、ヒロシーズが全員集結することがなかったのだ。
僕は彼らの話を黙って聞いていた。
仕事の愚痴、上司の愚痴、家族の愚痴、様々な愚痴が飛び交っている。なるほど人生は色々だ。
「生、追加でみっつ」と宏が注文しようとして、
「広志の分もだからよっつな」と博史が横入りした。
「そうだよな、すまん」と宏が俯いた。
そもそも僕は下戸なので、ウーロン茶の方が嬉しいのだが、気遣いは素直に感謝したい。
「広志、なんで死んじまったんだろうな」
「ヒロシーズ、卒業してから結局一度も揃わなかったな」
僕はつい先日、交通事故でこの世を去ったばかりだ。身体はぐちゃぐちゃになった。
いや、正確にはまだ魂は去っていないが。
「もっとみんなで集まればよかったな」と宏は無念そうな顔で呟いた。
ヒロシーズの久しぶりの集結が、僕の死を悼む会になってしまった。死にたくなかった…それが僕の愚痴だ。
愚痴や愚痴や愚痴や愚痴 奇跡いのる @akiko_f
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます