ハンバーグに愛を込めて

スズヤ ケイ

手作りハンバーグ

 ぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。


 心を込めて、丁寧に丁寧に赤身肉をこねる。


 ぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。


 おいしくなーれ、と祈りを込めて。

 あの人がおいしく食べてくれますようにと願いを込めて。


 肉の味を引き立たせるために、余計な味付けはなし。


 小判型に整えて、いざ加熱。

 フライパンの上で、じゅうじゅうと食欲を誘う音色が踊る。


 うん、良い香り。これならあの人も気に入ってくれるはず。


 両面に焦げ目がほんのり付いたミディアムレアに仕上げて、お皿に盛り付ける。付け合わせはシンプルにフライドポテトと、にんじんのソテーにして出来上がり。


 早速トレーに乗せてダイニングテーブルへ運んで行く。


「あなた~、お待たせ。御夕飯出来たわよ」

「ひ、ひぃぃ……!」


 あら失礼しちゃう。


 椅子に縛り付けておいた夫が、私の顔を見るなり情けなく顔を歪めて呻いた。


「お、おれが悪かった! だからもう勘弁してくれ……!」

「何を言っているの? 違うでしょう? ご飯の時は頂きます、でしょ?」


 夫の目の前に料理を配膳しながら、私は苦笑したまま優しく諭す。


「せっかくあなたので作ったハンバーグなんだから、残さず食べて下さいね」


 夫の向かい側の席にとんと置いたものを見て、夫が絶叫を上げる。


「もう、大袈裟ね。不倫をするくらい大好きな子だったんでしょう? 首だけになったくらいでそんなに怖がっちゃ可哀想じゃないの。ねえ?」


 切り取った不倫相手の頭部を、私は優しく撫でた。


「ほら、メールにも食べちゃいたいくらい大好き、って書いてあるじゃない。彼女が見ている前で証明してあげて?」


 私は手にした夫のスマホ画面を見せ付けた。


「それは言葉のあやってやつで……!」

「もう、いい大人なんだから自分の言葉に責任を持ってよね。ほら、食べさせてあげるから。あーん」


 私は切り分けたハンバーグをフォークで刺すと、暴れる夫の頭を掴んで口一杯に詰め込んだ。

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ハンバーグに愛を込めて スズヤ ケイ @suzuya_kei

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